今日から始める男の趣味今日から始める男の趣味

水に溶けた色鉛筆が、魔法のように水彩画風に早変わり…。水彩色鉛筆を片手に、散歩や旅先の途中でスケッチを愉しんでみませんか?今回は、イラストレーターの杉原美由樹さんに、水彩色鉛筆によるスケッチの描き方を指南していただきます。

第1章 水彩色鉛筆の魅力 第2章 旅先スケッチに挑戦! 第3章 スケッチライフの愉しさ
第1章 水彩色鉛筆の魅力
水彩色鉛筆との出会い~魔法のように水で溶ける、ステキな色鉛筆~
 かつてJALの乗員だった私がフライト先でよく訪れたのが画材屋です。絵は趣味で描いていたものの、荷物になる画材を持っていくようなことはしていませんでした。それでも、フライトを心配する祖母が安心するようにと、露店で買った葉書にイラストを描いて送ったものでした。
 目の悪い祖母のことを考えると、「何をして」「どうだったか」を伝えるのには絵日記がいいな、と漠然と考えている時、偶然フランクフルトの古い画材屋で見つけたのが100色セットの水彩色鉛筆(現在は120色)でした。今から15年前のことです。マホガニー色の木箱に並べられた色鉛筆がまるで虹色の鍵盤のように見えて、まさに一目惚れしてしまいました。しかし、当時の乗員の免税基準が15,000円だったので、高価な100色を諦めて、泣く泣く60色の缶入りを購入しました。色鉛筆にしては、高い買い物だと思いましたが、使ってみると、何と発色の良いこと。水で濡らしてみるとさーっと溶けるだけでなく、色がはっきりしてきて、とてもきれいなのです。さっと出せて使える手軽さや水筆の便利さも加わり、私にとっては大切な宝ものになりました。この水彩色鉛筆をいまだに愛用しています。そして、ファーバーカステルブランドを知るにつれ、心底惚れこんでしまったのです。

自宅アトリエにて。今回のスケッチ旅行で使用した水彩色鉛筆、
ビッグブラシ、鉛筆、練り消し。

 私には持病があり、何度か入院生活を経験しました。入院中に心の安定の大切さを実感できたのも水彩色鉛筆のおかげです。不安を打ち消すかのように、いつでもベッドの傍らにおいて、暇さえあればいろいろなものを描いていました。描くものは窓からの景色だったり、お見舞いの果物やお花だったり。それを見た同室の方々もいっしょに描き始めたりして、看護師さんたちとの会話も愉しいものになりました。

 病室のベッドの上で手軽にできる趣味って、なかなかないと思いませんか?絵を描けることは生きている証。さまざまな物を見て感じることは、「生とは何か」ということを実感する瞬間であるように思います。水彩色鉛筆は散歩や旅先で手軽にできる趣味の道具としてだけでなく、描く人の心を癒し、描き手のメッセージが伝わるツールとしての価値があると感じています。
色鉛筆のルーツ、ファーバーカステル城(ドイツ)を訪ねて

ファーバーカステル社は世界最古の筆記具メーカー。
今日では世界に15の工場があるグローバル企業に発展している。
創設一族が伯爵家で、現在もファーバーカステル城が健在である。
 ドイツのニュルンベルクの街から少し離れたところに「ファーバーカステルアカデミー(Faber-Castell Academy)」があります。本社と工場が敷地内にあり、ファーバーカステル(Faber-Castell)城の最上階の屋根裏部屋にアトリエがあります。そこで朝9時から夕方6時までさまざまなカリキュラムとレベルに分かれた講義が行なわれています。現在城は改修され、企業のパーティ等が行なわれているようです。訪れた日の翌日には、伯爵の甥の結婚式の準備が行なわれていました。

