- HOME
- 楽しむ
- 今日から始める男の趣味
- Vol.7 クラシック・ライフを愉しもう
PHOTO/相田憲克
父は中学卒業後、旅順(りょじゅん)の学校に行きました。ヴァイオリンが少し弾けたようで、そのために横道に逸れずにすんだそうなんです。それで息子にもヴァイオリンをやらせようと思ったらしい、趣味を持つ程度に。ヴァイオリンを3歳から習い始めました。小学校の初め頃までは練習が嫌いでしたが、4年生頃から徐々に好きになって、中学校ではオーケストラ部がありましたので、その頃はけっこう好きになっていました。
しかし、父に音楽家になることは反対されました。「エンジニアになりなさい」と言われて、東海大学の電気工学科に進みました。大学2年のとき基礎的な実験が始まったのですが、まるで興味が湧かなかったものですから、これは続けられないなと・・・。当時東海大学オーケストラ部の指揮者の先生に相談したら、「ヴィオラだったらなんとかなるかもしれない」と言われて、3年に進級するちょうど20歳になったときに、父に手紙を出したんです。「勘当されても音楽家になります」と。東海大学卒業と同時に東京芸術大学音楽学部器楽科に入学して、ヴィオラ演奏家として音楽家を志しました。
クァルテットには忘れられない思い出があります。中学のときオーケストラ部で演奏していましたが、先輩に誘われて弦楽四重奏を始めたのです。先輩が買ってきた新しい楽譜を初見(初めて見た譜面で演奏する)で弾かされるんです。その初見遊びがけっこう楽しくて、毎週日曜日に練習をしていました。そのおかげで中学3年のとき、全国から集まる「TBSこども音楽コンクール」に、男4人のボウズ頭クァルテットで出場して全国大会まで進みました。地方大会の時、審査員控え室で今は亡き指揮者の山田一雄先生にお会いして、お話しを伺えたことも忘れることができません。ですから、クァルテットでの活動もできるだけ続けていきたいと思います。
音楽というのは想像(イメージ)することが多いですね。音を聴くということは、そのイメージを膨らませる愉しみにつながると思います。演奏するということは、イコール音を聴くことです。他の楽器と合わせてみると、お互いの音を聴きながら、自分の音も余計聴くようになります。楽譜から音を出すことで、作曲家が何を表現したかったのだろうかということを常に考えています。
私にとって、クラシック音楽の魅力とは、イメージの世界でいろいろな旅ができるということです。いろいろな国の音楽を通して、居ながらにして世界旅行や、時と場合によっては宇宙旅行までできてしまうように思います。
弦楽四重奏をやりたいという思いは昔からあったのですが、いざ芸大に入ってクァルテットをやろうと思うと、なかなかメンバーのスケジュールが合わずにやれませんでした。しかし、10数年前に来日したモスクワ・シアターオペラの「鼻」や、ケルン歌劇場の「ムツェンスク郡のマクベス夫人」の原典版を聴いて、凄惨な場面はもちろん期待通りでしたが、その他の普通の場面が静かで、たとえようもない美しさがあって、とても感激したものですから、これはショスタコーヴィチを体験しなければと思ったのです。
|
最初は安い席を買ってオペラグラスでオーケストラを鑑賞してみましょう。実は1階席より料金が安い2階、3階席のほうが、音響的にはよい席なのです。ヴィオラやヴァイオリンは音が上に行くので、1階席は料金が高いわりには音響的にはイマイチなのです。もう1つは、チェロやコントラバスの表板が正面に見える席は、いい音で聴くことができます。また2階、3階席からはオーケストラ全体が見えるのもメリットです。視覚と聴覚の総合面でも、上の階の方がよいと言えます。最近は指揮者の表情がよく見えるオーケストラの裏側の席があります。楽器の反対側になってしまうので音響がよくないというデメリットがありますが、指揮者の表情がよく見えるのは迫力が伝わってきて面白いかもしれません。
