鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.5 相続税の計算 2 ~3年内生前贈与財産の加算の規定~鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.5 相続税の計算 2 ~3年内生前贈与財産の加算の規定~

かなりの人が自分の将来を知っているのではないでしょうか?被相続人は、自分の死期が近いと感じることがあります。「もうすぐ死んでしまう」と思うと「財産を子供たちなどに分け与えておいた方がよい」と思うものです。「思うものです」と言いきりましたが、もちろん私はまだ生きています。人間は意外と脆くもあり、また頑丈でもあります。だから、「死期を感じたら」ということは「そういうものなんだ」と思ってください。そこで今回は、『3年内生前贈与財産の加算』の規定を解説します。法律特有の計算方法をマスターしましょう。

期間の計算方法

『3年内生前贈与財産の加算』の規定は、「相続の開始があった日から遡ること3年以内に、財産の贈与があった場合は、その贈与財産は相続税の財産として加算される」というものです。本来はこの規定を解説する前に、『贈与税』を解説した方がよいのですが、あちこちに飛んでしまうとわかりづらくなるので、『贈与税』は「財産をある人からある人にあげる、またはある人から財産を貰った時にかかる税金」と理解してください。

ここで、『期間の計算方法』を知っておきましょう。参考までに「期間の計算の規定」は、国税通則法という法律にあるのですが、それを書いておきます。これも今はわからなくて結構です。でも一読はお願いします。そのうち必ずわかりますから・・・。それでは、少しわかりやすく解説していきましょう。

国税通則法
(期間の計算及び期限の特例)

第10条 第1項 国税に関する法律において日、月又は年をもって定める期間の計算は、次に定めるところによる。

  1. 期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるとき、又は国税に関する法律に別段の定めがあるときは、この限りでない。
  2. 期間を定めるのに月又は年をもってしたときは、暦に従う。
  3. 前号の場合において、月又は年の始めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、最後の月にその応対する日がないときは、その月の末日に満了する。

第2項 国税に関する法律に定める申告、申請、請求、届出その他書類の提出、通知、納付又は徴収に関する期限(時をもって定める期限その他の政令で定める期限を除く)が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日その他一般の休日又は政令で定める日に当たるときは、これらの日の翌日をもってその期限とみなす。

解説

1. 「期間の初日は、算入しない」
つまり、平成27年5月25日から1ヶ月という場合は、25日は入らずに《平成27年5月26日》から数えます。
2. 「期間を定めるのに月又は年をもってしたときは、暦に従う」
平成27年5月25日から1ヶ月ですので、月をもって定められていますので、この場合は暦に従います。つまり、《1ヶ月》です。
3. 「月又は年の始めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する」
5月25日から1ヶ月という場合、5月25日は初日ですので算入されず、起算日は次の日《5月26日》となり、その応当日、つまり6月26日の前日《6月25日》までとなります。

相続税に関する用語解説

贈与税
贈与により財産を取得した個人に課せられる国税。財産をある人からある人にあげる、またはある人から財産を貰った時にかかる税金。
国税通則法
1962年(昭和37)に制定された国税に関する基本事項および共通規定を定める法律。各租税法に特則がない限り、すべての国税に適用される。

相続税の申告書の提出期限

この計算方法は、法律を勉強する上で非常に重要です。たとえば、相続税法では申告書の提出期限を設けています。これは、いつまでに税務署に申告しなければならないかの規定です。遅れると罰則があるので損をします。

現在の規定では、申告期限は相続が開始した日から10ヶ月後、つまり、相続が平成27年5月25日に開始した場合は、《平成28年3月25日》が提出期限となります。平成27年5月25日は初日ですので算入されず、起算日は翌日の26日《平成27年5月26日》です。暦にしたがって規定されていますので、10ヶ月後というと、6月、7月、8月と数えると、平成28年3月となります。起算日の応当日、つまり平成28年3月26日の前日ですので、《平成28年3月25日》が提出期限ということになります。

