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ぴーぷるインタビュー Vol.14 美しい詩をからだで表現する、神にささげる踊り
ハワイアンフラ 講師 内野 慶子氏
学生時代にはじめて訪れたハワイで偶然出合ったフラ……。以来、イメージをからだ全体で表現するフラの虜に。現在カルチャースクール講師として活躍する内野先生がフラの魅力や健康効果、現在のフラ・ブームなどについて語る。
イメージをやわらかな動きで伝える身体表現

フラを始めたきっかけは?

学生時代、はじめて訪れたハワイでのフラ体験は衝撃的だった、と語る内野先生。
内野氏(以下、敬称略):かれこれ18年前(笑)、音大生時代にはじめて訪れたハワイでフラに出合ったのがきっかけです。恩師と学生仲間と演奏会開催の目的で訪れたのですが、せっかくだから現地の音楽、ハワイアンミュージックやダンスに触れ合おうと…。そこで現地のフラの先生を呼んで、着の身着のまま、みんなで踊っちゃったのです。音大に通っているくらいだから、みんなリズム感はあるでしょ。すぐにマスターしちゃって。波乗り~、ゆらゆら~、ふらふら~って(笑)。

はじめてのフラ体験の印象は?

内野:これは、凄く深い世界だと直感しました。それまでは、ビアガーデンや常磐ハワイアンセンターで踊られているイメージ、イコール、「おじさん」だった(笑)。実際、当時の日本でのフラの認知度はこの程度。だけど現地で触れ合ったフラは、全く違うものでした。ひとつひとつの動きに「意味がある」のです。フラは、歌詞に合わせて手話のような手の動きで言葉を表現します。つまり「恋」「花」「波」「涙」などのイメージをやわらかな動きで伝える身体表現なのです。
そもそもは神や自然をたたえる踊り 湧き出る感情をからだで表現

クラシックからフラに「転身」とは面白い展開ですね。

内野:それまで音大生として、楽器や理論を通して学んでいた「音楽的リズム」を、フラを通して全身で「体感」してしまった…ということなのでしょう。つまり、頭で理解していたものをからだで理解した…のです。自分の中から湧き出る感情をからだ全体で表現するということは、新鮮な経験でした。フラはそもそも神や自然をたたえ、家族や王族の歴史を伝えるために踊ったものです。本当に奥深いものなのですよ。

日本に帰国してから、どのようにフラを学んだのですか?

内野:当時、日本にはフラの教室はほとんどありませんでした。でも、銀座を歩いているときに偶然フラのカルチャースクールを見つけて、これはもう、行かなきゃ!って(笑)。現在は、カルチャースクールで教えながらも、現地の先生に定期的にレッスンを受けています。教える立場になっても、自ら学ぶというスタンスは生涯保っていきたいと考えています。
脳の活性化とストレス解消!アンチエイジング効果も?

フラのシェイプアップ効果について教えてください。

エクササイズ効果はもちろん、指先をよく動かすフラは、脳トレ効果で「ボケない」!
内野:もちろん、からだ全体のシェイプアップに効果的だと言えます。しかしそれよりも強調したいのは、フラの「脳トレ」効果。フラは指先をよく動かします。例えば、「美しい花」と歌詞にあれば、そのイメージを指先の動きに伝えなければならないので、非常に頭を使うのです。そのため脳の血液の流れが良くなって「ボケない」ことが医学的に実証されています。

そのほかどのような健康効果が期待できますか?

内野:精神が開放されてストレス解消にもつながります。笑顔で顔の筋肉もきたえられて、アンチエイジング効果もあるかもしれませんね。
年齢に関係なく始められる 穏やかな音楽に癒される

フラを始めたいと思っている方々にアドバイスをお願いします。

「わたしの生徒さんたちは、みんなフラでいきいきしています!」と語る内野先生の瞳が輝く。
内野:個人の教室もいいですが、はじめは設備も整っていて料金もお得なカルチャースクールがおすすめです。フラは動きがソフトなので、50歳、60歳、70歳と年齢に関係なく始められます。いきなり身体を動かすことに抵抗がある方は、ハワイアンミュージックをまず聴いてみてはいかがでしょう。ハワイの音楽はすべて4拍子。人間の体内リズムに合い、心を穏やかにします。

教室では、具体的にどのような練習をするのでしょう。

内野:ワンレッスンは約1時間30分です。はじめの30分はストレッチをして充分からだをほぐし、その後ステップの練習に入ります。またフラは先程も申したとおり、歌詞の内容を手話のような動きで語るダンスなので、曲の内容を解説し、理解していただきます。ハワイ語の勉強にもなりますね。それから笑顔の練習。日本人の場合、歯を出して笑うことが苦手です。ステップを間違ってもいいから笑顔で踊る練習をします。

一曲をマスターするまでどのくらいかかるのでしょう。

内野:2・3ヶ月、週2回のレッスンで1曲マスターというのが目安です。レッスン料は、カルチャースクールで月3回、8000円くらいです。

どんな服装で踊るのですか?

