薬剤師のクスリと健康薬剤師のクスリと健康



クスリの現状 処方薬と市販薬の違い 市販薬の選び方 正しいクスリの服用 クスリの保存期間 調剤時に必要なこと 薬剤師の仕事

クスリの現状
Q 最近、クスリの消費量は増えているのでしょうか?
A 総合的にクスリの消費量は、増加していると思います。

 日本の高齢化率は、世界でも例を見ないほど急激に進んでいます。高齢になるにつれて、複数の疾病を併発している方が多く、健康保険制度を利用して医療機関を受診する頻度も多くなります。従って、処方薬の需要は多くなっています。
 市販薬は、オーバー・ザ・カウンター(※1)とも呼ばれ、薬局で薬剤師と相談をしながら買うというのが本来の姿です。しかし、最近大手の薬局などでは、クスリがスーパーマーケットのように棚に陳列されていることが多く、かごに入れてレジで支払うなど、以前に比べ手軽に買えるようになりました。また、1997年(平成9年)の医療保険改革法施行で、サラリーマン本人の負担が2倍になり、病院での患者負担が増加していることから、市販薬の消費量も増えていると思います。
 最近では、サプリメント(※2)特定保健食品(トクホ)(※3)の消費量も増えています。ペプチド類(※4)を使用した商品がありますが、これは一部の医療用の降圧剤と同じような作用があります。しかし、医療機関で治療している人にはおすすめできません。トクホにより血圧変動があり、医療機関での薬剤決定や投与量の判断にずれが生じやすいために注意が必要です。

Q 処方薬で需要が多いのは、どのようなクスリでしょうか?
A 成人病関連のクスリが多いと思います。

 各製薬メーカーがしのぎを削って、新薬がどんどん開発されています。1年間で、57万人以上(全死亡の6割以上)の人が成人病の疾病により死亡しています(厚生労働省「人口動態統計」より)。また、主要な疾患別にみてみますと、高血圧性疾患、心臓病、糖尿病、がんなどの患者数は、1300万人余りにのぼり、医療機関での治療を受けていない患者を含めると、この数倍になると予想されます(厚生労働省「1999年(平成11年)度の患者調査」より)。従って、処方薬(※5)では、成人病に関連したクスリが多いと思います。

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処方薬と市販薬の違い
Q 処方薬と市販薬では基本的に何が違うのでしょうか?
A 含まれる有効成分の量と、成分の種類が違います。

 処方薬と市販薬では、有効成分の含有量に違いがあります。市販薬の成分量は、処方薬より半分か、それ以下と少なくなっています。また、市販薬の成分の種類は、配合剤(※6)になっているのがほとんどです。咳止め、解熱剤、胃薬が一緒になったカゼ薬(総合感冒薬)とか、咳、鼻水などの配合剤です。それに対し、処方薬は、ほとんどが1種類の成分です。市販薬ではカゼ薬といえば1つですみますが、処方薬では抗生物質、解熱剤、咳止めなどのクスリが数種類も出されます。
 最近では「H2ブロッカー(※7)」などのように医療用医薬品から市販薬に切りかえられるクスリ(スイッチOTC薬(※8))も出てきましたが、処方薬の大部分は医師の診断のもとで使われる「医療用医薬品」です。市販薬とは、「薬局で売っている薬」で、「オーバー・ザ・カウンター(OTC薬)」とも呼ばれ、薬剤師と相談しながらクスリを買うという方式です。「一般薬」、「大衆薬」とも呼ばれて、医療機関で処方してもらう「医療用医薬品」と区別されています。また、処方薬は健康保険が適用されますが、市販薬では適用されません。

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市販薬の選び方
Q 市販薬を選ぶ時は、どんなことに注意すればよいでしょうか?
A 薬剤師と相談しながら、症状に合ったものを選ぶことです。

