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- Vol.1 どこまで知ってるクスリの常識
日本の高齢化率は、世界でも例を見ないほど急激に進んでいます。高齢になるにつれて、複数の疾病を併発している方が多く、健康保険制度を利用して医療機関を受診する頻度も多くなります。従って、処方薬の需要は多くなっています。 |
各製薬メーカーがしのぎを削って、新薬がどんどん開発されています。1年間で、57万人以上(全死亡の6割以上)の人が成人病の疾病により死亡しています(厚生労働省「人口動態統計」より)。また、主要な疾患別にみてみますと、高血圧性疾患、心臓病、糖尿病、がんなどの患者数は、1300万人余りにのぼり、医療機関での治療を受けていない患者を含めると、この数倍になると予想されます(厚生労働省「1999年(平成11年)度の患者調査」より)。従って、処方薬(※5)では、成人病に関連したクスリが多いと思います。 |
処方薬と市販薬では、有効成分の含有量に違いがあります。市販薬の成分量は、処方薬より半分か、それ以下と少なくなっています。また、市販薬の成分の種類は、配合剤(※6)になっているのがほとんどです。咳止め、解熱剤、胃薬が一緒になったカゼ薬(総合感冒薬)とか、咳、鼻水などの配合剤です。それに対し、処方薬は、ほとんどが1種類の成分です。市販薬ではカゼ薬といえば1つですみますが、処方薬では抗生物質、解熱剤、咳止めなどのクスリが数種類も出されます。 |
市販薬を選ぶ時は、どういう症状なのか薬剤師とよく相談しながら、症状に合ったものを選ぶことが大切です。市販薬は簡単に買えますが、間違った知識や情報による自己判断は大変危険です。薬剤師によく相談した上で服用したいものです。市販薬も多くの種類があり、内容や飲み方もそれぞれ特徴があります。患者さんが症状を適切に伝えることで、薬剤師は患者さんの症状に合ったクスリを選ぶことができます。ぜひご自宅の近くに、「かかりつけの薬局」を1ヵ所決めておくのがいいでしょう。信頼できる薬剤師が、調剤してもらう時も、市販薬を買う時も、クスリに関する情報とあなたの体質を総合的に判断し、飲み合わせのチェックなどもしてくれます。 |
カゼ薬を飲んでも症状が治りにくい場合、そのクスリの服用を止めたり、他の違うクスリにかえるとカゼが治る場合があります。また、カゼをひいたとき、最初と同じカゼ薬を飲むとセキがひどくなり、熱も下がらない場合があります。そして、カゼが悪化したような気がします。しかし、クスリを止めると、自然に治ります。この場合は、カゼ薬によるアレルギー性の間質性肺炎のケースが疑われます。このような症状が見られた場合は医師の診察を受けることをおすすめします。 |
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一般用カゼ薬による間質性肺炎に係る使用上の注意の改訂について(厚生労働省) |
薬剤師は、処方されたクスリについての説明が義務づけられています。クスリの名前、用法・用量、効能・効果、副作用の他、食事、飲み物などの注意、保管や特に注意する事項などを詳しく説明しています。わからないことがあったら、何でも薬剤師に質問してください。市販薬の場合は、必ず効能書が入っています。「使用上の注意」は、副作用に関することなどが書いてありますので、毎回必ず目を通すことが大切です。クスリを正しく服用するということは、知っているようで案外間違えていることも多いのです。クスリの効果が発揮できるように、正しい飲み方をもう1度確認しておきましょう。 |
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クスリは、指示どおりに飲むことによって効果が発揮されます。食前に飲まなくてはならないのに、食後に飲むとあまり効果が期待できません。たとえば、食物アレルギーのクスリとか、糖尿病のクスリなどは、食前に飲んで吸収を遅らせる効果があるのです。これらを食後に飲むと、効果は期待できなくなります。また、食間(食後2~3時間後)に服用する胃潰瘍の薬は、荒れた胃の粘膜を治す効果があるのですが、食後に飲むと効き目が期待できません。重大な副作用は少ないと思いますが、次回の服用時からは指示どおりに服用してください。飲み忘れたからといって、前回分と合わせて2倍の量を服用したり、飲みずらいからと、かみ砕いたり、カプセルから取り出しての服用は危険です。 |
