メタボの危険因子を探る Vol.6 食事と運動、最新の薬物治療で「血糖値」をコントロールする!メタボの危険因子を探る Vol.6 食事と運動、最新の薬物治療で「血糖値」をコントロールする!

いよいよ、「メタボの危険因子を探る」シリーズの最終回です。

高血糖や糖尿病になって、血糖値が高い状態のままにしておくと、血管や神経、内臓などに障害が起こり、深刻な合併症を引き起こしてしまいます。

しかし、偏った食事や運動不足など生活習慣を改善し、適切な薬物治療を行なえば血糖値をコントロールすることができ、合併症を防ぐことができます。さらに動脈硬化や心筋梗塞などの予防にもつながります。今回は、血糖のコントロール法について解説していただきます。

糖尿病患者が増えている理由は?

TONTON

近年、糖尿病患者が非常に増えていますが、なぜでしょうか?

平田先生

30年前には糖尿病を発症するのは100人に1人の割合でしたが、平成24年国民健康・栄養調査結果によると、予備群を含めて成人の約2,050万人が糖尿病の疑いがあると言われています。日本の食生活の歴史を遡ってみますと、長い間、飢餓との戦いでもあったわけですが、昭和29年頃から徐々に生活が豊かになり、食事の内容にも劇的な変化がみられるようになりました。総カロリーは変わっていないのに、脂肪の摂取が急激に増えてきました。これが、糖尿病患者が急増している最も大きな原因と言えるでしょう。

TONTON

食生活が豊かになった弊害ですね。

平田先生

そうですね。食生活やライフスタイルの欧米化により、肉類などの動物性脂肪をたくさん摂るようになってきて、体内に糖質や脂質が溜まりやすくなってきているのです。さらに運動不足が加わって肥満になってしまうというケースが圧倒的に多くなっています。

一方、日本人はもともと糖尿病になりやすい体質とも言えます。糖尿病はすい臓から分泌されるインスリンの量が足りなかったり、働きが十分でなかったりすると発症しますが、日本人は体質的にすい臓からインスリンを分泌させる力が弱いと言われています。長い間、飢餓との戦いで血糖を下げる必要がなかった結果かもしれません。

TONTON

インスリンはどんな働きをするのですか?

平田先生

インスリンは、すい臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるホルモンです。ホルモンのうち、有名なアドレナリンをはじめカテコラミン、副腎皮質ホルモンなどは「血糖を上げるホルモン」として知られていますが、「血糖を下げるホルモン」は、たったひとつ、インスリンだけです。食事をして血液中のブドウ糖の濃度が上がると、インスリンが分泌される仕組みがあり、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込ませて、結果的に血糖値が下がるのです。だから、インスリンの働きが弱いと血糖が高くなるのです。

患者の9割以上を占める「2型糖尿病」

TONTON

糖尿病はインスリンの働きと関係が深いということですね。

平田先生

そうです。糖尿病はインスリンがどれだけ頑張って働いてくれるかにかかっていると言っても過言ではありません。糖尿病はインスリンの作用不足によって起こりますが、2つのタイプに分けることができます。ひとつは、インスリンが絶対的に不足するタイプ。すい臓のランゲルハンス島のβ細胞が破壊されることによって起こることが多く、「1型糖尿病」と呼ばれています。

もう1つは、インスリンがある程度、分泌されているにもかかわらず、ブドウ糖を受け取る側の細胞にある「インスリン受容体」が正常に働かないために、インスリンの効きが不十分になってしまうタイプ。これは「2型糖尿病」といい、患者の9割以上を占めています。

TONTON

糖尿病は、遺伝が関係するとも言われています。

平田先生

2型糖尿病を引き起こす原因のひとつに、「遺伝的要素」が挙げられます。実際、両親ともに糖尿病である場合、子どもが糖尿病になる確率はかなり高くなります。

TONTON

リスクの程度はどれくらいですか?

平田先生

片方の親が糖尿病だと25%、両親が糖尿病だと75%の割合で発症すると言われています。ですから親が糖尿病であれば自分も糖尿病になる可能性が高いと考えるべきです。またご自分が糖尿病なら子どもにもリスクがあるので、とくに食生活に注意する必要があります。しかし、親が糖尿病でも子どもが糖尿病にならないケースも多く、原因は必ずしも遺伝だけではありません。生活環境も大きいと考えられます。糖尿病は肥満が基盤にあって、しかも加齢とともに増えていく傾向にあります。

TONTON

血糖と年齢の関係はどうですか?

