鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.7 知っておくと得する、非課税財産 2鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.7 知っておくと得する、非課税財産 2

今回は相続財産のうちの「非課税財産」の残りと、『みなし相続財産』について説明します。『みなし相続財産』というくらいですから、「相続財産とみなしている」ということはすぐにおわかりでしょう。『みなし相続財産』とはどういう財産なのか?これが今回の焦点です。

『相続税の非課税財産』

前回説明させていただいた『相続税の非課税財産』の残りの2つを説明しましょう。 『生命保険金』と『退職金』がこれに相当します。

相続税の非課税財産

  1. 五.

    相続人の取得した第3条第1項第1号に掲げる保険金(前号に掲げるものを除く。以下この号において同じ)については、イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、イ又はロに定める金額に相当する部分

    1. イ.第3条第1項第1号の被相続人のすべての相続人が取得した同号に掲げる保険金の合計額が500万円に当該被相続人の第15条第2項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額(ロにおいて「保険金の非課税限度額」という)以下である場合  当該相続人の取得した保険金の金額
    2. ロ.イに規定する合計額が当該保険金の非課税限度額を超える場合 当該保険金の非課税限度額に当該合計額のうちに当該相続人の取得した保険金の合計額の占める割合を乗じて算出した金額
  2. 六.

    相続人の取得した第3条第1項第2号に掲げる給与(以下この号において「退職手当金等」という)については、イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、イ又はロに定める金額に相当する部分

    1. イ.第3条第1項第2号の被相続人のすべての相続人が取得した退職手当金等の合計額が500万円に当該被相続人の第15条第2項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額(ロにおいて「退職手当金等の非課税限度額」という)以下である場合 当該相続人の取得した退職手当金等の金額
    2. ロ.イに規定する合計額が当該退職手当金等の非課税限度額を超える場合 当該退職手当金等の非課税限度額に当該合計額のうちに当該相続人の取得した退職手当金等の合計額の占める割合を乗じて算出した金額

解説

1.相続人の取得した第3条第1項第1号に掲げる保険金

上の条文で、五.に相当するのが『生命保険金』のことです。

2.相続人の取得した第3条第1項第2号に掲げる給与

上の条文で、六.に相当するのが『退職金』のことです。『第15条第2項に規定する相続人』という言葉が出てきます。これを『法定相続人』といいます。もし、その相続の放棄をした相続人がいた場合でも、その放棄はなかったとした場合の相続人のことをいいます。

簡単に説明しますと、法定相続人の数に500万円を掛けた金額までが、生命保険金でも退職金でも非課税となります。これを、『非課税限度額』といいます。具体的に生命保険金や退職金を取得した相続人の非課税額は次の式のようになります。

1人の相続人の非課税額の計算式
1人の相続人の非課税額 = 非課税限度額 × その人の保険金の取得割合

相続税に関する用語解説

非課税財産
続税の課税価格に算入しない財産。相続財産の中でも、墓、生命保険金のうち一定額、退職金のうち一定額などは課税されない。
法定相続人
血縁関係及び法定血縁関係(養子縁組など含む)があり相続人となり得る人。
相続の放棄
人が死ぬと相続が発生し、その段階では相続人全員がその人の財産を引き継ぎます。相続人皆の共有ということです。しかし、「その財産をいらない」と言う人がいれば、そのことを裁判所で申し述べて、相続の放棄をします。相続の放棄は、法律手段なのです。一般によく言われるように『いらない』と言う口約束ではありません。
相続人
被相続人の財産を引き継ぐことができる人。
非課税限度額
(500万円×法定相続人の数=非課税限度額)の計算式で算出した額が、非課税限度額以下の時は課税されない。超えるときは超える金額が相続税の対象になる。

相続財産とは?

民法896条『相続の一般的効力』に次のようにあります。『相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。但し、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない』

したがって、相続財産は「被相続人の一身に専属したもの以外の一切の権利義務」ということになります。『権利』とは,資産(積極財産)のことです。被相続人所有の不動産(土地・建物)、有価証券(株式等)、預貯金および現金等です。『義務』とは、負債(消極財産)のことです。被相続人の借入金(借金)等です。これらを『本来の相続財産』といい、相続が開始したとき、その『本来の相続財産』と同じ効果をもたらすものを『みなし相続財産』といっています。

概略を把握していただくために、『みなし相続財産』の代表例ともいえる2つを説明しましょう。

相続税に関する用語解説

被相続人の財産
死亡した者の財産。
被相続人
死亡した人。
相続財産
相続の対象となる財産。例えば税理士という資格はその人だけに備わるもの(一身専属権という)なので相続できない。
積極財産
プラスの財産。「借金も財産のうち」と言われるが、それはマイナス財産、消極財産という。
みなし相続財産
相続が開始したとき、その『本来の相続財産』と同じ効果をもたらすもの。取得したものとみなされる財産という意味で、「生命保険金」や「退職金」などがある。

みなし相続財産の代表例

1.生命保険金

人は生命保険に加入する場合、誰が死亡した場合に(被保険者といいます)保険金がおりるのか、その生命保険金の毎月の掛金を誰が負担するのか(保険料負担者といいます)、そして、被保険者が死んだ場合(保険事故といいます)に誰が生命保険金を受け取るのか(保険金受取人といいます)を決める必要があります。この決め方が重要なのですが、ここでは、被保険者、保険金受取人、保険料負担者の関係を理解してください。