 市販薬を選ぶ時は、どういう症状なのか薬剤師とよく相談しながら、症状に合ったものを選ぶことが大切です。市販薬は簡単に買えますが、間違った知識や情報による自己判断は大変危険です。薬剤師によく相談した上で服用したいものです。市販薬も多くの種類があり、内容や飲み方もそれぞれ特徴があります。患者さんが症状を適切に伝えることで、薬剤師は患者さんの症状に合ったクスリを選ぶことができます。ぜひご自宅の近くに、「かかりつけの薬局」を1ヵ所決めておくのがいいでしょう。信頼できる薬剤師が、調剤してもらう時も、市販薬を買う時も、クスリに関する情報とあなたの体質を総合的に判断し、飲み合わせのチェックなどもしてくれます。


カゼ薬によるアレルギー性の間質性肺炎のケース

 カゼ薬を飲んでも症状が治りにくい場合、そのクスリの服用を止めたり、他の違うクスリにかえるとカゼが治る場合があります。また、カゼをひいたとき、最初と同じカゼ薬を飲むとセキがひどくなり、熱も下がらない場合があります。そして、カゼが悪化したような気がします。しかし、クスリを止めると、自然に治ります。この場合は、カゼ薬によるアレルギー性の間質性肺炎のケースが疑われます。このような症状が見られた場合は医師の診察を受けることをおすすめします。

一般用カゼ薬による間質性肺炎に係る使用上の注意の改訂について(厚生労働省)

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正しいクスリの服用
Q クスリを服用する時には、どんなことが大切ですか?
A クスリの説明書や薬剤師の指導などで正しく服用することです。

 薬剤師は、処方されたクスリについての説明が義務づけられています。クスリの名前、用法・用量、効能・効果、副作用の他、食事、飲み物などの注意、保管や特に注意する事項などを詳しく説明しています。わからないことがあったら、何でも薬剤師に質問してください。市販薬の場合は、必ず効能書が入っています。「使用上の注意」は、副作用に関することなどが書いてありますので、毎回必ず目を通すことが大切です。クスリを正しく服用するということは、知っているようで案外間違えていることも多いのです。クスリの効果が発揮できるように、正しい飲み方をもう1度確認しておきましょう。


正しいクスリの飲み方
1. コップ一杯の水や白湯で飲みます。多めの量で飲むと胃の負担が少なくてすみます。
2. 水なしで服用すると、胃や食道を荒らすことになるので避けましょう。
3. 水以外で飲むと効果が期待できなかったり、副作用が現れたりするので避けましょう。
4. 「食前・食間・食後・寝る前」などの用法と用量をきちんと守って下さい。
食前:食事の30分~1時間以内で空腹の時間帯。
食間:食時と食事の間のことで、食後2~3時間経過し、空腹の状態の時。食事中ではないので要注意!
食後:食事後、30分以内。
食直後:食後すぐ。食事の途中でも問題なし。
寝る前:寝る30~1時間前。
5. クスリを服用する時は、上体を起こした姿勢で服用し、クスリが確実に胃に到達するように、飲んだ後も15~20分は起きた姿勢でいるようにします。
6. クスリの保管には十分に気をつけてください。(高温多湿を避けること)
Q 食前と食後を間違えてしまった場合は、どうすればよいでしょうか?
A クスリの効果が発揮されるよう、服用時間帯は必ず守ってください。

 クスリは、指示どおりに飲むことによって効果が発揮されます。食前に飲まなくてはならないのに、食後に飲むとあまり効果が期待できません。たとえば、食物アレルギーのクスリとか、糖尿病のクスリなどは、食前に飲んで吸収を遅らせる効果があるのです。これらを食後に飲むと、効果は期待できなくなります。また、食間(食後2~3時間後)に服用する胃潰瘍の薬は、荒れた胃の粘膜を治す効果があるのですが、食後に飲むと効き目が期待できません。重大な副作用は少ないと思いますが、次回の服用時からは指示どおりに服用してください。飲み忘れたからといって、前回分と合わせて2倍の量を服用したり、飲みずらいからと、かみ砕いたり、カプセルから取り出しての服用は危険です。
 このように、定められた服用時間帯を守ることは、クスリの効果を十分に発揮させ、副作用を防止するためにも、最も基本的で重要なことなのです。わからない点や、生活環境の違う方(夜間業務など)は、薬剤師に相談してください。

