年輪を重ねることはそれなりに愉しい人生年輪を重ねることはそれなりに愉しい人生


ぴーぷるインタビュー Vol.12 話し方も、人生も、粋に、魅力的に ニュースキャスター・放送作家 桜林 美佐氏
人前で魅力的に話す秘訣とは?
朗読は“呼吸と間”がいのち
知的好奇心が旺盛で、粋な人が魅力的
ニュースキャスター、放送作家以外にも多彩な顔をもつ桜林さん。子どもの頃に描いた話芸の夢を、さまざまな形で現実にしている。そして話芸から広がる好奇心が、人の心を打つ話術へと彼女を導く。さまざまな出会いや経験から培われた魅力的な話し方のスキルと、生き生きと人生を愉しむノウハウをクローズアップする。
人前で魅力的に話す秘訣とは?

話す職業に就こうと思ったのはいつ頃ですか。

桜林氏(以下、敬称略): 幼い頃から近所に聞こえるほど声が大きく、おしゃべりが大好きでした。親にもよく冗談で、将来はしゃべる職業に就きなさいと言われていましたね。ニュースキャスターが主役の映画を小学校の頃に観て、自分でもピンときました。自分で取材して原稿を書き、それを読む仕事に就こうと。

私たちは大勢の前で話すだけで緊張してしまいますが・・・。

いつも爽やかに笑顔で話す桜林さん。それが女性キャスターには欠かせない魅力のひとつでもある。
桜林: プロの私たちでさえ、突然手が震えたり舌が回らなくなったり、突然そういう魔物が襲ってくるときがあります(笑)。そういうときに私は、丹田たんでんといわれる下腹部に力をいれて緊張を和らげるようにしています。不思議と緊張が解けてくるのです。
 いつも堂々と上手な話し方をしているベテランのアナウンサーでも前日にどうしようもなく不安で、街の占い師に相談していると本人から聞いたことがあります。どんな人でも緊張するものなのですね。話している最中に、話す内容を忘れたり、声が震えたりするという緊張は防ぎようがなく、慣れていくしか方法はありません。気を抜かないで話す緊張感は、むしろ必要なことです。

大勢の前で話すときに、緊張しても失敗しない工夫はありますか。

桜林: 話す内容を忘れてしまうからといって原稿を用意すると、読んでしまいますから避けたほうがいいです。でも緊張で話の順番が変わったり、話がそれてしまったり、内容を忘れたりと後悔することもありますね(笑)。その予防策として、メモを用意することをおすすめします。話がそれたとしても臨機応変に戻すようにすれば、聞き手は全然気がつきません。私の場合は、ひと通り話して時間を計り調整するようにして練習をしています。

魅力的な話し方のポイントを教えていただけますか。

桜林: 大勢の前であっても、1対1のときであっても、まず気張り過ぎないこと。聞く人が心地よく聞けるように意識することです。私も仕事を始めた頃は、話し方につい力が入ってしまって・・・。そうすると聞いている人は苦しくなってくる(笑)。
 それから手話付きで司会をした時に、今までずいぶんと速く、自分勝手に話していたことに気づきました。手話で通訳することを考えると、ゆっくりとわかりやすい言葉で話さなければなりません。そうした経験からなるべくゆっくり、やわらかに、丁寧に話すことが大切だと思います。

実践で学んだことは他にもありますか。


プロでもさまざまな失敗の経験を重ねて上達していく。人を感動させる話し手になりたいと話す。
桜林: あるスポーツ番組の実況をした時のことです。試合が終わった後に、「選手たちはよく頑張りましたね」と言ったらプロデューサーに怒られました。なぜだろうと思ったら、選手たちが練習してきた汗や苦労が表現できていないと。常にアンテナを張り、知識を情報収集しないと、人の心を打つ表現はなかなか出てこないものです。
 相手の気持ちや置かれている状況を考えて話すと、言葉の表現に深みが出て説得力が出てきます。ニュースの読み方や、実況の仕方ひとつでも人を感動させることができるのですから、言葉の力ってすごいなと思います。どんな場所でも人を感動させる話し手でありたいと願っています。

