鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.4 遺言と相続税との関係鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.4 遺言と相続税との関係

遺言を書いておくと、死亡後の争いを避けることができます。しかも、遺言は日付が1番新しいものが有効です。書き換えも自由ですので、堅く考えなくてもいいのです。今回は、遺言書の書き方と相続税の加算の規定を解説しましょう。

相続税に関する用語解説

遺言(いごん・ゆいごん)
自分の死んだ時、所有する財産などをどのように処分するかを書き留めておくこと。遺言は法定相続に優先するのが原則。

遺言による相続

遺言は、残された家族など相続人の今後の生活に影響があるものです。遺産の協議分割より優先します。遺言があれば、相続できる財産が減少する人と、増える人がいることになるからです。ただし、前述のとおり相続人および受遺者の全員が協議により遺言の内容と異なった分割をすることは可能です。別の言葉で言い換えれば、遺言を放棄することです。

たとえば、被相続人の全体の財産を100としますと、その100の中から遺言で、40を特定の人に与えることになれば、残り60を共同相続人が取得することになるのです。

相続人がAさんとBさんの2人で、遺言で財産を取得することになった者をCさんとすれば、Cさんが40、AさんとBさんが60を分けることになります。このように非常に重要な法律行為です。だからそのやり方は民法で規定されているのです。

相続税に関する用語解説

協議分割
財産を誰が貰うのか、ということを相続人の間で話し合い、それに基づいて分割することをいいます。

遺言の方法

遺言の方法には自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言があります。その条件は詳しく民法に規定されています。

  1. 自筆証書遺言の場合・・・自分で全文、氏名、日付を書いて押印することが必要です。
  2. 公正証書遺言の場合・・・公証人に作成してもらうものですが、証人として立ち会う人が2人以上必要です。
  3. 秘密証書遺言の場合・・・密封された遺言書を公証人に提出して自分の遺言書だという確認を取る遺言の方式です。また危急の場合は、略式でもよいという規定もあります。

次に、公正証書遺言の例を示しておきましょう。

遺言書の書き方(公正証書遺言の例)

文章の中で、『本職』とは公証人自身のことです。『公正証書遺言』は、公証人が作成するものです。公証人役場に行くか、公証人が本人のところに出張し、口述により遺言の意思内容を確認して、公証人が作成するのです。

他に、たとえば口がきけない人の場合、どうしたらよいのかという細かい手続きがありますが、『公正証書遺言』を作成しようとする場合は、直接公証人に相談するのがよいでしょう。意外とやさしく教えてくれます。

相続税に関する用語解説

自筆証書遺言
自分で書いて遺言とすること。
公正証書遺言
公証人役場に出向いて遺言を作成すること。
秘密証書遺言
密封された遺言書を公証人に提出して自分の遺言書だという確認を取る遺言の方式。
公証人
公証人とは、30年以上の実務経験を有する裁判官、検事、弁護士など法律実務家の中から、法務大臣が任命する公務員。公正証書の作成、会社の定款や文書の認証、確定日付の付与などを行うのが仕事。

相続税の加算

次に相続税額を、財産を取得した各人ごとに確定させる段階として、前回の計算の後に続く1つの規定である『相続税額の2割加算』の規定を解説します。次のような例を考えてみましょう。

遺言がある場合

もうおわかりのように、今回父親が死亡し相続が発生しています。相続人は母と子供1の2人です。子供1は結婚していて、配偶者との間に子供2を授かっています。遺言は協議分割に先行しますから、たとえば遺言書に、「全財産を孫(つまり子供2)にあげる」としますと、上の図のようになります。

遺言には遺留分というものがあって、一定の割合まで相続する権利を保証しているのですが、今はそのことは無視して進めます。

さて、この遺言がない場合を考えます。第一順位の相続ですので、相続人は母と子供1の2人です。つまり子供2は財産をもらえません。子供2が被相続人の財産を貰えるためには、子供2の親、つまり子供1が死亡しなければなりません。子供1が被相続人の相続により、財産を取得し、その取得した子供1が死亡して子供1の相続が発生して初めて、子供2に財産が移転するのです

この2つの例を比べてみるとよく分かると思います。遺言があった場合は、相続が1回少なく、子供2に財産が移転しています。つまり、相続税の課税の機会が1回少なくなっているということです。

遺言がなく順番に子供1に移転し、次に子供2に移転する場合に比べて有利となっていることがおわかりでしょう。課税の公平さを欠いている、と言われます。そこで税法は、このような場合には、通常の相続税額の2割相当額を加算して「その者の納める相続税額とする」としたのです。

詳しく説明しますと、被相続人の一親等の血族以外の人が財産を取得した場合に、この加算の規定が適用されます。ここで、相続税法の規定を書いておきましょう。難しい表現ですが、参考までに載せます。少しずつ税法に慣れてもらうことが目的です。

相続税法第18条

相続、又は遺贈により財産を取得した者が当該相続、又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族(その者又はその直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため相続人となったその者の直系卑属を含む)及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額は、前条の規定にかかわらず、同条の規定により算出した金額にその100分の20に相当する金額を加算した金額(当該金額がその者に係る相続税の課税価格に相当する金額に100分の70の割合を乗じて算出した金額を超える場合には、当該割合を乗じて算出した金額)とする。

この規定を読んだだけでは、何を言っているのかわからないでしょう。それでかまいません。税法はわざと難しく規定されているのです。いや、そう言ってはいけませんね。誤解がないように、できる限り詳細に規定されるのが法律です。