内野:基本的には動きやすい恰好なら何でもOK。トレーニングウェアのようなものでよいでしょう。少しフラっぽさを追求したいならTシャツに色や柄が美しいパウ・スカート(フラで着用するふんわりとしたスカート)でもいいですね。男性は普通のTシャツに半パンでOKです。

発表会について教えてください。

ショー的なイメージが強いフラだが、実は奥深い精神性を持ち、神や自然への信仰心を表すダンス。
内野:教室によってスタイルはまちまちですが、わたしの教室では年1回、生徒さんの身内の方々300人くらいを招待して行います。会場使用料や衣裳代を含めて、ひとり2万5千~3万円の費用でしょうか。他のお稽古事の発表会と比べるとずいぶんとお安いですよね。

中高年男性はいらっしゃいますか?

内野:ウクレレの流行のせいでしょうか、ご興味をもたれている方が多いようですね。わたしの教室にいらっしゃる方は、奥様がやっているので引き入れられた、というパターンが多いようです(笑)
空前のフラ・ブーム 生真面目な日本人、もっと笑顔で楽しんで!

現在の日本におけるフラの流行をどのようにご覧になっていますか?

内野:日本でフラが普及することはたいへん嬉しいことです。ただ、日本人のフラとの向き合い方は、とても生真面目。もっと力を抜いていいと思います。ハワイの人たちは振付を間違っても全く気にしませんが、日本人は必死に「お勉強」する。そして、フラを踊る際の絶対条件の「笑顔」を忘れてしまう。少しぐらい間違ったっていい。素敵な笑顔で踊って欲しいですね。

「愛してる」「波」「花」「涙」…歌詞を手話のように語るフラ。
毎年ホノルルのロイヤルハワイアンホテルで行われるフラの大会「フラ ホオラウナ アロハ」出場の様子。

これまでフラに関わってきて、印象深いエピソードはありますか?

内野:去年、生徒さんたちとハワイで開催されたフラ ホオラウナ アロハ(ジャルパック主催、毎年ホノルルのロイヤルハワイアンホテルで行われるフラの大会)に出場し、女子部門で3位になったことがたいへん嬉しかったです。主婦の方などは子育てをご主人にまかせての出場だったし、いろいろ大変なこともありましたが、ほんとうに感動的でした。いまでも思い出すと涙が出ちゃうくらい(笑)。今回はハワイの先生にアドバイスを受けながら、わたしが選曲し、歌詞の翻訳もしました。そういった意味でわたし自身の18年間のフラ人生の集大成でもありました。

最後に、読者のみなさんにひとことお願いします。

内野:フラに限らず、何か熱中できることがあるって幸せですよね。わたしの生徒さんにはフラでいきいきしている人たちがたくさんいます。美しい詩を感じ、美しい心で踊れば、すべてきれいなからだと美しい心のためになります。これからフラを通して、みなさんの心を開放していきたいです。

 内野 慶子(うちの・けいこ)プロフィール

青森県八戸市に生まれる。両親の仕事上東京で育ち、6才よりクラッシックピアノをはじめ付属中学から音楽学校に通う。東京音楽大学在学中に演奏旅行でハワイのフラに出合う。日本でレフアとも子先生に師事しインストラクターを経て、1999年独立。現在はハワイのクムフラ(家元)チンキー マホイ先生に師事。スタジオ「フラハラウ オ ケアヌエヌエ オナプア ヴィリプイア」代表。NHK青森・八戸・盛岡文化センター講師。松坂屋 カルチャースクール講師として活躍中。

大会出場歴

2003年ハワイでのフラ ホオラウナ アロハ大会に初参加、アロハスピリッツ賞受賞。
2004年同じくフラ ホオラウナ アロハ大会グループワヒネ(女性グループ)部門1位受賞。
2006年同じくフラ ホオラウナ アロハ大会ソロワヒネ部門・グループワヒネ部門共3位受賞。



インタビュー後記
昨年のハワイでの大会出場の様子を、感動のあまり目を潤ませながら語る先生の姿が印象的でした。ともすると「女性のための腰振りダンス」と思われてしまうフラですが、実は神や自然に対する信仰表現であったり、「語り」の要素を持っていたり、と濃密な歴史的背景もつダンスだったのですね。現在フラにはまる人が続出する理由は、ここにあるようです。脳トレやエクササイズ効果もさることながら、そんな奥深い精神性に触れてみたいですね!フラ!始めますか!!