メタボの危険因子を探る Vol.3 気づかないうちに重大な病気を招く高血圧に要注意!メタボの危険因子を探る Vol.3 気づかないうちに重大な病気を招く高血圧に要注意!

今回は、メタボの原因のひとつになっている「高血圧」をクローズアップします。脳や心臓、腎臓などに危険な合併症を引き起こす高血圧は、日本人の3人に1人、約4,300万人が罹っているともいわれています。高血圧を招かないための日頃の予防と対策を、動脈硬化の探究に情熱を注ぐ平田先生に解説していただきます。

血圧のしくみは、電圧や水圧の原理と同じです。

TONTON

まず、血圧のメカニズムについて教えてください。

平田先生

たとえて言いますと、血圧は電気の電圧に相当します。電圧が高い場合は、電流がたくさん流れるか、電気抵抗が大きいかのどちらかです。《電圧=電流×電気抵抗》となりますが、血圧のしくみもこれと同じことがいえます。
血圧を決めるのは、心臓から送り出される血液の量である「心拍出量」と、血液に対して血管の通りにくさを表す「血管抵抗」をかけたものです。《血圧=心拍出量×血管抵抗》と定義されます。つまり、心拍出量が多すぎても、あるいは血管が収縮することでも血圧は上がります。

TONTON

高血圧の人の血管抵抗はどんな状態なのですか?

平田先生

水道管につないだゴムホースを想像してみてください。水道の蛇口にゴムホースをつけて上を向け水道栓をひねると、水がどれだけ高く噴出するかで、水圧が高いかどうかがわかります。水を勢いよく噴出させるためには、水道栓を全開にするか、ゴムホースの先を少し閉じるかのどちらかです。血圧調整もこれと同じ原理です。血圧の場合は蛇口が心臓、ゴムホースの先は動脈の細い部分(末梢血管)に相当します。つまり高血圧の人は、水道管の栓が全開になっている状態か、あるいはゴムホースの先が狭くなっている状態かのどちらかだと推測されます。また高血圧の持続につれてホースの先が狭くなってきます。

血圧は水圧の現理にと同じ
  • 蛇口にゴムホースをつけ、その先を上に向けた時、水圧が高いと水はより高く上がる。

  • 水を高く上げようとするなら、①②のどちらかあるいはその両方である。
    ①水道栓を全開にする。②ゴムホースの先を狭める。

TONTON

高血圧が「サイレントキラー(しのびよる殺し屋)」と呼ばれているのはなぜですか?

平田先生

高血圧の恐いところは、ふだんは自覚症状がないので本人が気づかないうちに進行してしまうことです。自覚症状があったとしても頭痛、肩こり、からだのほてり、冷え症などです。これらの症状がひとつやふたつあっても高血圧だと気づかずに見過ごしてしまいます。高血圧はある日突然、脳卒中や心筋梗塞などの重篤な合併症を引き起こした時に、初めて気づくことが多いのです。死を招くこともあるので、合併症が起きてからでは遅すぎるのです。高血圧は早期発見し、できるだけ軽症のうちに対処することが大切です。そのためにも定期的に健康診断を受けましょう。

最近は、高血圧の診断基準が厳しくなっています

TONTON

高血圧と診断される基準はどれくらいですか?

平田先生

高血圧の診断基準は国や人種、時代によっても違います。かつては≪収縮期血圧/160以上、または拡張期血圧/95以上(単位:mmHg、以下同)≫のどちらかを超えれば高血圧でしたが、少しずつ厳しい方向へ変わってきています。最近は≪収縮期血圧/140以上、拡張期血圧/90以上≫になりました。では、この基準値以下だったら正常血圧なのかというとそうではありません。「正常高値(こうち)」血圧があって、≪収縮期血圧/130~139、拡張期血圧/85~89≫ の範囲だと正常の中でも高いほうに入ります。最も理想的な血圧は「至適(してき)血圧」と呼び、≪収縮期血圧/120未満、拡張期血圧/80未満≫という低めの数値になっています。

高血圧の定義と分類
(日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」より改編)
TONTON

高血圧の治療はどれくらいの数値で始めていますか?

平田先生

治療の判断は血圧の数値だけでなく、患者さんがどれだけ合併症の危険因子を持っているかで異なります。最近は、合併症がない場合でもコンスタントに≪収縮期血圧/140、拡張期血圧/90≫を超えた場合は治療を始めるようにしています。ところが蛋白尿のある腎臓病や糖尿病の患者さんの場合は、≪収縮期血圧/130、拡張期血圧/80≫を超えると治療を始めるようにしています。それはこの2つの病気は心血管合併症をとくに起こしやすいことが知られているからです。高血圧の診断の基準値は厳しくなっていますが、それは合併症の厳格な予防に他なりません。

TONTON

高血圧はどのような病気につながりますか?

