鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.17 相続税法の体系鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.17 相続税法の体系

今回は相続税というものにもちろん関係する話ですが、それよりも税法の作り、つまり体系というものを理解していただこうという趣旨です。法律がどのように作られているのかを知ることは、実務ではもちろん重要なことです。

考えてもみてください。経済とか政治とか、僕たちの生活は法律で規制されています。そしてその規制に則って生活しているわけですが、規制だけで生活しているわけではありません。その規制の「枠内」で自由に生活しているはずです。すると法律に書いてない行為の方が書いてある行為より断然多いし、それが自然です。つまり、法律ですべてのことを書けるはずはないのです。

『租税特別措置法』が『相続税法』より優先される!?

Vol.9で「相続税の基礎控除額」は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」と説明しました。つまり相続財産の課税価格がこの基礎控除額以下ならば1円の相続税もかからないというものです。

これは『贈与税』にもあります。贈与財産の課税価格が110万円以下ですと、贈与税は1円もかかりません。これはかなり有名なもので、「110万円までは贈与税はかからないよな」とよくいわれているものです。それはその通りです。贈与税の基礎控除は現在110万円です。だからといって「贈与税の基礎控除額」は110万円と理解してしまうと、それは間違いの元となります。

「なにッ、言っていることがちぐはぐじゃないか」とお叱りになる方も多いでしょう。まあ、聞いてください。

贈与税は『相続税法』という法律にあります。そしてその相続税法が基本です。

相続税法

第21条の5 贈与税については、課税価格から60万円を控除する。

したがって「贈与税の基礎控除額は60万円」です。
しかしながら、『租税特別措置法』という法律があります。そこには次のように規定されています。

租税特別措置法(贈与税の基礎控除の特例)

第70条の2 平成13年1月1日以後に贈与により財産を取得した者に係る贈与税については、相続税法第21条の5の規定にかかわらず、課税価格から110万円を控除する。

これがどういう意味かを考える場合、税法の体系が頭に入っていないといけません。

つまり「贈与税の基礎控除額は60万円」が本来なのです。それを『租税特別措置法』という特例法で110万円まで上げているわけです。「特別が基本を制する」といって良いでしょう。まず特別な法律が適用になり、そして基本的な法律が適用になっていきます。

より具体的にいいますと、租税特別措置法が相続税法の規定より優先し、租税特別措置法にないものは基本である相続税法に戻る。そして、相続税法自体でもなお規定がないものは『国税通則法』に戻る、ということです。

相続税に関する用語解説

相続税
人が死亡した時点で初めて発生する税金。
贈与税
贈与により財産を取得した個人に課せられる国税。財産をある人からある人にあげる、またはある人から財産を貰った時にかかる税金。
国税通則法
1962年(昭和37)に制定された国税に関する基本事項および共通規定を定める法律。各租税法に特則がない限り、すべての国税に適用される。

相続税法の体系のしくみ

相続税法体系図

法律

通達(法律でない)

  • 相続税基本通達
  • 租税特別措置法基本通達
  • 相続税個別通達
  • 租税特別措置法個別通達
  • 財産評価通達

『国税通則法』は、国税に関する一般的なことを規定しています。日時の計算の方法や、確定申告など大きなところからの規定と理解してください。

この国税通則法を受けて、具体的に相続に関する法律を規定しているのが『相続税法』です。この相続税法の中には『相続税』と『贈与税』が規定されています。

「相続税法施行令」は『相続税法』の規定をより具体的に適用するための規定です。「相続税法施行規則」はいわゆる細則です。

『租税特別措置法』はそのときの事情、政策的な観点から特別にこうした方が良いというものを法律として規定したものです。そして「租税特別措置法施行令」「租税特別措置法施行規則」は、相続税法とその施行令施行規則との関係と同じです。

ここまでは「法律」ですが、青い部分は法律ではありません。従わなくてもいいものなのですが、実務上はこの「通達」に則って処理されていますので、ほぼ、法律的な効果があるといっても良いでしょう。

しかしながらあくまでも法律ではありませんので、この通達に規定されているもの以上に合理的かつ正確ならば、この通達に従う必要は全くないのです。

相続税に関する用語解説

通達
法律ではないが、ある事象のもっとも基本となる考え方を記して、行政の統一を図ろうとするもの。

法律は基本に戻る

まとめますと、まず特別法が適用されますが、それに適用されないようなことは、基本法である『相続税法』が適用されます。

相続税法もすべてのことを規定しているわけではありませんので、もし相続税法に定めがなかった場合は『国税通則法』に戻ります。

国税通則法でもすべてが規定されているものではありません。すると国税通則法でも定めがない場合は「商法」や「民法」に戻ります。ひいては裁判での「判例」などに戻ることになります。

このようにどんどん基本の法律に戻っていき、最終的には「人間による判断」ということになろうかと思います。そこには税法上の常識が重要となるということです。

よく「社会通念」という言葉を耳にするでしょう。これがそのことです。だからこそ「社会通念」という意味は拡大解釈もできるし縮小解釈もできます。ここに税務上の「争いごと」が発生するのです。司法の場で最終的に決着をつけることになりますが、その前に税務上の「司法」的な機関もあります。「国税不服審判所」というものがそれですが、このコーナーがもっと進んでいけばきっと「裁決事例さいけつじれい」などが例題としてここに書かれる日が来るのかもしれません。裁決事例はいってみれば「判例」です。でもそれはかなり「専門的」になりますので何とかやさしく解説できないかを私なりに研究しているところです。

相続税に関する用語解説

国税不服審判所
税金には大きく分けて『国税』と『地方税』がある。『国税』は国に課税権がある税法で、たとえば法人税法、所得税法、相続税法。『地方税』は地方公共団体に課税権があるもので、住民税、事業税など。この『国税』に関して、税務行政との間で意見が違い、たとえば税務署が示した「考え方」に対して納税者が「不服」がある場合がある。この不服を訴えることができる機関が『国税不服審判所』である。いってみれば「税金の裁判所」。
裁決事例さいけつじれい
国税不服審判所に挙げられた事案の決裁の状況を示した文書。普通の裁判所で審議されたものは『判例』としてよく知られているが、税金に対しての『判例』のこと。

Profile

税理士鈴木 千弘先生 Chihiro Suzuki

1952年生まれ/血液型A型
横浜市立大学商学部経営学科卒業
昭和63年1月事務所開業以来「歌って踊れる税理士」として多数のクライアントを持つ。