ファーバーカステル城で絵画アカデミーが開催されている。
 工場はおもちゃのようにかわいい外観で川の水を利用した水力発電、鉛筆の軸部分のおがくずを火力にするなど、エコ、リユースが徹底しているばかりでなく、顔料に関しても常によりよい原料を追求し(水彩色鉛筆に関しては退色に対して最高レベルだと思います)、工夫を取り入れ、また環境に悪いものは改善するなど(軸塗料を水性顔料に変更)随所に伝統を守りつつも新しいものを取り入れています。私自身もその企業精神にとても感銘を受け、Faber-Castell アドバイザーとして関われることを嬉しく思っています。

水力発電で回している、昔からの工場。

工場の入り口の門に、世界で最も有名な鉛筆<カステル9000番>がデザインされている。今でも鉛筆の芯の基準も発売当初とほとんど変わらない。

ニュルンベルクはドイツのベニスというだけあって、ベニスの橋職人が様々な橋を造っていったらしい。

川全体の感じをいれたかったので、視点を上にする為、こんな所でも描いていた。
ドイツでの旅先スケッチ
 天気が良い日には戸外でのスケッチ講座もあり、一日に思う存分、今回は5枚ほどの絵を描いていました。実際にドイツで描いた私の作品を何点かご紹介しましょう。
『zum cafe』

太いペンを使うと強弱がでて、メリハリをつけやすい。
『nurnberg』

黒のピグメントを使用。水の反射をよく観察して描く。
(※ピグメント:乾くと耐水性がある水性顔料のペン)

↑Clickで拡大↑
↑Clickで拡大↑
『blue cafe』

油性の色鉛筆を使ってささっと描いた作品。
主役の椅子とパラソルをポイントに。

『nurnberg market』

細い茶ペンで何本も重ねて華やかさを出した。
↑Clickで拡大↑
↑Clickで拡大↑
*『はじめてさんのおでかけ水彩色鉛筆Lesson』(マール社2009年6月発行より)

第2章 旅先スケッチに挑戦!
画材は最小限にして旅にでよう
 旅先では画材は極力少なく、持ち運びも管理も手軽にできるものを準備しましょう。水筆、水性顔料ペン、鉛筆(2B)、練り消しゴム、水彩紙、パレット、ティッシュ、水彩色鉛筆が基本です。

アートグリップ水彩色鉛筆(缶入り)
人間工学によって考案された三角形のボディに、特許を取得しているソフトグリップ(ドット状の滑り止め)がついている。


アレヒトデューラー水彩色鉛筆(木箱入り)
高級感のあるマホガニー調の木箱に入ったセット。

*詳細はこちら
水彩色色鉛筆の使い方の基本3種
 最近、画材店のみでなく文具屋や本屋でも見かけるようになった、水彩色鉛筆。手軽に画材として、文具として楽しめる、まさにスーパー画材です。水でとける色鉛筆ならではの使い方をご紹介します。

atelier AQUAIRの基本3種
ドライ=乾いた色鉛筆で直接
ドライ+水=ドライのあと水筆で
ウェット=ぬれた筆でとって


スキー&スケッチ旅行 to リゾナーレ小淵沢
 今年の2月に家族とスキー旅行へ行ってきました。八ヶ岳山麓に位置するリゾナーレ小淵沢は、年中愉しめるホテルです。5月には花を敷き詰めるイベントもあり、スケッチ旅行としてお勧めの場所です。私も何度かスキーを滑った後で、子供たちがスキーを愉しんでいる間にスケッチもしてきました。ささっと描いて時間をかけずに気負いすぎず、疲れる前にやめるというのが長く続ける秘訣でしょうか。

