サントリー美術館
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サントリー美術館は、1961(昭和36)年「サントリー株式会社」の文化事業の一環として丸の内に創設、1975(昭和50)年には赤坂見附に活動の場を移し、この地で40年余り親しまれてきた。そして2007年春、六本木の「東京ミッドタウン」内に装いも新たにリニューアルオープンした。創設以来の基本理念「生活の中の美」は変わらず継承し、日本の古美術を中心とした作品の収集と展示をする。収蔵品は、絵画、漆工、陶磁、金工、染物、ガラスなど約3千件。 |
東京ミッドタウンは、オフィス、ホテル、賃貸住宅、レストランなどの商業施設などが集まる複合施設だ。美術館のあるメインショッピングエリア「ガレリア」3階フロアは、デザイン小物やインテリアショップがずらりと並ぶ。館の入り口はその動線上にある。 散策がてら気軽に立ち寄ってみよう。和紙を通した柔らかな光。ウィスキー樽を再生した木材の床。「都市の中の居間」をイメージしたという、建築家・隈研吾氏による和モダンの空間に迎い入れられる。 |
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「名品ももちろん素晴らしいですね。しかし美はもっと身近なものの中にもあるはず。当館は有名無名を問わず、衣食住に関連する優れた作品などを“生活の中の美”をテーマに収集、展示しております」と広報・三浦亜矢子さん。 たとえば手箱はもともと化粧道具入れ。屏風は部屋を飾るインテリア。食器、酒器、文房具はもちろん生活道具。“観賞用”ももちろんあるが、そこに息づくのは「生活の中の美」だ。こんな道具入れを使ってみたい。屏風はどこに飾ろうか。この酒器で飲むお酒は美味かろう。身近な生活に取り入れて見れば、どの「作品」もいとおしく感じられる。そもそも芸術と工芸の間に境はない。誰が作ったか分からないが、クオリティーが高いものが多い。「無名性」は日本美術の特徴のひとつでもある。 |
平安貴族の化粧道具などを納めた調度だった手箱は、やがて神社に奉納する神宝として豪華絢爛なものも作られるようになった。この作品もその手箱のうちの一つ。これぞ究極のお道具箱!? |
江戸時代のデザイン力を見よ!金字を背景に、月、富士、ススキが斬新な構図で配される。「武蔵野は月の入るべき山もなし 草より出でて草にこそ入れ」という古歌の内容を表したもの。人々はこの屏風の前で、詩的な異郷の地・武蔵野に思いを馳せた。 |
大使館、外資系ホテル、オフィスビルが建ち並び、話題の美術館が集まる六本木にあって、「日本美術」をメインに扱う同館のあり方には注目が集まる。 「生活の中の美」は継承し、新たなミュージアムメッセージとして「美を結ぶ。美をひらく。」を掲げる。国内外から老若男女が集い、美を通して何かを発見できる場を目指す。体験型ワークショップを充実させ、子どもの鑑賞ツールとして「おもしろびじゅつ帖」を配布。キャプションはコアな古美術ファンにも満足のいく内容を保ちつつ、古美術に親しみのないに人にも解かりやすいものに。外国人向けのオーディオガイドも備えた。 「作品、展示、空間ともに肩肘を張らず、くつろげるところが当館の魅力です。会社帰りにビールを飲んでリフレッシュするように、当館を愉しんでいただければ幸いです」 日本美術のコレクションをメインとするも、エミール・ガレなどの西洋ガラスのコレクションがあるのも、洋の東西にこだわらない“ゆるさ”の一面。柔軟性と大らかな遊びの感性は、古来より脈々と受け継がれる日本人の美意識だ。インターナショナルな六本木という街で、「日本の美」に目覚めてみたり、生活そのものが美しかった日本人のあり方に刺激を受けてみたり。暮らしに息づくちょっとした「美」に触れて、彩りのある明日に繋げたい。 |
「ちろり」とはお酒を入れるポットのこと。古くから長崎系吹きガラスの名品とされる。藍色の深い耀き、捻りの把手、ゆったりとした胴体のフォルム……。この小さな酒器が放つ絶妙な色と形のハーモニーに魅了される人も多い。 |
カフェ:金沢の老舗「加賀麩 不室屋」が運営するカフェ |
ショップ:かわいいグッズを入手して「生活の中の美」を実践するのもよい。 |
「金沢の老舗「加賀麩 不室屋(ふむろや)」(創業慶応元年)が運営するカフェでは軽食や甘味の他、ワインやウィスキーなどのアルコールも愉しめる。「JAPANモダン~暮らしを潤す優雅な品々~」をコンセプトに展開するショップは、館蔵品をモチーフにしたオリジナル商品の他、暮らしを彩るさまざまなセレクト品が並ぶ。 |
国宝《鳥獣人物戯画絵巻 甲巻》(部分) |
2007年11月3日(土)から12月16日(日)まで、開館記念特別展「鳥獣戯画がやってきた!―国宝『鳥獣人物戯画絵巻』の全貌―」展を開催。動物たちの姿を表情豊かに描いた『鳥獣戯画』の魅力を多角的に捉え、そこから垣間見える日本文化の本質に迫る。その他関連作品として、“おなら”で戦い合う人々を描いた『放屁合戦絵巻』、人間の娘と結婚するも逃げられて、世をはかなみ出家する鼠の権頭(ごんのかみ)を描いた『鼠草紙絵巻』などを展示。日本人にもこんなユーモアがあったのか!? 愉快な絵巻物の数々に、心がゆるむ展覧会だ。 |