メタボの危険因子を探る Vol.4 食事と運動、生活習慣の改善で「高血圧症」を予防する!メタボの危険因子を探る Vol.4 食事と運動、生活習慣の改善で「高血圧症」を予防する!

厚生労働省の調査によると、日本人のうち約4,300万人が高血圧症に罹っていると推定されています(平成24年)。メタボリックシンドロームの診断基準にもなっている血圧値。「血圧が高め」と診断されたら、どう対処したらよいのでしょうか。動脈硬化の探究に情熱を注ぐ平田先生に解説していただきます。

生活習慣病を予防するため、血圧の診断基準が厳しくなりました。

TONTON

メタボ健診における血圧の診断基準はどうなっていますか?

平田先生

メタボリックシンドロームの診断基準は厳しくなっています。日本における血圧の基準値は《最高(収縮期)血圧が130mmHg以上、または最低(拡張期)血圧が85mmHg以上》です。

TONTON

診断基準が厳しくなってきたのはなぜですか?

平田先生

世界中のさまざまな疫学研究や臨床試験の薬物効果などをみると、血圧が高いほど心筋梗塞や脳卒中が増えています。さらに細かくみてみると、高血圧(日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2014」)の基準値の140/90mmHg(最高血圧/最低血圧、以下同)を超えてから増えるのではなく、もう少し低い血圧でも影響を及ぼすことが解明されたのです。

つまり、最高血圧が115mmHgを超えるとすでに合併症が血圧上昇とともに増えてきます。そこで120/80mmHg未満を最も理想的な血圧として「至適(してき)血圧」としました。メタボに該当する130/85mmHgの血圧の人と至適血圧の人を比べると、心筋梗塞や脳卒中の発症率に40%以上も差があります。こうしたデータ分析の結果、診断基準が厳しくなったのです。

加齢に伴って、血圧は上がる傾向があります。

TONTON

一般的に、年齢が上がるほど血圧は高くなると聞きますが…。

平田先生

高血圧症が発症する割合は高齢になるにつれて高くなっていきます。特に40~60歳にかけて急増し、65歳以上では約6割となり、3人に2人が高血圧という結果が出ています。合併症を起こす可能性も高くなりますから対応策が必要です。

年齢別高血圧者の割合
厚生労働省:第5次循環器疾患基礎調査より

肥満は高血圧を促進し、合併症を招きます。

TONTON

肥満度を測る基準はありますか?

平田先生

一般的に「標準体重」は(身長-100)cm×0.9で求めることができ、標準体重の《±10%以内》が正常、《10%以上》がやや肥満、《20%以上》が肥満と判定されます。たとえば身長170cmの人は(170-100)cm×0.9=63(kg)が理想的な体重で、56.7kg以上~69.3kg未満なら正常、69.3kg以上~75.6kg未満ではやや肥満、75.6kg以上の人は肥満と判定されます。

また、最近は肥満度の判定基準としてBMI(ボディ・マス・インデックス)が取り入れられています。日本では「やせ係数」と訳され、《BMI値25以上》が肥満の目安とされています。体重(kg)÷(身長×身長)(m)で求められるもので、《BMI値22》が理想的です。たとえば身長170cm、体重63kgの人のBMI値は、63(kg)÷(1.7×1.7)(m)=21.79となります。これらの数式によって自分の肥満度を知り、標準体重を維持することが大切です。ちなみに欧米では30以上が肥満の定義です。日本人とは体格が違いますね。

TONTON

肥満と高血圧はなにか関係がありますか?

平田先生

肥満度と高血圧の発症頻度は比例関係にあるといわれています。最近のデータによれば、日本人の約38%が高血圧です(平成24年 国民健康・栄養調査結果より)。ところが肥満度が《20%以上》の人に限ってみると、約半数の人が高血圧です。肥満のタイプが皮下脂肪型なのか、内臓脂肪型なのかというデータはまだ不十分ですが、内臓脂肪から血圧を上げるホルモンが多く出ると考えられるので、肥満に比例して高血圧の合併しやすくなると考えられます。

TONTON

最近、内臓脂肪と関係のある善玉ホルモンの「アディポネクチン」が注目されていますね。

平田先生

アディポネクチンは血糖値との関係が深いホルモンで、インスリンの働きを高める善玉ホルモンと考えられています。とくに糖尿病や動脈硬化を抑制する作用があるので、高血圧の人にもよい影響を与えます。ところが、内臓脂肪が増えれば増えるほど、アディポネクチンは少なくなると考えられています。従って、メタボの人の血中にはアディポネクチンが少なく、糖尿病や動脈硬化が起こりやすくなります。さらに脂肪細胞から血圧を上げるホルモンの「アンジオテンシンII」や「TNF(腫瘍壊死因子)-α」などの分泌が増加します。

生活習慣の見直しが、高血圧治療の第一歩。

TONTON

血圧を下げるために、日常生活ではどのようなことに注意したらよいのでしょうか?