平田先生

血圧の合併症はからだのどの血管でも起こる可能性があります。とくに血管がたくさん集まっている心臓、脳、腎臓で起こりやすくなります。心臓の合併症には「心肥大」があり、その状態が続くと「心不全」になります。冠動脈の動脈硬化が進むと「狭心症」や「心筋梗塞」になる恐れがあります。脳の合併症には主に血管が破れる「脳出血」と血管の動脈硬化により血管が詰まってしまう「脳梗塞」があります。腎臓にも多くの血管があります。腎臓の合併症には、腎臓の血管に動脈硬化が起こり、腎臓が硬くなる「腎硬化症」があり、それが進行して腎機能が著しく低下する「腎不全」へとつながり透析治療が必要になってきます。透析の原因疾患は糖尿病、慢性糸球体(しきゅうたい)腎炎に次いで高血圧が多くなっています。大動脈などにできる「大動脈瘤」も高血圧の代表的な合併症です。いずれも一度発症してしまうと治療が難しい病気ですので、予防が重要になってきます。

高血圧分類別にみた脳梗塞発症率
  • (谷崎弓裕ほか:高血圧ガイドライン 2009より)
TONTON

高血圧にはどんな種類がありますか?

平田先生

高血圧は、原因が見つからない「本態性高血圧」と原因が特定できる「二次性高血圧」の2種類に分けられます。圧倒的に多いのは本態性高血圧の人で、高血圧患者の90%を占めます。メタボリック症候群に関係する人なども相当します。本態性というのは、「体質的な」「生まれつきの」という意味ですが、高血圧になりやすい遺伝的な体質ということです。
一方、二次性高血圧の人は約10%と考えられています。その中では腎臓の働きが低下して血圧が上昇する腎性高血圧が50%を占めます。「褐色細胞腫」や「原発性アルドステロン症」などは腎臓の上にある小さな「副腎」という組織から血圧を上げるホルモンが多く出ることが原因です。また「腎血管性高血圧」といって、腎臓の動脈の内腔が動脈硬化などによって狭くなると血圧が高くなることもあります。

TONTON

高血圧は腎臓との関係が深いのですね。

平田先生

その通りです。高血圧になるのは、もともと腎臓が悪いからではないかという説があるくらいです。つまり、腎臓には「ネフロン」という血液をふるいにかけて尿をこしだす小さな装置が片方の腎臓で約100万個ありますが、高血圧の人は生まれつきこの数が少ないのではないかという考え方です。たとえば食べた塩分を排出するために、普通の人は100mmHgの血圧で押し出せるのに、生まれつき腎臓の悪い人は、120mmHgの血圧が必要だったりします。いずれにしても高血圧が続くと腎臓の働きが低下し、腎臓の働きが低下すると血圧が高くなるという悪循環になります。腎臓が悪い方はとくに血圧を下げる必要があります。

血圧は一日の時間帯でさまざまに変動します。

TONTON

血圧は常に一定なのですか

平田先生

診察時に起こる血圧変動として「白衣高血圧」があります。これは医師の白衣を見ると血圧が高くなってしまう現象です。緊張すると診察室で測る血圧が高くなってしまうことがあります。診察室での血圧が高いので降圧薬を出すと、家庭での血圧が下がりすぎてしまうということがあります。そういうことが、24時間続けて測れる血圧計やあるいは家庭血圧計が普及してきたおかげでわかってきました。また逆の現象が起こることも知られています。病院での測定値は低いのに家庭で血圧が上昇する病態です。もともと「逆白衣高血圧」という名前ですが、病院の検査や診察ではわからないことから、「仮面高血圧」とも呼ばれています。さまざまな合併症を起こしているケースが多く、今注目されています。

TONTON

ふつうの高血圧との違いは何ですか?

平田先生

仮面高血圧は、病院と家庭での血圧の差が問題になります。病院で正常血圧なのに家庭で高血圧なのが仮面高血圧、逆に病院でだけ血圧が高くなるのが白衣高血圧です。家庭でも簡単に測れる血圧計がありますから、自分の血圧を正しく把握しておく必要があります。このように血圧の数値に差が出る原因のひとつは、薬の作用する時間が関係すると考えられます。すでに降圧薬を服用している人の場合、薬が効いている時間帯に受診しているため、血圧が低くなっていることがあります。しかし、薬の効果が夜間まで続かないと、家庭での血圧が高くなります。仮面高血圧は、ふつうの高血圧に比べ病態を発見しづらく、脳卒中や心筋梗塞などの合併症を起こすリスクも高くなります。