Q クスリの服用を、途中でやめてしまうのは問題がありますか?
A 自己判断で服用を中止するのは危険です。

 「身体の具合がいいから、このクスリはやめておこう」と、自己判断で服用を中止するのは危険です。患者さんが飲んでいないという事実を、医師が理解しているというコミュニケーションが大切だと思います。それが本当の信頼関係につながると思います。そうでないと、病院も転々とかえてしまうという人が多いような気がします。医師を選ぶのも大切ですが、基本的には医師を信じ、治療に専念することだと思います。

Q 朝食にジュースを飲んでから、クスリを服用しても問題はありませんか?
A オレンジジュースであれば問題はありません。

 成人の方で高血圧治療に汎用している「カルシウム拮抗剤」を、グレープフルーツジュースで飲まないというのは定着しているようです。まだ解明されていませんが、グレープフルーツジュースの成分である「フラボノイド」が薬剤の吸収に影響して、薬剤の血中濃度が高くなり、クスリの効果が強く出てしまうといわれています。
 ここで問題なのは、その降圧剤を服用している人は「グレープフルーツを食べられない」と誤解していることです。そのため、ご年配の方はグレープフルーツを食べない人が多いそうですが、それは誤解です。あくまでも、クスリを服用する時には、グレープフルーツジュースを飲まないということです。従って、食事以外の時には、グレープフルーツを食べても問題はありません。また、朝食にジュースが欠かせないという人は、「フラボノイド」が含まれていないオレンジジュースを飲めば問題はありません。

Q 食後のお茶でクスリを服用しても、問題はないでしょうか?
A 緑茶(とくに玉露)に含まれるカフェインに注意すべきです。

 広く知られているのは、鉄剤との相互作用で、添付文書にも注意事項が記載されています。鉄とタンニンが不溶性の塩を作り、吸収が阻害されるというものです。健康な方は鉄吸収に影響しますが、鉄欠乏性貧血の患者ではあまり影響しないという報告もあり、さほど問題ではないと思えます。それよりもむしろ、緑茶(とくに玉露)に含まれる「カフェイン」に注意すべきです。「シメチヂン(胃炎・胃潰瘍の薬)」はカフェインの代謝を遅らせ、心血管系、中枢神経系の作用が増強され、動悸などが現れることもあります。

Q クスリの剤形(散薬・錠剤・カプセル剤・液剤)によって、効き目が違うということはありますか?
A クスリの効き目には大差はありません。

 作用の発現時間に若干の差があるようですが、飲み薬においてはカプセルでも散剤でも効き目に大差はありません。ご自分の飲みやすい剤形で服用するのがいいでしょう。しかし、これらの剤形は、そのままの形で服用するのが原則です。つぶしたり、かみ砕いたり、カプセルから中身を取り出して服用しないようにしてください。

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クスリの保存期間
Q クスリの保存期間はどれくらいでしょうか?
A 成人向け内服薬はだいたい3年が目安です。

 小児用シロップ製剤などは、その病気が治ったら処分された方がよいでしょう。成人向け内服薬は、だいたい3年を目安にしてください。ただし、いったん開封した場合は、剤型や保存の状態によりますが、6か月~1年と考えてください。この範囲内であれば、カゼ薬など、以前のものが残っている場合には、かかりつけの医師に問い合わせると、症状を聞いて前の薬をとりあえず飲んでおく等の指示はしてくれると思います。そういう選択も大事だと思います。