それでは、条文にそって解説しましょう。

『相続又は遺贈』とあります。『遺贈』は「いぞう」と読みます。遺言による贈与です。「これこれの財産はだれだれに与える」などと書かれます。『当該』は「とうがい」と読みます。「その」という意味です。『一親等の血族』は、「いっしんとうのけつぞく」と読みます。『親等』の計算方法を知っておく必要があります。カッコ書きの「その者又はその直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため相続人となったその者の直系卑属を含む」は、『代襲相続人』といわれていますが、これもまた難しいものです。そして『相続権を失ったため』とはいったいどんな場合なのか?これも民法に規定されているのです。「前条の規定にかかわらず、同条の規定により算出した金額に」とは、『算出相続税額』の計算までのプロセスのことです。(「Vol.3 相続税の計算 1 ~第一順位の相続の場合~」参照)

そして「当該金額が、その者に係る相続税の課税価格に相当する金額に100分の70の割合を乗じて算出した金額を超える場合には、当該割合を乗じて算出した金額」は加算される金額の上限の規定なのです。

相続税に関する用語解説

遺留分
遺留分とは、相続人に留保された、相続財産の一定の割合をいう。遺言者は原則として遺言によってその相続財産を自由に処分することができるが、それが過度に行なわれると、本来の相続人の期待をあまりにも無視する結果となってしまうので、民法は遺留分を定めて、その範囲で遺言の自由を制限している。
相続人
被相続人の財産を引き継ぐことができる人。
遺贈(いぞう)
一般には遺言のこと。遺言に基づいて財産を引き継ぐこと。
代襲相続人
代襲相続とは、相続人となる子どもや兄弟姉妹が被相続人よりも先に死亡していたときに、その子供や兄弟姉妹の代わりに相続人になることで、その人を「代襲相続人」という。

親等の数え方

親等の数え方

自分から見て、だれだれは何親等というように数えます。自分の配偶者は親等がありません。ここでは自分を子供1としていますので、自分の子供(子供2)は一親等。縦の線が1つ戻ります。では自分の親は?と言うと、上に向かって縦の線を1つたどります。つまり一親等。  子供3は自分から見ると兄弟姉妹となります。この場合はまず自分から縦の線をたどり親に行きます。この段階で親等は一、そして親から子供3、つまり兄弟姉妹に下ります。ここで縦の線を2度渡ることになります。つまり兄弟姉妹は二親等となります。

それでは父方の祖父は何親等でしょうか?まず自分から親に行きます。これで一。そして親から祖父に行きます。これでニ。つまりニ親等です。

父の兄弟姉妹はといいますと、まず自分から親に行き、そして親からその親に行き、そして兄弟に戻ります。三親等です。同じように母方の叔父叔母、つまり母の兄弟姉妹も三親等です。

これでお分かりでしょう。親等は自分を中心に、直接下に行く場合を除き、まず親に行き、そしてそこから上ったり下ったりします。この縦の線が『血族』をあらわす線です。『一親等の血族』とは、自分から見た子供および両親を指します。

相続税に関する用語解説

一親等
本人および配偶者と一世をへだてた関係にある者。また、その関係。本人の父母と子および子の配偶者。また、本人の配偶者の父母。
二親等
本人および配偶者と二世をへだてた関係にある者。また、その関係。本人の祖父母、兄弟、姉妹、孫およびその配偶者。また、本人の配偶者の祖父母、兄弟、姉妹。
三親等
本人および配偶者から三世を隔てる尊属および卑属、すなわち曾祖父母・伯叔父母・曾孫・甥姪。また、その関係。三親等の姻族は法律上、親族とみなす。また三親等内の血族の婚姻は禁止されている。

代襲相続について

代襲相続は、「だいしゅうそうぞく」と読みます。言葉の通り、「人に代わって相続をする」ということです。<親等の数え方>の図を見てください。被相続人は父となっています。この相続の相続人は子供1と子供3そして母です。父が死亡したとき、この3人が生存していれば、相続人はこの3人です。

もし、父が死亡する以前に子供1(自分)が死亡していたとしたら、自分は相続人には当然なりません(この世に存在しないのですから)。しかし、自分には子供2と配偶者がいます。配偶者は血縁関係から見ると『他人』です。しかし、子供2は自分の『血』を引いているのです。また、自分より世代が下の場合ですので『直系卑属』となります。この直系卑属である子供2は、自分(つまり子供1)が生存していたとしたら父の相続により相続できた権利義務を子供1に代わって相続します。これを代襲相続と言います。次回以降に、詳しく解説する予定です。

ここで、孫に財産を与える遺言があったとします。孫(つまり子供4)の算出相続税額が、たとえば80万円の場合、子供1も生存し相続人となっていれば、孫は相続人ではありません。『一親等の血族』ではありません。したがって2割加算の規定が適用になります。

80万円×20%=16万円が加算されるのです。この時この孫の『課税価格』が800万円だとします。

800万円×70%=560万円です。これが加算後の上限の金額ですので、この孫は、当初の80万円と加算の16万円との合計額、96万円が納付すべき相続税額となります。

遺言がある場合の相続税額の計算式
(相続税額の2割加算の計算)
2割加算の相続税額= 算出相続税+(算出相続税×20%)
(子供3(孫)の2割加算の相続税額)
子供3(孫)の2割加算の相続税額 = 80万円+(80万円×0.2)=96万円

相続税に関する用語解説

課税価格
これは相続税法に限った用語ではありません。税額を計算する場合の「基となるもの」です。これに税率を掛けて税額が計算されます。
相続税額
相続税法の規定により計算される税金。

Profile

税理士鈴木 千弘先生 Chihiro Suzuki

1952年生まれ/血液型A型
横浜市立大学商学部経営学科卒業
昭和63年1月事務所開業以来「歌って踊れる税理士」として多数のクライアントを持つ。