平田先生

血圧と年齢は比例関係にありましたが(Vol.4 食事と運動、生活習慣の改善で「高血圧症」を予防する! 参照)、糖尿病も年齢が上がるにつれて増えています。一番多いのは70歳以上の方で、総数は37.6%(男性:41%、女性:34.8%)です(下図参照)。やはり加齢とともにインスリンの分泌が弱まっているとも考えられるし、若い時に暴飲暴食をしてからだを酷使してきたからとも考えられます。

年次推移をみてみますと、糖尿病予備群を含めた推計は、平成9年には約1,370万人、平成14年には約1,620万人、平成19年には約2,210万人と急増しているのがわかります。しかし平成24年には2,050万人と少し減りましたが、依然、高頻度と言えます。

「糖尿病」と「糖尿病予備軍」の割合(2012年)

インスリンの働きを助ける「アディポネクチン」

TONTON

糖尿病と肥満の関係についておうかがいします。最近、耳にする「アディポネクチン」とは何ですか?

平田先生

アディポネクチンとは、脂肪細胞から分泌されるホルモンです。主に脂肪を燃焼させる働きをし、インスリンの働きを助けて糖尿病を防いだり、血管の傷を修復したりして動脈硬化を防ぐ働きをします。

TONTON

脂肪細胞から分泌されるのなら、肥満の人は多く分泌されるのですか。

平田先生

いいえ、その逆です。アディポネクチンの分泌量は、脂肪細胞の大きさと関連があり、肥満や内臓脂肪の蓄積により脂肪細胞が肥大化すると、逆に分泌が抑制されてしまいます。その結果、高血圧や高血糖、脂質異常などのリスクが高まります。まさに、メタボリックシンドロームの鍵を握るホルモンといってよいでしょう。

TONTON

アディポネクチンの分泌量を増やすには、どうすればよいのですか?

平田先生

食品では大豆や青魚に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)を摂るとよいとされていますが、何と言っても継続的な運動が効果的です。運動すると、糖分が筋肉でエネルギーとして消費されるだけでなく、腸が血糖を吸収する速度が緩やかになったり、血糖の急上昇を抑制したりすることができます。ウオーキングなど適度な運動によって減量すると、幸いなことに内臓脂肪が一番先に減っていきます。

血糖をコントロールする治療法とは?

TONTON

糖尿病の治療には、どんな方法がありますか?

平田先生

食事療法と運動療法、そして薬物療法があります。たとえ薬物療法が段階的に必要になってくる人でも、食事療法と運動療法を正しく取り入れ、からだの機能を改善させれば、より少ない薬物で血糖値を正常に保てるようになります。

食事療法は、血糖値を良好にコントロールするために、糖質や脂質の摂取量を制限する治療法です。医師から1日の摂取量が指示されますので、その範囲内で献立を考えます。

一方、運動療法はブドウ糖の消費を増やしたり、インスリンの効きを良くしたりする効果が期待できます。医師と相談しながら、無理のない範囲で毎日運動を続けていくことが大切です。積極的に取り組むように努めましょう。

TONTON

糖尿病の治療薬としては、どんなものがありますか?

平田先生

血糖をコントロールする薬として用いられる血糖降下薬には、7つのタイプがあります。まず、「スルホニル尿素薬」があります。すい臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を促す薬です。これは一番確実に血糖が下がります。2つめは、「ビグアナイド薬」といって、肝臓での糖新生(肝臓でブドウ糖が作られること)を抑制する薬で、血糖値の上昇を防ぎます。

3つめは、インスリンの効きを強める「インスリン感受性改善薬(チアゾリジン)」があります。これはすい臓を傷めることがなく、効果も期待されています。

TONTON

その他はどんな治療薬ですか?