TONTON

仮面高血圧の中に、「夜間高血圧」というものがあると聞いたことがあります。

平田先生

ふつう血圧は夜眠ると下がり始め、明け方の午前3~4時頃に最低になった後、緩やかに上昇し始めて、さらに起床時頃に上昇します。しかし、睡眠中に下がらずに上昇したままのケースもあります。薬を服用しているにもかかわらず血圧が上がるのは、薬の作用が短く、夕方から翌朝までほとんど薬が効いていないと考えられます。その結果、夜間や早朝に血圧が上昇してしまいます。また腎臓の働きが低下していたり、動脈硬化が強かったりすると夜間の降圧が妨げられることが知られています。これらを「夜間高血圧」といいます。

仮面高血圧の一例:早朝・夜間の血圧の変動
診察時には薬がよく効いているが、1日の過半の時間は血圧コントロールが不十分である。
TONTON

睡眠中には血圧が高くなっていることに気づかないですよね。

平田先生

仮面高血圧は病院ではしばしば気づかれません。原因は薬を飲む時間と薬の選び方です。最近の降圧薬は効果が長持ちするようになっています。病院では薬の種類を変えたり、別の薬と併用したり、あるいは寝る前に飲んでもらうなどの工夫をしています。仮面高血圧に気づき、自分の正しい血圧を把握するためにも、家庭での血圧測定が重要です。

TONTON

仮面高血圧の病態は、他にもありますか?

平田先生

仮面高血圧には、職場で血圧が高くなる「職場高血圧」も含まれます。これは昼間に職場のさまざまなストレスが原因で血圧が上昇するケースですが、これも気づかないことが多いです。たとえば自分の会社の経営が危機的状況になったりすると、ストレスによって血圧が上昇します。職場においてもさまざまな場面でストレスが生じ、血圧が上昇すると考えられます。同じ状況でもその人の受け止め方次第で違ってくるということがありますので、その人の素因にも関係すると思います。

TONTON

ストレスも高血圧の原因のひとつなのですね。

平田先生

血圧が上がる原因には、遺伝素因と環境因子が関係します。親が高血圧であるような遺伝素因が強い方はどうしても血圧が高くなりますが、塩分を多く摂るとか、太るとか、ストレスなどの環境因子が加わることによって、さらに血圧が高くなると考えられています。ストレスに関係する検査に「暗算試験」があります。患者さんに「100―7は?」と質問するとすぐに「93」と答えられます。次に「93―7は?」と質問すると、うーんと考え「86」と答えられるとすかさず「86-7は?」と繰り返していきますと、そうするだけで血圧が上がります。正常血圧の人でも上がりますが、血圧が高い人ではその程度が大きく、容易に20~30mmHg上昇します。
働いているとストレスを感じることが多いですね。仕事を離れるだけで途端に血圧が下がる高血圧の方は非常に多いです(笑)。

TONTON

ストレスが血圧を上げるメカニズムを教えてください。

平田先生

このようにストレスは血圧上昇を促進させます。血圧は無意識のうちに上がったり下がったり調節されますが、その調節をするのが「自律神経」です。自律神経は交感神経と副交感神経の相反する働きをする神経で成り立っています。昼間、活動する時は交感神経が働き、夜間リラックスする時には副交感神経が働きます。ストレスを受けると交感神経が刺激されます。心身の緊張により血圧を上げるホルモンがたくさん出ることがわかっていますが、とくに交感神経から出る「カテコールアミン」「アンジオテンシン」などのホルモンが影響していると考えられています。

TONTON

血圧を下げるためには、ストレスを減らすことが必要ですね。

平田先生

ストレスを溜めやすい人は血圧が上がる傾向があります。対策としては副交感神経を働かせることです。たとえば音楽が好きな人なら静かに音楽を聴くとか、瞑想にふけるなど自分の好きなことに没頭できるリラックスタイムを設けることです。主婦の方もある程度休養したほうがよいでしょう。帰宅したら心臓に負担をかけないようぬるめのお風呂にゆっくり入ったり、気持ちよく眠れるような工夫をすると血圧は下がります。

TONTON

ありがとうございました。

Profile

東京逓信病院 病院長平田 恭信先生 Yasunobu Hirata

1974年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院内科、三井記念病院内科、米国州立ミネソタ大学内科、関東中央病院循環器内科を経て、1984年より東京大学医学部附属病院第二内科勤務。1998年より東京大学医学部附属病院循環器内科勤務。2013年より現職。

一貫して動脈硬化の病因の探究とその治療法の開発を研究してきた。高血圧、メタボリックシンドローム、心不全、腎不全、虚血性心疾患、マルファン症候群の患者さんの診療に従事している。学会活動では日本循環器学会、日本高血圧学会、日本腎臓学会、日本内分泌学会などの評議員を務めている。

東京逓信病院

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