鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.9 相続税と贈与税は、車の両輪 ~切っても切れない腐れ縁~鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.9 相続税と贈与税は、車の両輪 ~切っても切れない腐れ縁~

計算とか条文とか、とにかく少し飽きてきたところだと思いますので、今回は少し毛色を変えて、『贈与税』というものを中心に解説します。「おいおい、相続税の解説のコーナーじゃないのか?」という向きもあろうかと思いますが、この『贈与税』と『相続税』とは、切っても切れない関係にあるものなのです。もうべたべたです。仲の良い夫婦とでもいいますか、どちらが欠けてもなんだかバランスが取れない、というものです。

『贈与』と『相続』との違い

『相続』とはどういうものかが、何となくご理解いただけたと思います。ひとことでいうと、「親の稼いだ財産を子供がもらう」。つまり、「自分が稼いだ財産を自分の血筋に渡す」ということです。

もちろん、相続にはいろいろなパターンがありました。親子関係だけが相続の対象ではありませんが、1番代表的な場合を考えますと、「親」と「子」の場合がそうなるでしょう。この例でいいますと、「親が汗水流して稼いだ財産を子供が『相続』でもらう」ということです。これを少し難しくいえば、「親の財産に対する権利が子に移る」ということですね。それも『親の死亡』という事実に基づいてです。

では、親がまだ健在だという場合を考えましょう。生きている親が、生きている子供に、親の財産をあげる、という場合は『贈与』になります。親が死んだ場合に、子供に親の財産が移るのが『相続』で、生きている場合に親の財産が子供に移るのは『贈与』です。この違いは、「親が生きているか」、「死んでいるか」ということだけです。

相続税に関する用語解説

相続
人の死亡を原因とするその人の財産の移転。
贈与
生きている人が生きている人に物をあげる、そしてそのもらう人が「もらいます」という意思表示をすることによる財産の移転。

『贈与税』と『相続税』とはどっちが得か?

それでは『贈与税』というものがなかったらどうなるでしょうか?

親が何もしないで自分の財産を必死に抱え込んで死を迎えた場合、親の財産が相続で子供に移り、この場合『相続税』がかかります。それでは、親が生きている間に、自分の財産を全て子供にあげてしまったら、親が死んだとき財産は何もありませんので、『相続税』はないことになります。この両者の違いは、「親が子供に対して信頼している」ということ以外にないのではないでしょうか?

「俺の目の黒いうちはお前に俺の財産は自由にさせない」と考えるのか、「いいよ、お前はもう立派な大人だ。俺の財産を自由に使ってかまわない」と考えるのか。この違いだけで、相続税がかかる場合とかからない場合があってもいいものでしょうか?どう考えても不公平だと思いますよね。

それで生きている間に財産をあげたときにかかる税金を、『贈与税』として捉えているのです。難しくいえば、「贈与税は相続税の補完税」という関係になります。

相続税を補完する税が『贈与税』ですので、当然相続税よりも税率が高くなります。税率が高くなる、と表現しましたが、税額が高くなるといってもかまいません。

税金の額の計算式は一般には次のようになります。(税率はVol.3の相続税速算表参照

相続税額の計算
相続税額= 課税価額x税率
相続税の基礎控除額の計算
相続税の基礎控除額= 3000万円+600万円x法定相続人の数

相続税の場合の課税価額は、Vol.3で解説しました。相続財産の総額から相続税の基礎控除額を引いた金額です。

相続税の課税価格の計算
相続税の課税価格= 被相続人の財産の価格-基礎控除額

法定相続人とは、その相続の相続人で相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人のことでした。

ところで、贈与税の方が相続税より高い税金を納めなければならないというのは、本来「相続により財産は移転するもの」ということが前提となっています。相続をまたずして贈与により財産の移転を図るのは、それなりの利益が相続より前に与えられるということから、税率が高くなっているのです。

基本的に高い税額を先に納めてもいいという場合には『贈与』を行うことになります。その場合は、相続では課税されません。

もちろん例外はあります。税法には基本があって、必ずといっていいほど例外があります。例えば相続開始前3年間の贈与財産(Vol.5)は、その相続のときにもう1回相続財産に加算して税額を計算する、という規定です。

相続税に関する用語解説

贈与税
贈与により財産を取得した個人に課せられる国税。財産をある人からある人にあげる、またはある人から財産を貰った時にかかる税金。
相続税
人が死亡した時点で初めて発生する税金。
法定相続人
血縁関係及び法定血縁関係(養子縁組など含む)があり相続人となり得る人。
相続の放棄
人が死ぬと相続が発生し、その段階では相続人全員がその人の財産を引き継ぎます。相続人皆の共有ということです。しかし、「その財産をいらない」と言う人がいれば、そのことを裁判所で申し述べて、相続の放棄をします。相続の放棄は、法律手段なのです。一般によく言われるように『いらない』と言う口約束ではありません。

『相続時清算課税制度』とは?

ところが、先般の相続税法の改正(平成15年1月1日以後適用)で、この基本原則が変わってしまいました。多分に政策的な考え方が影響した結果なのですが、一定の親、またはその親から財産を生前にもらった一定の子供の場合には、2,500万円までは贈与税がかからずに、そしてその2,500万円を超えた部分に20%の税率での贈与税を納めればいいという法律ができてしまいました。20%パーセントという税率は、現在の法律の上では非常に小さなものなのです。今までは贈与税の非課税額は110万円ですので、比べればずいぶんと有利な制度でしょう。

これは景気がよくならないので、土地などがもっと動くようにして景気を刺激したいという考え方から決まった制度です。この制度は、『相続時清算課税制度』といいます。これを選んだら、その贈与財産は、その相続のときに期限に関係なく、全額相続財産に加算しなければなりません。制度の内容は次回に説明するとして、この制度が法律に導入されたことにより、「贈与税は相続税の補完税」という基本的な考え方が崩れたということを理解してください。

贈与税は例外を除いて、「贈与という生前の行為により、高い税額の納付で課税関係を終わりにする」ということが大前提です。相続税よりも高い税額という意味です。

ですから、この『相続時清算課税制度』が相続税法に導入されたことにより、本来の贈与税の意味合いが崩れたといえるのです。

相続税に関する用語解説

一定の親、またはその親から財産を生前にもらった一定の子供
「65歳以上の親が、その親が今死亡した場合に相続人となる子供(推定相続人という)で、20歳以上の者に財産をあげる」ということが条件となる。

Profile

税理士鈴木 千弘先生 Chihiro Suzuki

1952年生まれ/血液型A型
横浜市立大学商学部経営学科卒業
昭和63年1月事務所開業以来「歌って踊れる税理士」として多数のクライアントを持つ。