生命保険の関係図

「被保険者=被相続人」、「生命保険金の受取人=相続人」、「生命保険金の保険料負担者=被相続人」という典型的な場合を考えてみます。被相続人がまだ生前の場合は、生命保険金は被相続人の財産ではありません。死ぬとその瞬間に相続人に受け取りの権利が発生します。民法上の財産ではないので、『相続財産』に入らないとすれば、相続人が受け取った生命保険金はいったい何なのでしょう。被相続人が生前に手元に持っていた現金となんら変わらない効果があるのです。もらった人はその現金を使うことができます。だから相続税法では『民法上の本来の財産』ではないけれども、その効果が同じものという意味で、『みなし相続財産』という考え方を導入しているのです。

「それじゃ、貰った人が相続人の場合だけが課税されるのか?」という疑問が生じてくればしめしめです。父親が自分の死亡を保険事故として生命保険金に加入し、月々の掛金(保険料)は自分が負担し、そして自分が死んだ場合、生命保険金は『妻』である配偶者に下りる契約をした場合、配偶者は基本的に相続人ですので、今まで説明した例と合致します。では、受取人を『孫』にしたとしましょう。父親の子供、つまり孫の親は健在です。代襲相続はありません。したがって、孫は父親の死亡の相続では相続人ではありません。『相続人以外の者』です。この場合は『遺贈』により取得したものとみなしています。

つまり、「被保険者=被相続人」、「被保険者=生命保険金の保険料負担者」、そして、「生命保険金の受取人=相続人」の場合は、『相続』により取得とみなし、相続人以外の者の場合は『遺贈』により取得とみなしているということです。

2.退職金

被相続人が勤めていた会社から、被相続人の死亡により退職金が支給される場合があります。その支給額は一般に、その会社に貢献した程度に応じて支給されるようです。会社と従業員との契約により、退職金規定なるものや『死亡の退職金』の規定があれば、その規定により支給を受けるでしょう。役員でも従業員でも一向にかまいません。死亡を原因として勤めていた会社から支給される退職金がここでいう『みなし相続財産としての退職金』です。

ある人が重病で、または重症で病院に入院してしまったという不幸な場合を考えたとき、「その状態でもう会社に勤務することはできない」と判断されて、退職金が支給されたような場合を考えてみます。その人は退職金が支給された時点では、まだ生存しています。自分が動けるか動けないか、考えられるか考えられないかということではなく、法的にまだ「生きている」場合は、その退職金は「生存しているその人」に支給されます。

運が悪くその人がその後死亡したとすれば、退職金として相続財産を構成するのではなく、手元にある現金として相続財産に組み入れられます。では、『死』という事実に基づいて支給される退職金は、当然死亡した人に支給できるものではありません。だから一般的には相続人に支給されます。

生命保険金のときに説明したように、『民法上の財産』ではないので、相続財産ではないとすれば、この現金は何なのか?ということになってしまいます。だからこの場合もその効果が同一という点に着目して『みなし相続財産』という考え方のカテゴリーに入れてあるのです。そしてこの場合も、貰った人が相続人ならば『相続』により取得し、相続人以外の者ならば『遺贈』により取得したものとされています。

相続税の条文では次のようになります。

相続税法第3条

(相続又は遺贈により取得したものとみなす場合)

次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該各号に掲げる者が、当該各号に掲げる財産を相続又は遺贈により取得したものとみなす。この場合において、その者が相続人(相続を放棄した者及び相続権を失った者を含まない)であるときは当該財産を相続により取得したものとみなし、その者が相続人以外の者であるときは当該財産を遺贈により取得したものとみなす。

  1. 1.

    被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(これに類する共済に係る契約で政令で定めるものを含む。以下同じ)の保険金(共済金を含む。以下同じ)又は損害保険契約(これに類する共済に係る契約で政令で定めるものを含む。以下同じ)の保険金(偶然な事故に基因する死亡に伴い支払われるものに限る)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。以下同じ)について、当該保険金(次号に掲げる給与及び第5号又は第6号に掲げる権利に該当するものを除く)のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。以下同じ)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分

  2. 2.

    被相続人の死亡により相続人その他の者が当該被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(政令で定める給付を含む)で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合においては、当該給与の支給を受けた者について、当該給与

まだまだ『みなし相続財産』はあります。財産には『積極財産』、『消極財産』、『非課税財産』、そして『みなし財産』というものがあると理解してください。

相続税に関する用語解説

被保険者
その人の生死・ケガ・病気などが保険の対象となっている人。
保険料負担者
生命保険金の掛け金(保険料)の支払義務も持つ人。
保険事故
保険契約により定められた、「死亡」など保険の対象となる事柄。
遺贈(いぞう)
一般には遺言のこと。遺言に基づいて財産を引き継ぐこと。

Profile

税理士鈴木 千弘先生 Chihiro Suzuki

1952年生まれ/血液型A型
横浜市立大学商学部経営学科卒業
昭和63年1月事務所開業以来「歌って踊れる税理士」として多数のクライアントを持つ。