「身体の具合がいいから、このクスリはやめておこう」と、自己判断で服用を中止するのは危険です。患者さんが飲んでいないという事実を、医師が理解しているというコミュニケーションが大切だと思います。それが本当の信頼関係につながると思います。そうでないと、病院も転々とかえてしまうという人が多いような気がします。医師を選ぶのも大切ですが、基本的には医師を信じ、治療に専念することだと思います。 |
成人の方で高血圧治療に汎用している「カルシウム拮抗剤」を、グレープフルーツジュースで飲まないというのは定着しているようです。まだ解明されていませんが、グレープフルーツジュースの成分である「フラボノイド」が薬剤の吸収に影響して、薬剤の血中濃度が高くなり、クスリの効果が強く出てしまうといわれています。 |
広く知られているのは、鉄剤との相互作用で、添付文書にも注意事項が記載されています。鉄とタンニンが不溶性の塩を作り、吸収が阻害されるというものです。健康な方は鉄吸収に影響しますが、鉄欠乏性貧血の患者ではあまり影響しないという報告もあり、さほど問題ではないと思えます。それよりもむしろ、緑茶(とくに玉露)に含まれる「カフェイン」に注意すべきです。「シメチヂン(胃炎・胃潰瘍の薬)」はカフェインの代謝を遅らせ、心血管系、中枢神経系の作用が増強され、動悸などが現れることもあります。 |
作用の発現時間に若干の差があるようですが、飲み薬においてはカプセルでも散剤でも効き目に大差はありません。ご自分の飲みやすい剤形で服用するのがいいでしょう。しかし、これらの剤形は、そのままの形で服用するのが原則です。つぶしたり、かみ砕いたり、カプセルから中身を取り出して服用しないようにしてください。 |
小児用シロップ製剤などは、その病気が治ったら処分された方がよいでしょう。成人向け内服薬は、だいたい3年を目安にしてください。ただし、いったん開封した場合は、剤型や保存の状態によりますが、6か月~1年と考えてください。この範囲内であれば、カゼ薬など、以前のものが残っている場合には、かかりつけの医師に問い合わせると、症状を聞いて前の薬をとりあえず飲んでおく等の指示はしてくれると思います。そういう選択も大事だと思います。 |
患者さんと医師との信頼関係が得られていても、クスリを正しく利用していないと、実際の効果が出ません。その結果、患者さんにとって、治療の成果が得られないという誤解が生じる場合が多いような気がします。また、年配の方になってきますと、専門領域だけのケースもありますが、複数にわたって受診されている方が多くなってきます。クスリが重複しているものや相互作用などの問題があるのですが、患者さんはあまり言いたがらないのが一般的です。患者さんの情報が十分に得られていないのが現状です。 |
つい最近、私の知人に起こったことです。胃潰瘍と循環器系の病気を重複している人で、血液の流れを良くする薬(血栓予防などの薬)を服用したところ、胃炎を起こし突然吐血してしまい、救急車で運ばれました。これは、クスリの副作用の危険な例です。血栓予防などの薬は、副作用として出血性の素因があるものなので特に注意が必要です。 |
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「薬剤師の任務:第1条 薬剤師は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、国民の健康な生活を確保するものとする」 |
調剤薬局においては、処方せんどおりに正確に早く、調剤することはもちろん大切です。また、処方されたクスリに関する副作用や、併用しているクスリとの相互作用、患者さんの体質やアレルギー歴、これまでの服薬状況等を考慮し、個々の患者さんの生活パターンや体質にあった服薬指導をすることです。 |
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