平田先生

「α-グルコシダーゼ阻害薬」といって、でんぷんや砂糖などの糖質の吸収を遅らせる薬で、食後高血糖を抑えるのに向いています。さらには、インスリン分泌のタイミングを早くする「速効型インスリン分泌促進薬」があります。DPP-4阻害薬は血糖依存性のインスリン分泌を増やし、グルカゴンの分泌を減らして、血糖を下げます。最も新しいSGLT2阻害薬は腎臓で糖の再吸収を抑制して尿中にブドウ糖を出させることで血糖を下げます。これらの薬は、医師の診断で処方されますが、人によっては1種類の薬で治療することもあれば、複数の薬を併用しながら治療することもあります。現在、これらの薬の使い分けは日本糖尿病学会から下図のようなガイドラインが出ています。

病態にあわせた経口血糖降下薬の選択
TONTON

インスリン注射による治療法もあると聞いています。

平田先生

インスリン療法は、体内に不足しているインスリンを注射によって補う治療法です。糖尿病の5%に当たる「1型糖尿病」の方には、子どもの頃からインスリンが分泌されない人がいます。また、「2型糖尿病」の方の中でも経口薬で改善されない場合に行なわれます。しかし、インスリン自体はアミノ酸がつらなったペプチドなので、経口薬として服用すると胃酸で消化されてしまい、薬として効かなくなってしまうのです。したがって自分で注射して補う必要があります。

TONTON

どのように行なうのですか?

平田先生

インスリン注射は、糖尿病患者の10人に1人くらいの割合で一般的に行なわれています。食事と合わせて1日に3~ 4回程度、自分で注射を打ちます。近年は注射器の改良が進み、ほとんど痛みを感じなくなったのが大きな進歩と言えます。ペン型の注射器で、外出先でも簡単に注射ができるようになっています。

TONTON

薬物治療による副作用は心配ありませんか?

平田先生

経口薬やインスリン療法で注意すべき点は、まれに薬が効き過ぎて低血糖が起こる場合があるということです。血糖値が〈50mg/ dL〉まで下がるとフラフラしてきて、〈30mg/ dL〉になるとほとんど意識がなくなってしまいます。これを「低血糖性昏睡」といいます。治療中の方は、砂糖入りの飴を常備するように心がけ、そのような状態になったら口に含むと良いでしょう。あるいは「糖尿病の薬を飲んでいます」というカードを持っていて、倒れた場合でも低血糖性昏睡の可能性があることを知らせる必要があります。

TONTON

最新の治療法としては、どんなものがありますか?

平田先生

すい臓移植がありますが、日本では一般的ではありません。インスリンを分泌する細胞は、ランゲルハンス島のβ細胞だけです。そのβ細胞だけを取り出して移植すると糖尿病が治るという治療法が、先進医療として一部で始められている段階です。自分の皮膚から取ってきた細胞をβ細胞に変えて、それを戻してやることができれば、新しい細胞からインスリンがたくさん分泌されますから、血糖は正常になり糖尿病が治るわけです。ノーベル賞を受賞された山中先生が発見したiPS細胞に期待が寄せられています。しかし、この治療法として確立するまでには至っていません。

また、人工すい臓という機械もあります。インスリンのポンプに血糖値を測る装置がついたもので、これを体内に埋め込み、血糖値に応じてインスリン注入の速度を自動的に変えてくれるのですが、普及にはまだ時間がかかるでしょう。ですから、糖尿病にならないように予防することが大切ということです。

血糖コントロールに重要な食生活

TONTON

糖尿病の方は、やはりアルコールは控えたほうがよいでしょうか?

平田先生

アルコールにどれだけ糖分が入っているかによりますが、ビール以外は比較的糖分は少ないようです。ビールはそれ自体のカロリー以外に飲み過ぎると肝臓に作用し、間接的に血糖値に影響する場合があります。ビールではなく、炭水化物を除去した「発泡酒」なら比較的安心と言えるでしょう。むしろ問題なのは、おつまみです。塩辛くて、脂っこいものが多いので避けた方がよいでしょう。

TONTON

アルコール依存症の方に糖尿病が多いと聞きますが。

平田先生

確かに肝臓の働きが低下すると糖尿病になりやすいと言えます。アルコールが原因で糖尿病を起こすことがありますが、激烈な急性膵炎を起こした直後から糖尿病になることもあります。アルコールが直接の原因ではなく、アルコールの飲み過ぎにより肝機能が低下し、糖尿病になってしまうということです。

TONTON

甘い菓子類は控えたほうがよいですね。

平田先生

糖尿病の方で、血糖値を自己測定している方は、食前と食後で測ってみてください。甘い菓子類を食べた後に血糖値が急激に上がるのがわかるはずです。とくに洋菓子は脂肪分を多く含んでいるので、カロリーが高くなってしまいます。摂り過ぎた分のエネルギーを運動などで消費するのは容易なことではありません。控えたほうがよいです。

TONTON

果物はどうですか?