平田先生

治療というとすぐに薬物療法を思い浮かべると思います。しかし、高血圧の治療は食事療法と運動療法、生活習慣の改善などの「非薬物治療」が主体になります。少なくとも次の5つが効果的だと科学的にも証明されています。

まずは「減量」です。体重を落とすことが血圧を下げる一番確実な方法といえます。体重を10kg落とすと、最高血圧が約20mmHg、最低血圧が約10mmHg 下がることがわかっています。肥満の解消には、食事制限と運動による減量が欠かせません。しかし、10kg痩せるのは至難の業。減量の目安としては、1か月に1~2kgと無理のないペースで行ないましょう。

2つめは「減塩」です。日本人は塩分を多く摂る民族です。最近はだいぶ減ってきましたが、それでも平均すると1日に11gくらい摂っています。一般に塩分の摂取量と血圧は正比例し、塩分を控えると血圧は下がります。日本高血圧学会のガイドライン(2014年改訂版)では、1日の塩分摂取量が《6g未満》と世界基準並みに制限されました。個人差がありますが、6gに減らすと最高血圧は約5mmHg下がるといわれています。

3つめは「運動」。適度な運動は血圧を下げることがわかっています。早足ウォーキング、水泳、ジョギングなどの有酸素運動がお勧めできます。たとえば、早足ウォーキングなら脈拍が110拍/分ぐらいのペースが適しています。有酸素運動は、皮下脂肪をゆっくり燃焼させるため、1日30分以上継続すると血圧が下がることが確認されています。できれば毎日行なうのが理想的です。

TONTON

筋肉を鍛えるウエイトトレーニングはいかがですか?

平田先生

軽い運動は筋肉の動きを酸素でまかなえますが、強い運動は「嫌気性運動」とも呼ばれ、酸素だけでは足りず、からだの中に貯めている栄養分を消費するしくみになっています。個人差がありますが、有酸素運動との境界線となる脈拍は《110拍/分;138-年齢÷2》です。有酸素運動は血圧を下げる作用がありますが、強い嫌気性運動になるとかえって血圧が高くなる可能性があるので注意が必要です。筋肉を鍛える重量挙げなどのウエイトトレーニングは心臓などに問題のある方には不向きな運動といえます。

TONTON

では、残りの2つは何でしょうか?

平田先生

ひとつは、「ストレス」が関係します。腹を立てると血圧が急に上がり、怒りが収まると血圧も下がります。ストレスを溜め込まない工夫をするとか、あるいはちょっと時間が空いた時にストレスを解消できるように、自分の好きなことでリラックスできる方法を考えるとよいでしょう。

もうひとつは「アルコール」。お酒の飲み過ぎが挙げられます。お酒を飲んで胸がドキドキするのは、血管が広がって血圧が下がるためです。しかし、すぐに心臓が血液をたくさん送り出して血圧を上げようとするのを感じているのです。アルコールがからだから抜けてくると血圧が上がり始めます。さらについ塩分や脂肪を含むおつまみを摂り、結果的に飲酒の習慣によって血圧が高くなります。日本酒に換算すると毎日3合以上飲んでいる人に心血管合併症が多くみられます。飲まない人は血圧が低いかというとそうでもなく、意外にも毎日1合くらい飲んでいる人(平均的な体重の男性の場合)が一番低いのです。

TONTON

ところで、喫煙も影響がありますか?

平田先生

タバコを吸うと交感神経の働きが活発になるので、血圧が30mmHgくらい上がりますが、吸い終わるとすぐに戻ります。喫煙による高血圧の慢性的な影響についてはまだはっきりと解明されていません。しかし、心筋梗塞などの合併症は増えます。そういう意味でぜひ禁煙すべきですが、高血圧の直接の原因にはなりません。

食事で血圧をコントロールすることができます。

TONTON

最近、アメリカで「DASH(ダッシュ)食」が注目されているそうですが、どういう食事ですか?

