「五島美術館」は、東急電鉄創立者・五島慶太(ごとう・けいた)氏(1882-1959)が収集した古美術品をもとに1960(昭和35)年に設立。絵画、茶道具、書跡、陶磁器、古鏡など国宝5点、重要文化財50点を含む約4,000点を収蔵する。
収蔵品の目玉は、国宝の『源氏物語絵巻』と『紫式部日記絵巻』。『源氏』は毎年春、『紫式部』は秋に一週間ほど公開される。
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五島美術館
〒158-8510 東京都世田谷区上野毛3-9-25
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建物は、『源氏』『紫式部』の展示にふさわしい平安時代の寝殿造となっている。設計は、純和風建築をモダンにアレンジすることに才能を発揮した吉田五十八(よしだ・いそや)。奈良の大和文華館も同氏による設計で、両館の建物は兄弟関係にあり、収蔵品のつながりも深い。 |
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さて、大人気のお宝『源氏物語絵巻』。名古屋の徳川美術館にも所蔵されている格調高い国宝だが、五島美術館に至る過程が興味深い。
「いま私たちがコカ・コーラを飲むことができるのは、五島慶太が『源氏』を買ってくれたからよね、と笑い話をすることもあるのです」と学芸員・砂澤祐子(いさざわ・ゆうこ)さん。
平安時代末期の宮廷画家・藤原隆能(ふじわら・たかよし)が描いたと伝わる現存最古の絵巻。光源氏が弟、冷泉院(実際は源氏の子)と対話する夜の場面。笛を吹くのは源氏の息子、夕霧か。2000年7月発行の二千円札裏のデザインに採用され、知る人も多い。 |
「戦前の大蒐集家・益田鈍翁(ますだ・どんのう)(*1)が所有していた『源氏』は、戦後、実業家・高梨仁三郎(たかなし・にさぶろう)(*2)の手に渡る。氏は「コカ・コーラ」を日本に紹介した人物。当時氏はコカ・コーラの権利を所有していたが、販売に至る資金が足りない。そこで、交流のあった五島慶太に『源氏』の譲渡を約束。晴れてコカ・コーラの製造を開始することができたのです」
日本でのコカ・コーラの製造販売開始は1957年。1960年の開館前に五島慶太氏が「源氏」を買わなければ、日本人がコカ・コーラを口にするにはもっと後になったかもしれない。国宝「源氏」とアメリカ合衆国を象徴する「コカ・コーラ」との関係。高度成長期の日本を象徴するかのようなビジネスと名宝をめぐる戦後ドラマだ。
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コレクションのもうひとつの目玉は、茶道具。 |
「純粋に五島自身の好みによるのは古写経を主とする仏教美術。茶道具については、専門家の意見と、五島の身近にいた教養に溢れ、古美術の造詣が深く、センスの良い女性の好みも大いに影響したようです」
専門家の意見に耳を傾けつつ、そばにいた女性の手ほどきを受けながら、真剣に道具をもとめる氏の姿が目に浮かぶ。
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2006年10月28日(土)から12月3日(日)まで特別展「鎌倉円覚寺の名宝」を開催する。伝来の染織文化財を中心に開山・無学祖元(むがく・そげん)(1226-86)所有の品々や重要文化財「開山像」などが並ぶ。「中世の禅宗ファッションが一目でわかる」魅力的な展示内容だ。 |
収蔵品がデザインされたポストカード、ハンカチ、あぶらとり紙などのグッズ、図録を豊富に取り揃える。人気は『源氏物語絵巻』のレターセットや一筆箋。「外国人へのお土産に喜ばれています」。 |
アートライター。明治学院大学大学院文学研究科芸術学専攻博士課程前期修了。専門は日本近世(江戸時代)絵画。その他、洋の東西を問わず美術、映画、音楽、演劇、文学など幅広く芸術全般に詳しい。
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