メタボの危険因子を探る Vol.2 動脈硬化のリスクを下げる「コレステロールの適正値」に注目!メタボの危険因子を探る Vol.2 動脈硬化のリスクを下げる「コレステロールの適正値」に注目!

今、メタボリックシンドロームの予防を目的とする特定健診が注目されています。このコーナーでは、メタボにつながる3つの危険因子「脂質異常症(高脂血症)」、「高血圧」、「高血糖」をクローズアップ。シリーズでその危険因子を探っていきます。

今回は、第1回目の悪玉コレステロールのお話に引き続き、「コレステロール値の適正範囲」について、動脈硬化の探究に情熱を注ぐ平田先生に解説していただきます。

コレステロールを下げると、動脈硬化のリスクが下がります。

TONTON

脂質異常症(高脂血症)と診断されるコレステロール値はどれくらいですか?

平田先生

脂質異常症は、少し前までは総コレステロール値で判定していました。総コレステロールというのは、善玉(HDL)コレステロールと悪玉(LDL)コレステロールと中性脂肪の一部を合わせたものです。これまでは、一般にコレステロールが高いというのは、《総コレステロール値240mg/dL以上》を指していましたが、最近になって《総コレステロール値220mg/dL以上》に数値が下がりました。

悪玉コレステロールは多ければ多いほど動脈硬化が進展します。つまり悪玉コレステロールの量は少ないほうが良いのです。一方、善玉コレステロールは動脈硬化を抑制してくれる作用があるので、むしろ多いほうが良い。逆に少ないと、動脈硬化が進むことがわかっています。

このように善玉と悪玉の性質は相反するものですが、これまでは総コレステロール値で判定していました。総コレステロール値が少し高いかなと思っても、それぞれの数値を検査してみたら、多いのは善玉ばかりで悪玉はそんなに多くないことがあり、そういう時には治療の必要がないケースがあります。もちろん、逆のこともあり得るわけです。たとえば総コレステロール値が230mg/dLなので高めだけど治療するほどではないと思っていたら、悪玉コレステロールの数値がかなり高かったというケースがありました。こういう場合は治療しなくてはいけません。

このように脂質異常症は、総コレステロール値では判定が難しい部分があり、最近になって、総コレステロール値ではなくて善玉、悪玉を別々に検査しようということになりました。それぞれが簡単に測定できるようになったことも一因です。これまで「高脂血症」あるいは「高コレステロール血症」と呼ばれていたのが、「脂質異常症」という名前に変わったのは、こういう経緯があるのです。

TONTON

善玉と悪玉コレステロールの適正値はどれくらいですか?

平田先生

LDL(悪玉)コレステロールとHDL(善玉)コレステロール、どちらの基準を超えていても良くないのです。これまでは総コレステロール値にこだわっていたのですが、目的はコレステロール値ではなく、動脈硬化を抑制することですから、患者さんがどれくらい動脈硬化になりやすいかを全体的に把握する方向になっています。それぞれの数値を見てみましょう。

日本動脈硬化学会より脂質異常症の診断基準のガイドライン(下表)が出ていますが、悪玉コレステロールは《140mg/dL未満》が良いとされています。ただしこれは、他に高血圧、糖尿病、喫煙、年齢(男性は45歳以上、女性は55歳以上)などの動脈硬化を起こす要因を持っていないという前提です。仮に糖尿病があるとか、腎臓が少し悪いなどの要因がある場合は《120mg/dL以下》を目標値としています。また過去に心筋梗塞を経験している人は、再発の予防策(二次予防)として《100mg/dL以下》にしています。その背景には、そこまで下げられる良薬が出てきたことが大きなポイントです。少し前までは悪玉コレステロールを100mg/dL以下に下げるのは非常に難しかったのです。

アメリカでも以前は冠動脈疾患に罹っている人あるいはその危険性が高い人の悪玉コレステロールの目標値は100mg/dLでした。ハイリスクの方は、もっと低い値を目指そうと70mg/dLまで下げていました。しかし最近はあえて目標値を設定しない方向にあります。

脂質異常症の診断基準(空腹時採血)
(日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2013年版」より改編)

この診断基準は薬物療法の開始基準を表記しているものではない。
薬物療法の適応に関しては他の危険因子も勘案し決定されるべきである。

コレステロール低下剤の進歩で、心血管病予防の成果が上がっています。

TONTON

コレステロールを下げる治療法にはどんなものがありますか?

平田先生

最近はより効果的なコレステロール低下剤が開発されてきています。日本でも使用できる薬の種類が増えてきました。

TONTON

具体的にはどういう薬ですか?

平田先生

主に「スタチン系薬剤」が使用されています。肝臓の中でコレステロールをつくる酵素を抑制する薬剤です。その原形は日本で開発されたもので、世界的にも一番多く使われています。非常に良く効きますし、副作用が少ないのが特徴です。さらに、コレステロールは腸から再吸収されるということで、そこを抑制する薬も最近出てきました。とくに総コレステロール値が500mg/dL~600mg/dLにもなる「家族性高コレステロール血症」の人は、週に1度、透析と同じように血液を1回体外に出してコレステロールを吸着し、コレステロールを除去してから血液をからだに戻すということを毎月行なっている状況でしたが、そういう苦労をしなくても多くは飲み薬で対処できるようになりました。コレステロール低下剤の進歩で、心血管病予防の成果が非常に上がっています。

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副作用は主にどのようなものですか?

平田先生

スタチン系薬剤を服用すると筋肉が痛くなる場合があります。その話を聞いて、服用したくないといわれる方が多いのですが、実際には大量に服用するとか腎臓の働きが低下していない限り大丈夫です。

TONTON

治療すべきコレステロール値の目安を教えていただけますか?