コンサートに出かけることで、レコードやCDとは違う“生の音”が聴けるという愉しみがあります。できればオーケストラのメンバーと知り合いになると、その人からいろいろな情報が聞けるのです。例えば、楽屋口にいると楽員が通りますから、気軽に声をかければいいのです。ウィーンフィルやベルリンフィルなどは世界的なオーケストラとして人気がありますが、彼らはウィーンやベルリンの町の人たちとは知り合いなのです。クラシックとポピュラーの世界とのいちばんの違いは、ほとんどの場合付き人がいないことです。有名な演奏家でも結構1人で歩いています。N響はよく地方公演に行きますから、どうぞ気軽に声をかけてください。
好きな指揮者を追いかけてあれこれ聴くのもひとつの方法です。指揮者というのは、オーケストラの楽員が定年になる年を自分が越えたときに、指揮者の人生がやっと始まると言われています。つまり、自分より年上がいるうちは文句を言われ続けるんです。ある程度年齢を重ねてくるとオーラが出てくるのですが・・・。
クラシックでは指揮者とピアニストがたいへんですね。なぜかというと、1人で成長しなくてはなりませんから。私たちはいろいろな指揮者や演奏家たちと共同作業する中で、いろいろな人に刺激をもらうわけです。ところが、指揮者とピアニストは自分の才能がすべてという部分が多いですからね。
コンサートで自分の好きな曲や、感動した曲に出会ったら、その曲のCDを聴いてみましょう。お金と時間の許す範囲で複数のCDを聴き比べてみるといいです。クラシックというのは古典落語と同じで、ストーリーが決まっていて、新しいネタはないのです。再現芸術ですから、決まっているものをどう料理するかというところに面白さがあり、そこを聴き比べてみると結構面白いのです。
味付けというのは、オーケストラのバランスです。演奏家には作曲家が求めているものを表現するという命題が常にあるのです。それを追求しながら演奏しています。例えば、ベートーヴェンの5番交響曲“運命”を自分だったらどう演奏するのだろうか、と考えるのではなく、彼の曲にどうしたら近づけるのだろうと考えることで演奏が面白くなってきます。一生つきあっていける命題なのです。演奏家は常にそういう姿勢を目指しますので、わざとバランスを変えなくても、微妙に違ってくるものなのです。その味付けを聴き比べることができると、さらに面白みが増すでしょう。 |
オーケストラで使う弦楽器にはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、それとハープがあります。ハープ以外は一見同じ形ですが、それぞれ大きさが違います。ヴィオラはヴァイオリンよりひと回り大きいです。ヴァイオリンは胴体の縦の長さが37、8㎝くらいと決まっていますが、ヴィオラは大きさが38~46㎝くらいと千差万別です。日本人ですと、40~41㎝くらいのものを使うのが一般的です。それから、「調弦」が違います。ヴァイオリンは4本の弦で、上からミ・ラ・レ・ソです。ヴィオラは一番上のミがなくて、ラ・レ・ソ・ドです。チェロは、またその1オクターブ下のラ・レ・ソ・ドです。弦楽にはもう一つ、コントラバスがあります。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスを比較した場合、ヴァイオリンとチェロは音響特性がいいのです。それに対して、ヴィオラとコントラバスは音響特性が悪いのですが、ヴィオラはヴァイオリンとチェロの間で、サンドウィッチの中味なのです。中味によって全体の味が変わるということです。アンサンブルなどではクッションの役割でもあり、料理のスパイスでもあるのです。
カルチャースクールやミュージックスクールなどで始めてみるのもいいでしょう。半年くらいで愉しくなってくるでしょう。音楽は聴くだけでなく、自分で演奏してみると作曲家が自分の中に入ってきて、作曲家とつながっている感じを実感できるかもしれません。そういう愉しみ方があるのです。練習していくうちにできることが増えてきます。肩も凝ってくると思うのですが、そういうときには、私の本で『おのふじびおら デラックス』(レッスンの友社)をぜひ読んでいただきたいと思います。
|