こんな面倒なことをしないで、「平成27年5月25日の10ヶ月後は平成28年の3月25日だから、それでいいじゃないか」と思われるかも知れません。

そこで1つ試してみましょう。4月30日から1ヶ月という場合を考えます。4月30日から1ヶ月を、単純に5月30日と考えるのが、「こんな面倒なことをしなくてもいいじゃないか」という場合です。面倒な方法でいくと、4月30日は初日ですので入らずに翌日、つまり《5月1日》が起算日となります。5月1日の1ヶ月後の応当日は、6月1日。その日の前日ですので《5月31日》となります。どうですか?5月30日と5月31日で、《1日》の違いが出てしまうのです。「面倒な方法」を規定しているということは、それなりに意味があるということがお分かりでしょうか?

話を戻します。たとえば、被相続人が死亡した日が平成27年5月25日だとしますと、3年以内ですので、平成24年5月25日から相続の開始があった日までの期間です。その開始前3年以内ですので、この場合は時間を遡ることになります。初日は計算に入れないのですから、平成27年5月25日は入りません。《平成27年5月24日》からスタートし遡ること3年、従って平成24年5月24日が、応当日となり、その翌日ですから、《平成24年5月25日》となります。したがって、《平成24年5月25日から相続の開始前日》までということになるのです。

相続税法第19条の規定について

ここで相続税法第19条の規定を書いておきます。これから時々、条文を書くことがあると思いますが、非常に難しいものです。一読程度で構いません。そのうち慣れて、読みこなすことができるようになります。信じてください。信ずるものは必ず救われます。なんか標語のようで申し訳ありません。

それでは、相続税法第19条の規定をわかりやすく解説していきましょう。

相続税法第19条

第1項 相続又は遺贈により財産を取得した者が、当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産(第21条の2第1項から第3項まで、第21条の3及び第21条の4の規定により当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの(特定贈与財産を除く)に限る。以下この条及び第51条第2項において同じ)の価額を、相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、第15条から前条までの規定を適用して算出した金額(当該贈与により取得した財産の取得につき課せられた贈与税があるときは、当該金額から当該財産に係る贈与税の税額《第21条の8の規定による控除前の税額とし、延滞税、利子税、過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税に相当する税額を除く》として政令《令第4条》の定めるところにより計算した金額を控除した金額)をもって、その納付すべき相続税額とする。

第2項 前項に規定する特定贈与財産とは、第21条の6第1項に規定する婚姻期間が20年以上である配偶者に該当する被相続人からの贈与により当該被相続人の配偶者が取得した同項に規定する居住用不動産又は金銭で次の各号に掲げる場合に該当するもののうち、当該各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める部分をいう。

一. 当該贈与が当該相続の開始の年の前年以前にされた場合で、当該被相続人の配偶者が当該贈与による取得の日の属する年分の贈与税につき第21条の6第1項の規定の適用を受けているとき。 同項の規定により控除された金額に相当する部分

二. 当該贈与が当該相続の開始の年においてされた場合で、当該被相続人の配偶者が当該被相続人からの贈与について既に第21条の6第1項の規定の適用を受けた者でないとき(政令(令第4条第2項)で定める場合に限る)。同項の規定の適用があるものとした場合に、同項の規定により控除されることとなる金額に相当する部分