ペン描きが終わったら、イメージに合わせて水彩色鉛筆で色をつけていく。
↑Clickで拡大↑

スケッチブックを立てて、片目をつぶり、時々実際の風景を見比べながら描く。

 写真と見比べていただくと分かると思いますが、風景画を描く時には全てがひとつの点(消失点)に向かっているということを意識することが大切です。遠近法の手順は、2009年6月に発売される『はじめてさんの水彩色鉛筆Lessonおでかけ編』(マール社)に分かり易く載せていますので、是非ご覧いただければ納得するところが多いと思います。
風景画の描き方レッスン
 スキー場から見える編笠山(あみがさやま)を望む風景画を水彩色鉛筆でスケッチしてみました。今回は男性の方を対象に、力強いタッチが出せる「ビッグブラシ」という太ペンを使った風景画のスケッチの手順をご紹介します。 ビッグブラシがない場合には、水性顔料ペンや鉛筆でも異なった画風が愉しめますが、油性のマジックペンは滲みすぎるので、水彩紙には不向きです。実際に描いてきた旅先スケッチの手順をみてみましょう。

■編笠山
八ヶ岳を構成する山の一つ。標高は2,524m。八ヶ岳の最南端に位置する山である。

天気がよく山頂の雪が光っている編笠山。

完成したイラスト。絵の下の色は使用した6色。
↑Clickで拡大↑
下絵をとる






鉛筆であたりをとる。鉛筆は3分くらいで終わり。
細かいところはペン(ビッグブラシ)を使って、手前のものから描いていく。木々の枝は生えている方向に。
前景のうしろの中景を描いていく。ペンの筆圧を前景よりもやや弱く。






遠景の編笠山を下から上へ描いていく。
ポイントは山頂。せっかくの雪山はラインをひいてしまうと雪感が消えてしまうので、後で青空の青で表現するようにする。これでペンでの下書きは終わり。
練り消しゴムで鉛筆のラインを消していく(ゴミが出ないのでスケッチには必携)。
ドライ+水で中景を描く






中景の木立ちに水彩色鉛筆で3色入れ、丘の部分はやや明るめに。その後前景の草を下から上に生えている感じを意識して筆圧を強く入れていく。第一弾のドライはこれで終了。
丘を水筆で水を入れていく。上から下へ。薄いほうから濃いほうへ。
下から上へ、筆を立ててドライのタッチを損なわないように水を入れていく。


あまり横動かしにべったりいれすぎるとせっかくのタッチがつぶれてしまうので、飛び飛びに入れる。
ドライ+水で仕上げる。
ウェットで遠景を描く



ウェット(パレットの上に水筆で色鉛筆の色を出す)で下から色入れ。雪の部分は入れすぎないように。
たっぷりとったウェットで空を描く。山際に少し濃いめに入れる。
実際の風景と水彩色鉛筆画を見比べてみる。
ドライ+水で前景を描く


前景の唐松をドライで入れる。(背景を処理しているので唐松を通して山が透けて見える感じがよい。)
水筆で毛先をたてて、たたきながら溶かしだす。
色々なものを描いてみよう!
 いきなり景色は難しいと思う方は、目の前にあるものから描いてみましょう。たとえばホテルのレストランの素敵なディナー、お土産に買ったもの、やったこと、お部屋の間取りなどを組み合わせただけで素敵な想い出アルバムになります。ポイントは周りの白を残すこと。言葉をたくさん書くこと。絵日記の気分で自由に描いてみましょう。失敗なんてないのです。

八ヶ岳高原で買ったもの、食べたものをいろいろと描いてみた(但馬家幸之助にて)。
↑Clickで拡大↑
■但馬家幸之助
〒408-0044 山梨県北杜市小淵沢町1549-5
営業時間:11:00~ 14:00 17:00~22:00
TEL:0551-20-5400
URL:http://tajimaya81.net/

イラストに絵日記を書くように言葉を添えると、そのまま旅の想い出アルバムになる(リゾナーレ小淵沢にて)。
↑Clickで拡大↑
■リゾナーレ小淵沢
〒408-0044 山梨県北杜市小淵沢町129-1
TEL:0551-36-5111
URL:http://www.risonare.com/
車:新宿I.Cから小淵沢I.Cまで車で約2時間
  小淵沢I.Cより車で3分
電車:新宿から小淵沢駅まで中央本線特急で約2時間
    小淵沢駅より車で3分(送迎バスあり)