会話をする時に、心がけることはなんでしょうか。

桜林: 1日中誰とも話さないと精神もどんよりしてきます。会話することは、自分の活性化にもなります。会話を円滑にするためには、相手の話をよく聞いて話すということです。相手に不快感を与えるような話し方でなく、柔らかい口調で話すと相手に気持ちがよく伝わります。時代で言葉が変わっていくのは仕方のないことですが、最近は言葉の乱れが気になります。日常の生活においても、日本人として正しい日本語で話してほしいですね。

桜林流:魅力的な話し方のポイント
(1) 下腹部(丹田)に力をいれると、緊張が和らぐ。
(2) 内容を忘れないために、メモを用意する。
(3) 気張らずにゆっくり、やわらかに、丁寧に話す。
(4) 相手の話をよく聞いて、相手の気持ちを考えて話す。
(5) 相手に不快感を与えず、柔らかい口調で話す。
(6) 正しい日本語で話す。
(7) 朗読はとくに呼吸と間を大切にする。


朗読は"呼吸と間"がいのち

「ひとり語りの会」をやっていらっしゃいますが、きっかけはなんですか。

桜林: 「ひとり語りの会」は、落語や歌舞伎などの古典芸能が好きだったのが始まりです。古典芸能は話芸としてとても勉強になります。落語を聞き始めてから、春風亭昇太さんや林家たい平さん、講談では神田山陽さんに出会って、その世界を知りました。先輩の方には年下であっても敬い、礼儀正しく上下関係がきちんとしている世界で魅力を感じます。

語りのなかにも古典芸能を取り入れていますね。

朗読ライブ「ひとり語りの会」で自作自演。
桜林さんのひとり語りは多くの感動を与える。
桜林: 朗読だけでは聞く人が飽きてしまいますから、落語や歌舞伎の要素を取り入れながらやっています。創作した物語を色々な形で表現することで、どんな風に伝わって、どんな風に感じてもらえるかが勝負なんです。
 日本の古典芸能は、見えないところで見せるという、"粋"の世界です。行間を読む力とか、想像力を愉しむ世界。そのために、相互に想像力を持たなくてはなりません。たとえば朗読会で、「そして10年後」と入ったら、自分でゆっくりと、その10年を想像しないと、いい間にならない。
 大学時代から西澤實師匠(元NHKラジオドラマ脚本家)に朗読を教えていただいています。師匠が一番大事にしていることは、呼吸と間(ま)(ブレス&ポーズ)。とくに朗読は、これですべてが決まるといわれるほどです。間の取り方で時間の経過や、呼吸をすることで話の緩急を表現します。聞き手が話を咀嚼する時間でもあるのでとても重要です。

言葉の表現者として、今後の活動はどのように考えていらっしゃいますか。

桜林: 自分で取材をしてシナリオを書き、自分の言葉で発信するという、子どもの頃にイメージしたことをずっと貫いているつもりです。キャスターなどの仕事や、「ひとり語りの会」の朗読会の活動も含めてすべてが話術であり話芸であると考えています。さらに技を磨き、表現者として言葉のもつ力を十分に発揮していきたいと思います。
 今年は南極観測が始まって50年だそうです。今までの創作活動を生かして、秋に南極観測船「宗谷」についての本を出す予定です。

知的好奇心が旺盛で、粋な人が魅力的

「ひとり語りの会」には、年配の方が多くいらっしゃいますね。

桜林: 朗読会にみえる年配の方は生き生きしていらっしゃいます。お話を伺ってみると、仕事以外にも目的意識をもって行動することが、人生を愉しむ秘訣なのではと感じます。音楽やお芝居、陶芸など、自分が感動するためになにかをする、というように。モノではなく、"心"を充実させることが若さを保つことにもつながるのではないでしょうか。