解説

1. 『相続または遺贈により財産を取得した者』とは誰になるのか?
『相続により財産を取得した者』とは、第1順位の相続の場合は子供と配偶者、第2順位の相続の場合は両親と配偶者、第3順位の相続の場合は兄弟姉妹と配偶者となります。(Vol1.「法定相続人」と「法定相続分」のしくみの図参照)
また『遺贈により財産を取得した者』とは、遺言があり、その遺言どおりに財産を取得した者です。相続人に限りません。したがって、全体では『この相続で財産を取得した者』ということと同じです。
2. わかりやすくすると?
『当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合』とは、「この相続が始まる前3年間で、亡くなった人から贈与により財産を取得したことがある場合」という意味です。
3. カッコ書きをはずして考えてみると?
『当該贈与により取得した財産の価額を、相続税の課税価格に加算した価額を、相続税の課税価格とみなし、算出した金額をもって、その納付すべき相続税額とする』のです。『課税価格』とは、税金を計算するために税率をかけますが、そのもととなるのは『価格』でした。その課税価格に、贈与により取得した財産の価額を足すことになります。(Vol.3 相続税の課税価格参照)
このように条文の(カッコ書き)をはずして考えることから始めます。カッコ書きは特殊です。もちろん、具体的に計算する場合はこのカッコ書きは非常に重要ですが、大筋を理解するために、はずした方がわかりやすいのです。
4. 3年内生前贈与財産加算の適用者は誰になるのか?
さて、相続または遺贈により財産を取得した者で、3年内生前贈与財産加算の適用者ですが、同様に、3年内に被相続人から財産を贈与されているものでも、この相続で財産を取得していなければ、その人は対象となりません。その人の場合は、当時の贈与税だけで終了します。従ってこの規定は、「生前における財産の分配による相続税の課税逃れを防止するもの」といえるでしょう。推定相続人といいますが、「今自分が死んだら誰が相続人になるんだろう?」と考えた場合の相続人のことです。推定相続人以外の人に生前に財産を贈与することは、相続逃れではありませんので、加算されないのです。
5. 加算される財産の金額はいつの時点の価額か?
「いつの時点の価額をいうのか?」というのが問題です。今日が相続の開始の日だとすれば、3年前の今日が加算対象期間の始めですので、「この3年間に時価が上がっていればどうなるか?下がっていればどうか?」という問題があります。
たとえば土地。昨今の情勢では、一時期は土地はどんどんと下がり、今は一応落ち着いているようです。しかし、3年前に比べてかなり時価が落ちているでしょう。今日の評価額で相続税を計算して欲しいと思うのが人の心です。しかし、残念ですが、税法は贈与当時の価額で加算することにしています。もしインフレが進行していれば、価額は3年前に比べて上昇しているでしょう。この場合は贈与のときの評価額で加算されるのですから助かります。都合のいいようには解釈できないのです。規定ですので、どうすることもできません。
この3年内生前贈与財産加算は、その贈与時に評価された金額で加算されるのです。
6. (特定贈与財産を除く)とはどんなことか?
3年内贈与財産の価額を加算するのですが、その当時、贈与税の対象となっていないもの、たとえば贈与税の非課税財産などは加算する必要がありません。贈与税の計算の基礎に算入された財産だけが加算されます。この特定贈与財産とは、別の規定で定められている、『贈与税の配偶者控除の規定』に関連するのですが、簡単に次のようになります。
7. 贈与税の配偶者控除の規定とは?
第21条の6第1項の規定のことです。贈与税では結婚している期間が20年以上の夫婦の間での居住用財産の贈与については、2000万円までを配偶者控除として控除することができます。つまり、2000万円までの居住用財産の贈与には税金がかからないのです。居住用財産自体を贈与してもいいし、居住用財産を取得するための資金を贈与しても構いません。この適用があった贈与財産は、はじめから贈与がなかったようなものの扱いになります。3年内の贈与でもその部分の贈与は加算する必要がないのです。これがカッコ書きの主旨です。

相続税は、なかなか難しいものですね。でも、諦めないで下さい。経験によりますと、このあたりから訳が解らなくなって、諦めてしまう人が多いのです。諦めたらおしまいです。「わからなくても先に進む」、これが法律を読みこなす方法だと私は思っています。

相続税に関する用語解説

遺贈(いぞう)
一般には遺言のこと。遺言に基づいて財産を引き継ぐこと。
推定相続人
現状のままで相続が開始されれば直ちに相続人となるはずの者。

Profile

税理士鈴木 千弘先生 Chihiro Suzuki

1952年生まれ/血液型A型
横浜市立大学商学部経営学科卒業
昭和63年1月事務所開業以来「歌って踊れる税理士」として多数のクライアントを持つ。