平田先生

糖尿病の方は果物も控えたほうがよいです。果物はカロリーが高いものが多く、カリウムが豊富に含まれています。腎機能が低下している方がカリウムを摂り過ぎると、血中のカリウム濃度が上がり、不整脈をはじめ、さまざまな不調が起こりやすくなります。

TONTON

その他、食生活における注意点を教えてください。

平田先生

食事は3 食規則的に摂ることが大切です。血糖値をコントロールするために、「腹八分目にする」、「食べ物の種類を多くする」、「脂肪分を減らす」ことが基本です。過食を控え、ゆっくりよく噛んで食べるようにするとよいでしょう。

逆に積極的に摂っていただきたい食品は、繊維質の多い食品。野菜、きのこ類、海藻類などはカロリーが低いわりに満腹感が得られ、便通も改善できます。また、食後の血糖値の上昇をゆるやかにする効果もあります。

タバコやストレスと糖尿病との関係は?

TONTON

タバコの影響はありますか?

平田先生

糖尿病には直接的な関係はないと言えますが、喫煙は動脈硬化を促進します。したがって糖尿病の合併症の発症を後押しをすることになるので、やはり控えたほうがよいでしょう。一方、習慣づけたいのは、からだを動かすことです。とくに糖尿病になられた方は、食後1 時間半~ 2 時間後にからだを動かすと確実に血糖値が下がるということがわかっています。

TONTON

ストレスは血糖値に影響がありますか?

平田先生

人間のからだはストレスを受けると、それに負けないように抗ストレスホルモンを分泌し、血糖値を上昇させます。緊張しやすい方は、病院で白衣を見るだけでもストレスとなり、短時間のうちに血糖値が上がってしまう「白衣高血糖」を引き起こすこともあります。

過度のストレスは過食や偏食、アルコールの依存などを招きやすく、内臓脂肪型肥満になりやすくなります。その結果、血糖値が上がってしまうということなのです。ストレスを解消するためには、心とからだをリフレッシュさせることが大切です。半身浴でもいいし、ゆったり音楽を聴くでもいいし、日常のストレスを上手にかわすよう心がけましょう。

TONTON

心身の健康管理が大切なのですね。

平田先生

まずは健康診断を定期的に受けて、自分の血糖値を把握していただきたいです。自分で血糖値を測る機器も普及していますので、それらを活用してみてもよいでしょう。

糖尿病の治療の鍵は、どこまで血糖コントロールができるかということです。糖尿病を後ろ向きに考えるのではなく、食事、運動、ストレスコントロール、必要に応じて薬物療法やインスリン療法を行なっていけば、血糖コントロールが可能だということです。そして、それは動脈硬化や高血圧をはじめさまざまな生活習慣病の予防に役立つということです。毎日の努力は必ず実を結ぶと確信しています。

TONTON

「メタボの危険因子を探る」シリーズは今回で終了となります。

メタボリックシンドロームは、普段の生活習慣を改善することで予防できることがよくわかりました。読者の皆さまも、ご自分の健康状態を正しく把握していただき、適切な食事、適度な運動を心がけ、これからの人生をさらに充実させていただきたいと思います。平田先生、ありがとうございました。

Profile

東京逓信病院 病院長平田 恭信先生 Yasunobu Hirata

1974年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院内科、三井記念病院内科、米国州立ミネソタ大学内科、関東中央病院循環器内科を経て、1984年より東京大学医学部附属病院第二内科勤務。1998年より東京大学医学部附属病院循環器内科勤務。2013年より現職。

一貫して動脈硬化の病因の探究とその治療法の開発を研究してきた。高血圧、メタボリックシンドローム、心不全、腎不全、虚血性心疾患、マルファン症候群の患者さんの診療に従事している。学会活動では日本循環器学会、日本高血圧学会、日本腎臓学会、日本内分泌学会などの評議員を務めている。

東京逓信病院

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