鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.21 遺産分割が決まらない時には 2 -未分割遺産に対する課税と寄与分の規定-鈴木千弘税理士の法律講座 Vol.21 遺産分割が決まらない時には 2 -未分割遺産に対する課税と寄与分の規定-

前回お約束したように、今回は「未分割遺産に対する課税」について詳しくご説明いたします。相続税法第55条です。この条文は前回に掲載してありますが、ここでもう一度載せます。

未分割遺産に対する課税

相続税法第55条
(未分割遺産に対する課税)

相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によつてまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除く)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする。ただし、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従つて計算された課税価格と異なることとなつた場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは第32条の更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない。

まずこの条文の中で括弧書きについて説明します。

「各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除く)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に」という文章の中です。つまり民法第904条の2に規定されている寄与分を除く、ということですが、寄与分とは何だ?ということです。民法第904条の2には次のようにあります。

寄与分の規定

第904条の2
(寄与分)

  1. 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
  2. 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
  3. 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
  4. 第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。

解説

寄与分はあくまでも共同相続人の中で起こる問題です。相続人でない者には「寄与分」という考え方はありません。これは、法定相続分が「相続人間での平等」を前提とした制度であるのに対し、特別に「寄与」した者に対してはそれを別に認めようというものです。

思い出してください。第一順位の相続の場合、法定相続分は、子供全員で1/2、配偶者1/2、第二順位の相続の場合は両親で1/3、配偶者2/3、そして第三順位の場合は兄弟姉妹で1/4、配偶者3/4でした(Vol.1)。これら共同相続人の中で、特別に寄与したものがあるときは、遺産分割協議の際、その寄与分を共同相続人で決定してその分を相続財産からあらかじめ除外しておいて、残りの相続財産を相続分で分配し、その寄与した者に寄与分として除外した相続財産を加えるのです。

「2. 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める」とありますが、これは3項で制限されています。その制限は次の二つです。

第907条第2項の規定による請求があった場合

遺産の分割は共同相続人が原則として協議して定めるのですが、共同相続人間で協議が調わないときまたは協議できないとき、共同相続人は家庭裁判所のその分割の申請をすることができることになっています。この請求があった場合のことです。

第910条に規定する場合

(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)第910条

相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

「3. 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない」

これはどういう意味か?

遺贈とは遺言に基づいて財産を与えることをいいます。ですから相続財産の合計が1億だとした場合、5,000万円分を遺言でAさんに与えることにされているとしますと、残り5,000万までしか寄与分として指定できないということです。もしこの規定がなかったら、遺言によりAさんに与えられた財産を寄与分として取り戻すことにもなりかねません。それでは遺言の意味がなくなってしまう可能性があるからです。

未分割遺産の場合、寄与分は考慮しない

未分割遺産の場合には、この寄与分は計算に入れません。つまり寄与分はないとした場合の法定相続分で未分割遺産を仮に分配します。例を示します。

例:相続財産が1億円の場合

第一順位の相続が発生したとします。配偶者と子供3人が相続人という場合、法定相続分は配偶者1/2、子供3人で1/2です。相続財産の合計を今1億とします。この1億の中から子供Aに寄与分として1,000万を与える及び分割は法定相続分とする協議が調ったとします。分割が確定している場合は、この1億から1,000万を控除した9,000万を法定相続分で取得します。配偶者9,000万÷2=4,500万。子供Aは9,000万÷6=1,500万。1,500万に寄与分の1,000万を加えます。つまり2,500万です。子供BとCはそれぞれ1,500万となります。

例:未分割で深刻期限を迎えた場合

分割が確定せずに未分割のまま相続の申告期限を迎えた場合には、この寄与分を無視して計算することになりますから、配偶者1億÷2=5,000万、子供3人はそれぞれ1億÷6=1,666万6,666円となります。こうして計算した金額を元に相続税額を算出して一旦相続税を納付しますが、後日分割が確定して今ここで計算したものと異なることとなった場合には、納税者から修正申告あるいは更正の請求または税務署長が更正または決定をすることになります。

さらに重要なことが一つあります。「配偶者の相続税額の軽減」の規定ですが、これは分割が確定していることが前提ですので、未分割の場合にはこの規定の適用はありません。従って未分割ですと約半分くらいの相続税額がいったん多く納付されるという事態になります。後日配偶者が分割で財産を取得した場合は更正の請求をしてこの既定の適用ができますが、一定の要件があります。

Profile

税理士鈴木 千弘先生 Chihiro Suzuki

1952年生まれ/血液型A型
横浜市立大学商学部経営学科卒業
昭和63年1月事務所開業以来「歌って踊れる税理士」として多数のクライアントを持つ。