鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.1 相続税は生きている人の責任鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.1 相続税は生きている人の責任

平成27年以後の相続は、基礎控除が60%に減少したので、かなりの人が課税されそうです。

相続税

「この世に生きているものは、必ずいつか終わる」―誰の言葉だったかは忘れてしまいましたが、私たち人間はどんなに若い人でもいつか必ず「死」を迎えます。人の一生―それは誕生から死亡までの一連の時間の流れです。法治国家に生まれたからには、法律に基づき生活をするのが義務でしょう。「コンプライアンス」(法令遵守)という問題も最近、盛んに問われています。「税」も法律です。そしてその法律は、人の誕生から死亡までずっと関わりあっていきます。

相続税は、人の死亡の時点で初めて対象となります。死亡した人を被相続人、そして被相続人の財産を引き継ぐことができる人を相続人と言います。この相続人は、法定相続人実際の相続人に区別されます。

相続税に関する用語解説

相続税
人が死亡した時点で初めて発生する税金。
被相続人
死亡した人。
相続人
被相続人の財産を引き継ぐことができる人。
法定相続人
血縁関係及び法定血縁関係(養子縁組など含む)があり相続人となり得る人。
実際の相続人
法定相続人で相続の放棄をした人を除いた人及び遺言を取得した人。

法定相続

法定相続人について

法定相続人とは、血縁関係を中心にした法律は民法ですが、その法律では、相続人となる人たちのことを言います。標準的なところで自分を中心に考えてみましょう。まず両親がいます。父親母親です。そして自分にはがいて、子供が一人いるとします。もし自分が死亡したとしますと、相続人子供と妻第一順位となります。そして自分には子供がいないとしますと、相続人両親と妻第二順位となります。また、自分には子供がなく、妻がいて、兄弟がいる、そして両親はいないとしますと、相続人兄弟と妻第三順位になります。

法定相続分について

相続税は、まず被相続人の財産をこの法定相続人が取得したと仮定することから始まります。そして法定相続分と言う取り分が決められています。

第一順位の相続人の場合は、子供と妻が1/2ずつ(図1)、第二順位の相続人の場合は両親が1/3(図2)、妻が2/3、第三順位の相続人の場合は妻が3/4兄弟が1/4(図3)です。

「法定相続人」と「法定相続分」のしくみ

図1:第一順位
図2:第二順位
図3:第三順位

この法定相続分に基づいて、法定相続人が被相続人の財産をまず取得したものとし各法定相続人の税額を計算し、それを合算して相続税の総額を算定します。そのあと本当に財産を取得した者のその取得の割合に応じて、相続税の総額を按分して財産を取得した者の税額を計算するのが、相続税の仕組みとなっています。

さて、以上が相続税の仕組みの概略ですが、当然この計算をする前に、被相続人の財産の大きさを確定させなくてはなりません。

「親父が死んだらいったいいくらの財産があるんだ?」と言う疑問は誰しも持つものでしょう。これを不謹慎と言う言葉で片付けるのは、時代遅れのような気がします。ひと昔前は相続税は残された人の義務という感覚でしたが、今は相続税は生きている人の責任だと思います。

人は誰もいずれ死ぬのです。後々問題を残さないためにも綺麗に死を迎えたいものです。

相続財産

被相続人の財産、これを相続財産と言いますが、これには様々な種類があります。土地や建物に代表される不動産、定期預金や郵便局の貯金のような現金預金、車や家財道具、そして目には見えないが財産として様々な権利などがあります。

これらの財産を積極財産と言いますが、反対に借金や未払い金などの消極財産相続財産です。しかしこれはマイナスの相続財産となりますので、積極財産から消極財産を引いた残りが被相続人の財産です。

たとえば土地を例に取りますと、被相続人が生前に購入したこの土地の代金は1億円。だから1億円で相続財産を構成するかと言えば、それは違います。相続の開始時点、つまり死亡時点でのその土地の評価額が相続財産を作り上げます。これは評価という大事な相続税を計算する場合の過程です。

評価の方法は、その財産の種類などに応じて規定されています。財産評価基本通達という実務上の通達がありますが、これが標準です。ですが面白いことに、税務の実務ではこの通達が絶対ではありません。税務は実質課税の原則というものがあり、この通達にある方法よりもっと実態を表す合理的な方法があれば、それに従います。

見解の相違と言う言葉を、よく新聞その他のメディアで見かけるでしょう?たとえば、同じ事象を眺めても、見る方角によってはその形態は異なって見えますね。山が良い例でしょう。北から見たその山の形と、南から見たその山の形が全く違って見える場合があります。しかしお互い同じ山を見ているのです。これが見解の相違です。通達は法律ではありません。取り扱いの手引きです。ですからこれによって評価をするのは至極当たり前のことですが、だからと言って万能ではないのです。

それでは事例をあげてみましょう。

事例1

被相続人の財産を評価し終えて合算して2億円となったとします。この被相続人の相続人は妻と子供1人だとします。つまり相続人は2人。第一順位の相続ですから、法定相続分は子供が1/2、妻(配偶者)が1/2です。

相続税は被相続人の純財産の金額合計額から、一定の控除をします。これを、定額基礎控除といいます。3千万円に法定相続人の1人につき6百万円です。この計算は下記のようになります。

定額基礎控除額 3千万円 + (6百万円×2人) = 4千2百万円
課税対象 2億円 - 4千2百万円 = 1億5千8百万円
1人あたりの相続財産分 1億5千8百万円 ÷ 2人 = 7千9百万円

この7千9百万円に税率を乗じて計算した税額が、その人の相続税額となるのではありません。この計算で算出された各法定相続人の金額を合計したものを相続税の総額といいます。この相続税の総額を、各相続人が実際に取得した財産の、相続財産に占める割合に応じて配分した金額が、その人の相続税額になります。一方、配偶者の相続税額の軽減という規定があって、一定の場合配偶者の取得した財産には税金がかからない場合があります。計算式があるのですが、上記の場合、妻が取得した7千9百万円は全額課税されません。

相続税は夫婦一体で築きあげた被相続人の財産を課税対象にしますので、妻が共同で築いたものとしてこのように課税しない金額を決めているのです。税法もまんざらではないでしょう!

まだそのような規定はたくさんあります。ここで申し述べたところは、相続税の大筋にしか過ぎません。元気なときにこそ相続のことを考えて色々なことをしておくのが、これからの人の責任だと強調して今回は終わりにします。

相続税に関する用語解説

相続財産
相続の対象となる財産。例えば税理士という資格はその人だけに備わるもの(一身専属権という)なので相続できない。
積極財産
プラスの財産。「借金も財産のうち」と言われるが、それはマイナス財産、消極財産という。
被相続人の財産
死亡した者の財産。
評価額
死亡時点でその財産を一定の方法により評価した額。
通達
法律ではないが、ある事象のもっとも基本となる考え方を記して、行政の統一を図ろうとするもの。
見解の相違
ある事象を別々の切り口からみた場合の意見の違い。
相続税額
相続税法の規定により計算される税金。
配偶者の相続税額の軽減
基本的に配偶者が取得した財産が1億6千万か法定相続分以下である場合は、配偶者には相続税がかからない。

Profile

税理士鈴木 千弘先生 Chihiro Suzuki

1952年生まれ/血液型A型
横浜市立大学商学部経営学科卒業
昭和63年1月事務所開業以来「歌って踊れる税理士」として多数のクライアントを持つ。