第3章 スケッチライフの愉しさ
 スケッチを始めると、ものを見る目が変わったと受講者の方々はおっしゃいます。この木はどうやって描こう?色は?質感は?葉の向きは?形は?花の色は?などと、どんなふうに花や葉がついているのかに集中して観察します。絵を描かない限り、たとえばガラスの窓を熱心に観察することなどはないでしょう。このように試行錯誤して描いたものは必ず自分なりの技法となります。知らず知らずのうちに、はじめて描いた時とは違う技法を獲得しています。そして、記憶から再現して描くこともできるようになります。
 一日のうちで、何時間か費やしてものを描くことで、いろいろな情報をインプット、そして自分なりにアウトプットしているのです。一度描いたものは愛着を覚え、自分の技法になったように思えるのです。世界中に自分のお気に入りの場所やものがあるなんて、なんて素敵なことでしょう。
 私は現在、中2と5歳の子育てと仕事で毎日笑いが出るほど大忙しです。絵を落ち着いて描いている時間が殆ど取れないことがあります。だからこそ、また絵を描きたい、ちょっとでも時間があれば絵を描きたい、という思いが強いのかもしれません。この間も、ほかの仕事の締め切りが迫っているにもかかわらず、下の子どもが通う幼稚園の卒園生の絵を思わず描いていました。その子どもたちの喜ぶ顔がみたかったから。それをみてくれたお母さんや子どもたちの本当に嬉しそうな顔!自分の絵でこんなにまで人に喜んでもらえるなんて、嬉しい限りです。喜んでくれる人たちがいる。自分の絵を見てくれる人たちがいる。本当にそれが愉しみで描いています。もちろん、絵を描いている自分が一番愉しんでいるのです。是非、自分と周りの人も巻き込んで水彩色鉛筆を愉しんでみてください。皆様にとって、水彩色鉛筆が、生きる愉しみのひとつになりますように…。
atelier AQUAIR 杉原 美由樹
インフォメーション

『はじめてさんのおでかけ
水彩色鉛筆Lesson』
(マール社2009年6月20日発行)
著 者:杉原美由樹
定 価:¥1,400(税別)
商品詳細はこちら
 誰でも簡単にスケッチができる、目からウロコの入門書『はじめてさんの水彩色鉛筆Lesson 超初心者編』に続く第2弾。本書には、時間をかけずにスケッチするコツやヒントが満載。水彩色鉛筆によるスケッチの描き方を、筆者がひとつひとつ丁寧に指南しています。基本から応用テクニックまで、この一冊でマスターできるでしょう。
 さあ!あなたもはじめてさんと一緒に水彩色鉛筆をカバンに入れて、スケッチ散歩にでかけませんか。
杉原 美由樹プロフィール

横浜生まれ。青山学院大学卒業。日本航空国際線勤務を経て【atelierAQUAIR】主宰。Faber-Castell アドバイザー。
6歳から水彩、木炭デッサン、油絵を学びアメリカVBHSにてpen&ink、photoDP、水彩を学ぶ。カラーコーディネーター2級。
1997年より旅先スケッチ教室講師。横浜、東京等で展示会。
雑誌、本のイラストを担当。結婚式やペットのイラストも受注。
2007年、Faber-Castellアカデミードイツ受講。
2008年、『はじめてさんの水彩色鉛筆Lesson超初心者編』
(マール社)刊行。
2009年、『はじめてさんのおでかけ水彩色鉛筆Lesson』
(マール社)6月発行。

●杉原美由樹展
会 期:2009年9月23日~30日 / 会 場:銀座ギャラリーTACT

●講座
銀座エコールプランタン / 港北カルチャー(港北東急7階)/
JALアカデミー(10月開講)

●連絡先
atelierAQUAIR
http://www.geocities.jp/aquair_m_sugi/