平田先生

脂質異常症の治療には、①コレステロールが高くなる遺伝素因があるか ②食生活がどうか ③どれだけカロリーを消費するか(どれだけからだを動かしているのか)という全体的な背景が関わってきます。

合併症がない場合で、食事療法をしている方の悪玉コレステロールの数値ですが、男性の場合では140~160mg/dL以上になると薬を処方しています。女性は難しいところですが、160mg/dL以上になると服用したほうがよいでしょう。しかし基本的には悪玉コレステロールは低ければ低いほど良いということを忘れないでください。生活習慣を変えてある程度コレステロール値が下がったら、薬を飲まなくて済む場合があります。ところが生活習慣はそのままで薬をやめてしまうと悪玉コレステロール値は再上昇してしまいますので、途中で薬をやめないほうが良いでしょう。これまでのコレステロール低下剤は、悪玉を下げるけれど、善玉も下げていました。不思議なことに、スタチン系薬剤は悪玉を下げて、善玉を少し増やす作用があるため、その点でも有効な薬剤とされています。

日本人における平均血清脂質値と冠動脈イベントの相対危険度

図中の青色棒を基準にした場合の比率を示す。縦軸は冠動脈イベント《心筋梗塞と心臓突然死》の危険性を示す。総コレステロール値が240mg/dL、中性脂肪が300mg/dLを超えると急に冠動脈イベントが増える。また、悪玉コレステロールが140mg/dL以上になると危険性が高まり、さらに160mg/dLを超えると明らかに発症率が高くなる。一方、善玉コレステロールは低くなるにつれて発症率が高くなる。

コレステロールを多く含む食品は控えるべきか?

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コレステロールが多い食品にはどんなものがありますか?

平田先生

いちばん有名なのは卵でしょうね。とくに卵の黄身。卵というのは鶏だけではなく、魚の卵も全部含みます。もうひとつは、コンビーフをはじめ肉の脂身。こういうものにはコレステロールがたっぷり含まれています。タンパク質の中でコレステロールが少ないものをみると、豚肉や牛肉より鶏肉、鶏肉より魚類や大豆タンパクのほうが少なくなっています。

TONTON

かつて卵は1日に1個食べたほうがいいと言われていましたが…。

平田先生

たくさんの栄養素を含んでいるので、卵は食べたほうが良い食品です。しかし、コレステロール値が高い人は、週に1個半くらいでも過剰になります。コレステロールは1日せいぜい300mgくらいが良いとされていますが、卵は1個で200mgを超えますから、コレステロール値が高くない人には問題はないですが、高い人は少し制限したほうが良いでしょう。1日に6個も7個も食べるのは論外です。

TONTON

卵の他に牛乳などの乳製品を摂る場合も、コレステロールが気になります。

平田先生

牛乳にはカルシウムが多く含まれ、栄養バランスが良い飲料です。成長期には効果的ですが、乳製品はコレステロールを含みますので、コレステロール値が高い人は、やはり量を控えたほうが良いかもしれません。

TONTON

食事でもコレステロールを下げる努力は必要ですね。

平田先生

仮にできるだけ食事で控えるとして、どれくらい数値が下がるかが問題です。肉やマヨネーズなどコレステロールの多い食事をしていた人が、いも類や野菜に替えた場合、みごとに50~60mg/dLも下がる場合もあるし、せいぜい1割の20~30mg/dLしか下がらない場合も多いです。コレステロールを多く含む食品を控えるとともに、それでも目標値に到達しない場合は副作用の少ないスタチン系薬剤を服用するとより効果的です。

TONTON

コレステロールを下げる働きがある食品は他にありますか?

平田先生

脂肪酸には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があります。飽和脂肪酸はコレステロールを上げてしまいますが、不飽和脂肪酸のほうはむしろコレステロールを下げる方向に働く油です。リノール酸を多く含むサフラワーオイルなどはコレステロールを下げる効果があるので、料理に取り入れると良いと思います。

このように、悪玉コレステロールを下げる食事療法はありますが、善玉コレステロールだけを効果的に増やす方法はまだ解明されていません。ただ、運動すると善玉コレステロールが上がることは間違いありません。適度な飲酒も善玉コレステロールを増やします。

TONTON

昔と比べて食生活が豊かになったことも影響がありますか?

平田先生

調べてきて意外だったのは、日本人は戦後、ひもじい思いをしたわけですが、総カロリー摂取量でみると、この50年間、今とあまり変わっていないということです。変わっているのは食事の中身です。かつては、炭水化物で大半のカロリーを摂っていたのに、どんどん脂肪の多い食事が増えてきて、現在では脂肪が総カロリーの30%以上を占めます。糖尿病が多くなったのは、ここに原因があるとも言われています。

そこで、第一段階として総カロリーは、標準体重×25~30kcal/日、脂肪の比率を20~25%に抑えるのが良いでしょう。メタボ予防のために、豊かになった食生活を見直してみてはいかがでしょうか。

TONTON

ありがとうございました。

Profile

東京逓信病院 病院長平田 恭信先生 Yasunobu Hirata

1974年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院内科、三井記念病院内科、米国州立ミネソタ大学内科、関東中央病院循環器内科を経て、1984年より東京大学医学部附属病院第二内科勤務。1998年より東京大学医学部附属病院循環器内科勤務。2013年より現職。

一貫して動脈硬化の病因の探究とその治療法の開発を研究してきた。高血圧、メタボリックシンドローム、心不全、腎不全、虚血性心疾患、マルファン症候群の患者さんの診療に従事している。学会活動では日本循環器学会、日本高血圧学会、日本腎臓学会、日本内分泌学会などの評議員を務めている。

東京逓信病院

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