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調剤時に必要なこと
Q 調剤する時に、患者さんに求めるものは何でしょうか?
A 服用しているクスリやサプリメントなどを知らせてもらうことです。

 患者さんと医師との信頼関係が得られていても、クスリを正しく利用していないと、実際の効果が出ません。その結果、患者さんにとって、治療の成果が得られないという誤解が生じる場合が多いような気がします。また、年配の方になってきますと、専門領域だけのケースもありますが、複数にわたって受診されている方が多くなってきます。クスリが重複しているものや相互作用などの問題があるのですが、患者さんはあまり言いたがらないのが一般的です。患者さんの情報が十分に得られていないのが現状です。
 その結果、臨床面での効果と薬の投薬上でのギャップが出てきてしまうのです。最近では、医薬品ではありませんが、効果の認められている特定保健用食品(トクホ)やサプリメントを使用されている方も多くいます。飲み合わせの問題が、とても重要になってきますので、患者さんは自分が服用しているクスリの情報を、薬剤師に知らせるというのが、実はとても大切なことなのです。


クスリの飲み合わせに注意しましょう!

 つい最近、私の知人に起こったことです。胃潰瘍と循環器系の病気を重複している人で、血液の流れを良くする薬(血栓予防などの薬)を服用したところ、胃炎を起こし突然吐血してしまい、救急車で運ばれました。これは、クスリの副作用の危険な例です。血栓予防などの薬は、副作用として出血性の素因があるものなので特に注意が必要です。
 これは明らかに、病気が重複しているという情報が医師に伝わっていなかったことが原因です。血栓などの薬は出血性の素因があるので、胃潰瘍の人が服用すると、出血があるというのはある程度予測できることなのです。ごく、まれにこういうケースがありますので、患者さんは現在服用中のクスリを全部、医師に伝えておくことがとても重要なことなのです。


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薬剤師の仕事
Q 薬剤師の仕事についてお伺いしたいのですが?
A 薬剤師法では次のように定められています。

 「薬剤師の任務:第1条 薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、国民の健康な生活を確保するものとする」
 調剤を主とした薬局では、患者さんから処方せんを頂いて、クスリをお渡しする流れの中で、「医薬品使用の安全性と有効性」を確保する業務を行っています。具体的には、次の3つが大事な柱になっています。
1.まず、処方せんの監査です。処方せんは正しい情報になっているか、間違いはないか、市販薬を含めて他のクスリとの飲み合わせはないか、などを患者さんから頂いた情報と合わせて監査し調剤します。
2.患者さんにクスリの説明と適切な指導をします。
3.クスリの情報や患者さんの医薬品服用状況など必要に応じて医療機関に知らせます。

Q 薬剤師の方が1番気をつかっていることは何でしょうか?
A 患者さんの生活パターンや体質に合った服薬指導をすることです。

 調剤薬局においては、処方せんどおりに正確に早く、調剤することはもちろん大切です。また、処方されたクスリに関する副作用や、併用しているクスリとの相互作用、患者さんの体質やアレルギー歴、これまでの服薬状況等を考慮し、個々の患者さんの生活パターンや体質にあった服薬指導をすることです。
 そのために薬局では、患者さんに体質やアレルギー歴、医薬品の服用歴などを質問し、患者さんごとの「薬歴簿(※9)」を作成しています。最適な治療を受けるために、より正確な情報を伝えてください。薬剤師には守秘義務があります。個人のプライバシーの保護は法律で定められています。


高橋政実先生のプロフィール

1953年東京生まれ。1977年 日本大学理工学部薬学科(現日大薬学部)卒業。製薬会社日本チバガイギー会社勤務を経て、1988年6月「わかば調剤薬局」を開局する。自らも薬剤師として調剤全般と、患者さんのクスリについての適切な指導に、日々全力を注いでいる。

※クスリに関するお問い合わせやご質問をお受けします!
 e-Mail わかば調剤薬局 wakaba1@dg8.so-net.ne.jp