静嘉堂文庫美術館
〒157-0076 東京都世田谷区岡本2-23-1 TEL:03(3700)0007
|
渋谷駅から半蔵門線にゆられて15分もすると、二子玉川園駅に着く。デパートや飲食店が立ち並ぶ賑やかな「ニコタマ」を抜け、閑静な住宅地を20分ほど歩くと、森や小川に囲まれた小高い丘の上に静嘉堂文庫美術館が見える。(バスも運行。詳細は下記) 同館は、三菱2代目社長の岩崎彌之助(1851-1908)と4代目社長の小彌太(1879-1945)の父子2代によって収集された、およそ5千点に及ぶ和漢の古美術品を収蔵する。うち国宝7点、重要文化財83点という日本有数のコレクションを誇る。 |
「当館にいらしていただければ、“ほんとうに良いもの”を知ることができるでしょう」と、学芸員・小林優子さん。 彌之助、小彌太両氏が「巨資を惜しまず」蒐集した美術品は、絵画、書跡、陶磁、漆芸、茶道具、日本刀など、いずれの分野も超一級品揃い。とりわけ煎茶道具、文房具のコレクションは、他に類を見ず、希少性が高い。 コレクションは「東洋のものは東洋に」のポリシーのもと、彌之助によって始まり、小彌太によって拡大した。欧化主義の影響下、多くの日本の文化財が海外流出の危機に面する中、国の宝を散逸させてはならぬ、という使命感からだった。 「この営みは、個人の楽しみというより、社会に資するための思いだったのです」 |
|
光源氏が空蝉と偶然に出会う「関屋」と明石の君が源氏の一行を見つけ引き返す「澪標」とを一対の屏風に描く。京都の醍醐寺に伝来し、明治中頃、彌之助が同寺の復興のために寄進した際、返礼として贈られた。 |
コレクションの目玉は、国宝「曜変天目茶碗」だ。現存中もっとも貴重な曜変の代表作とされ、その瑠璃色の斑文の美しさに、虜になる人も多い。この茶碗でお茶を頂いたら――。思わず妄想が膨らむ。
「小彌太氏は、この茶碗を個人的に使用することはありませんでした。しかし小彌太氏の3回忌にあたり、未亡人となられた孝子夫人が追善のために一度だけこの茶碗でお茶を点てたと伝えられています」と、学芸員・長谷川祥子さんは説明する。
想像しただけで手が震えるようだ。この茶碗の一般公開は、2、3年に一度。次回は、2008年の2~3月、3年ぶりのお披露目となる。
現存中もっとも貴重な曜変の代表作。淀藩主・稲葉家に代々秘蔵されたことから、通称「稲葉天目」と呼ばれる。瑠璃色の光彩を放つ斑文は、偶然の賜物か、周到な準備による作例か、焼成の過程は謎だ。 |
|
|
館内:大きなガラス窓から「静嘉堂緑地」を望む。緑豊かな周辺環境もこの美術館の魅力だ。
|
林道:ここは本当に世田谷?美しい林道を抜けた小高い丘の上に美術館はある。
|
この美術館の魅力は、恵まれた周辺環境にもある。駅から少し歩くと、驚くほど緑豊かな自然が広がる。小鳥のさえずり、四季折々の草花、小川のせせらぎも合わせて愉しみたい。 現在、美術館の建つ一角は、1910(明治43)年、彌之助の3回忌にあたり小彌太が霊堂を造営した墓域にあたる。「静嘉堂」の名前は、『詩経』に見える「籩豆(へんとう)静嘉(せいか)」の句が出典、「祖神に捧げられた供物が清潔で美しい」の意がある。彌之助が堂号として用いた。 |
||
団扇を口にくわえ、横座りする姿が艶っぽい芸妓図。長文の賛には「中国の文人たちは、蘭でも梅でも、自分の好きなものを描いて友に贈った。だからわたしも自分の好きな女性を描いてあなたに贈るのです…」とあり、一説には、弟子の女癖の悪さを諌める為に描き与えたとされる作品。 |
|
|
ショップ:お気に入りのアートグッツを手に入れるのも美術館巡りの醍醐味。
|
岡本民家園:江戸時代後期の農家の屋敷を再現した区の有形文化財。シルバー人材の方々の解説が嬉しい。
|
館内のミュージアムショップには、所蔵作品がデザインされたポストカードや一筆箋などのグッツが豊富に揃う。美術館からは徒歩5分ほどの距離にある「岡本民家園」は、美術館と併せて足を運びたい。藁葺き屋根に囲炉裏端というのどかな空間に、ここが東京であることを忘れてしまう。入園は無料。
重要文化財 「青磁牡丹唐草文深鉢」 |
2007年6月16日(土)~7月29日(日)まで「中国・青磁のきらめき ―水色から青、緑色の世界―」展を開催。小彌太の蒐集した「宋磁」の世界的名品である耀州窯「青磁刻花花喰鳥文枕」、南宋官窯「青磁香炉」、龍泉窯「青磁牡丹唐草文深鉢」(重文)など、茶道具を含む青磁の優品を一堂公開する。水色から青、緑色と一点一点異なる繊細な青磁の世界を存分に愉しみたい。 |