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なんとなく、優しい気持ちになれる。千葉県佐倉市にある川村記念美術館は、そんな空間です。アヒルや白鳥が泳ぐ大きな池、雑木林、庭園、運動場などが点在する約30ヘクタール(9万坪)もの広大な敷地の中にその空間はあり、訪れるものを柔らかな空気で迎え入れてくれます。
川村記念美術館は、大日本インキ化学工業株式会社とその関連グループ会社が収集してきた美術品を公開するため、1990年5月に開館しました。創業者である故・川村喜十郎氏以来、3代にわたり集められた1000点を超えるコレクションは、17世紀のレンブラントから20世紀美術までと実に幅広い。というのは、この3人のコレクターの嗜好がそれぞれ面白いほど異なっているため。初代は、長谷川等伯や尾形光琳らの日本画を、2代目はモネやルノアールなどの印象派絵画、3代目は、カンディンスキー、マン・レイ、アレキサンダー・カルダーといった現代美術に力を入れてきました。これら3人の個性豊かなコレクションは、展示作品にもっともふさわしい空間づくりを目指したという海老原一郎氏設計の建物の中で万華鏡のような彩りを見せ、私たちを愉しませてくれます。 |
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この美術館に訪れた多くの来館者は、まず、玄関脇に設置された、一見廃材の寄せ集めにしか思えないような、人間の背丈の4倍以上ある巨大な「作品」に度肝を抜かれます。はやくも難解な「現代美術」に白旗を揚げてしまいそうだが、そもそもこの「困惑」こそが「作品を感じている」こと。安心してください、あなたは「アートがわからない人」ではありません。そうです、この際、背後に広がる庭園の牧歌的な風景と対極にあるような、退廃的なスティールのかたまりがもたらす不思議空間を、大いに愉しみましょう。 |
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「ようこそ、川村記念美術館へ」とばかりに、ビブラートの効いた低音の紳士的な声で来館者を出迎えているかのような『広つば帽を被った男』。すっかり美術館の「顔」的存在で、この作品の展示のために小さく仕切られた空間を独り占めしている。レンブラント本人の姿と似ていて、有名な自画像とも間違えられることも多いのです。 |
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ボーイフレンドとの交際を解消した後、傷心を癒すため一人このロスコ・ルームを訪れました。静かなこの部屋で赤と茶のやわらかな色彩に身を委ねていると、ふっと気持ちが軽くなるようでした。時折目を閉じると、この部屋は異次元空間の入り口のようにも思えてきます。わたしはロスコの色彩と一体となり、色彩はわたしと一体となりました。フワフワとしたとてもいい気分です。部屋を出るころには、すっかり元気になりました。 |
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いらなくなった菓子箱や缶に、お気に入りの便箋や折り紙、シールなどの自分だけの宝物をコレクションする。時折一人部屋の隅で宝箱を開き、そんなたわいもない自分だけのお気に入りを堪能する喜び。数々の愛するものがいつでも持ち運べるような小さな箱の中に納まり、自らの手の内にあるー。ジョセフ・コーネルは、誰しもが持つコレクションへの憧れを、晴れやかな歓喜と時にほろ苦い郷愁とともに表現し続けました。 |
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アートを鑑賞するということは、作品を通してその作者と心の会話をすることでもあります。そんな対話の中で、作者がその作品を制作したときの感情に共感することができれば、そのときからはもう、あなたと作者は心のお友達となるのです。この「出会い」こそが、「感動」なのです。
「作品」、「建物」、「自然」の三要素の調和をモットーとする川村記念美術館。なるほど、調和とは人を優しくするようです。この美術館に訪れるとカリカリとした日常を忘れ、ほっと深呼吸、ピュアな自分に戻れるような気がするのです。 |
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美術館すぐ近くには、庭園を一望できるレストラン、ベルヴェデーレがあります。そして、美術館内にある茶室も忘れずに訪れてほしい。こちらの茶室、そもそも2代目の川村喜八郎氏が私的利用のために設置したもので、2002年11月から一般公開しています。奥の和室は、事前に申し込めば個室利用も可能。大きな窓からの見える景色は、超絶景!気分は高級旅館でくつろぐセレブです!ミュージアムショップでは、美術館オリジナルグッツやおしゃれなデザインの小物や便箋を買うことができます。
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URL●http://www.dic.co.jp/museum/ |
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フリーアートライター。明治学院大学大学院文学研究科芸術学専攻博士課程前期修了。専門は日本近世(江戸時代)絵画。その他、古今東西の美術、また美術にとどまらず映画、演劇、音楽、文学など幅広く芸術全般にわたり、ジャンルに拘らず面白いものには接近する。最近は、心理学、精神分析、占いなどにも興味津々。
論文:「若冲についての覚書―「動植綵絵」中の4作品のルーツを探る」 (明治学院大学大学院文芸術学専攻紀要『bandaly』第1号、2002年3月) ●URL●http://www.e-rena.net |