平田先生

DASH食《Dietary Approaches to Stop Hypertension(高血圧を停止させるための食事療法) の略称》とは、「野菜や果物、低脂肪の乳製品を多く摂取する」ことと「動物性の脂肪分を減らす」ことを基本にした食事法のことです。ファーストフードに代表されるように、アメリカの食生活は動物性タンパク質や動物性脂肪、糖分が多いため、そういう食事から脱却しようという試みなのです。おおよそカロリーが1日2,100kcal、塩分が7.5g、コレステロールが150mgくらいに調節されています。イメージとしては、米を主体にした和食に近い食事です。この食事を続けると最高血圧が約6mmHg下がることが知られています。

TONTON

高血圧予防に効果的なのですね?

平田先生

DASH食は、脂肪分が全カロリーの27%程度で飽和脂肪酸が少なく、カルシウムの多い低脂肪乳製品やカリウム、マグネシウム、食物繊維が豊富な野菜や果物を多くした献立で、高血圧予防に効果的だと考えられています。たとえば飽和脂肪酸を減らすためには魚や大豆を多く摂ることもお勧めできます。ただし果物にはカロリーの高いものもあり、血中のカリウム濃度が高くなる可能性があるので、糖尿病や腎臓の働きが低下している人は控えたほうがよいでしょう。

非薬物治療と降圧薬の併用が、より効果的です。

TONTON

病院では、薬物治療のタイミングをどのように決めますか?

平田先生

最近は非薬物治療を3か月行なってみて効果がみられない場合に降圧薬治療を始めるようにしています。ただし、血圧が非常に高い人、糖尿病や腎臓病あるいはすでに高血圧合併症がある人には比較的早い段階で薬物治療を始めるようにしています。

TONTON

薬物治療は、どのように行なわれるのでしょうか?

平田先生

非薬物治療で血圧を下げるには限界があります。たとえば170~180mmHgと高血圧の人が基準値である140mmHg以下にするのは非薬物療法だけでは難しいのです。そこで、薬物療法を併用すると効果的です。降圧薬にはさまざまな種類があります。日本では「カルシウム拮抗(きっこう)薬」が最も多く投与されていて、他にARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)、ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、利尿薬、β遮断薬などがあります。どの薬を使うかは、患者さんの年齢、性別、合併症などを考慮して選びます。経過をみて薬の量を増やしたり、別の薬を加えたりと複数の薬を併用することもあります。体質的なものが影響しますので、長期間にわたって薬を飲み続けることになります。

TONTON

副作用が気になるところですが…

平田先生

降圧薬の副作用は一般に軽いものが多いのですが、長く服用し続けるので軽視できません。それで副作用の少ない薬の開発が続けられています。ARBは最も新しい降圧薬ですが、効き目が緩やかで、副作用が弱いのが特長です。別の薬と併用しながら一剤の量を減らすことで、薬の相乗効果が期待でき、副作用の弊害を減らすことができます。

TONTON

複数の薬を併用すると、どのような効果が期待できるのでしょうか?

平田先生

1種類の薬で正常血圧にまで改善することは多くありません。その際、特定の薬を1錠から2錠へ、はたまた3錠へと増やしていくと、血圧は下がってはきますが、それ以上に副作用が出てくる頻度が増える可能性があります。それで1剤の量は少なくして種類を多くしています。そのため、現在2~3種類の降圧薬を処方することが多いと思います。数種類の薬を合わせることで、それぞれの薬の欠点を補い、1+1が3になるような相乗効果が期待できるのです。私たちとしては、薬同士のより効果的な組み合わせを考えながら、コスト的にも負担をかけず治療していくのが腕の見せ所です。

ところで、降圧薬はあくまでも血圧を低い状態に保つことによって、高血圧に伴う合併症を防ぐのが目的です。服用しているからといって、高血圧を根本的に治すものではありません。降圧薬の服用中であっても食事療法や運動療法を医師の指導のもとで続けることが重要です。高血圧治療においては、非薬物治療も継続していくのが、高血圧を悪化させないために最も効果的です。

TONTON

ありがとうございました。

Profile

東京逓信病院 病院長平田 恭信先生 Yasunobu Hirata

1974年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院内科、三井記念病院内科、米国州立ミネソタ大学内科、関東中央病院循環器内科を経て、1984年より東京大学医学部附属病院第二内科勤務。1998年より東京大学医学部附属病院循環器内科勤務。2013年より現職。

一貫して動脈硬化の病因の探究とその治療法の開発を研究してきた。高血圧、メタボリックシンドローム、心不全、腎不全、虚血性心疾患、マルファン症候群の患者さんの診療に従事している。学会活動では日本循環器学会、日本高血圧学会、日本腎臓学会、日本内分泌学会などの評議員を務めている。

東京逓信病院

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