具体的にどんな人に魅力を感じますか。

桜林: ひとことで言うと、時代の流れに背を向けず、"知的好奇心が旺盛な人"でしょうか。いくつになっても勉強する姿勢をもち、本をたくさん読み知識欲がある方に魅力を感じます。そういう方は家族も大切にし、服装もきちんとしています。そういう魅力的な男性たちに共通しているのは、"やぼ"はダメで、"粋"じゃないといけないようです(笑)。
 粋って、現代から消えつつあるような感覚ですよね。生き方のこだわりというか、相手に対する思いやりでしょうか。たとえば席を立つときでも、その場を白けさせないように気を配りタイミングを考えるとか。

魅力的な男性になるためには努力が必要ですね。逆に嫌だなと感じるのは。


仕事を通して多くの人たちとの出会いもまた楽しみ。人脈の広がりは自分の財産でもあるという。
桜林: 料理番組の仕事の時に、上司が料理の蘊蓄うんちくを語る人が多かったのですが、取材先で料理の蘊蓄をずっと聞かされるのはちょっと・・・。
 また、相手の気持ちを考えず、自己中心的で無神経な人は困ります。服装でいうと、流行は追わなくていいのですが、だらしない服装や不潔な人も困ります。お洒落にも気配りがほしいものです。

女性の場合はどんなことに気配りをしたらいいでしょうか。

桜林: 電車に乗って、人目も気にせず大声で話したり、韓国の男優を追いかけたりする女性たちは、ちょっと"粋"からかけ離れてしまいますね。常に品位と美的感覚を失わないことが大切であるような気がします。私たちの場合でも、若い時に比べて上司にはっきりとものが言える、ということはちょっと厚かまし過ぎるのかなと。いくつになっても周囲に神経を配り注意しなければいけませんね(笑)。

理想とする中高年像はどんなイメージですか。

桜林: 日本は物質的には豊かですが、精神的に貧しい気がします。外国では若い時から目的意識が高く、人生の後半戦を愉しもうと生き生きしているように感じます。私たちも常に目的意識をもって愉しく生きていきたいと思います。自分の人生を誇れるような時代がくれば最高ですね。

桜林流:嫌われる中高年像
(1) 自分の蘊蓄を押し付ける人。
(2) 不潔な服装をする人。
(3) 女性にお世辞過剰な人。
(4) 自己中心的で、品位のない人。

桜林流:魅力的な中高年像
(1) 目的意識をもって活動的に行動する人。
(2) 清潔で、身だしなみのきちんとした人。
(3) 時代の流れに背を向けず、知的好奇心が旺盛な人。
(4) 話し方も行動も"粋"にふるまう人。


インタビュー後記

人柄が感じられる爽やかな笑顔と魅力的な話し方で、一瞬に場を華やかで愉しい雰囲気にしてくださった桜林さん。多くの人を魅了する上手な話し方のスキルを中心に伺いました。魅力的に話すということは、仕事においてもプライベートにおいても、人間関係が円滑になり、心豊かに過ごすことができ、さらには素敵な人たちとの出会いが待っているに違いないと確信することができました。


桜林美佐(さくらばやしみさ)プロフィール
東京都生まれ。日本大学芸術学部放送学科卒業後、平成4年から情報番組(TV埼玉)のフリーアナウンサーとして始動、平成8年にディレクターに。TBS「はなまるマーケット」等の番組を制作。平成13年経済ニュース番組(三重TV)キャスターに選ばれ、再びTVカメラの前へ。現在は、キャスター、ナレーター、放送作家として活動し、朗読ライブ「ひとり語りの会」を展開中。主な活動歴に、「たけしのTVタックル」(TV朝日)リポーター、「さわやか彩の国」(TV東京)「報道ワイド日本」「防人の道」(日本文化CH桜)キャスター、「報道スペシャル」(ニッポン放送)構成作家など他多数。

桜林美佐HP