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カメラを旅の相棒に!『旅写真』を愉しもう

第1章 旅写真の魅力 第2章 写真撮影のコツ 第3章 旅写真の実例さ
第1章 旅写真の魅力
—まず、矢野さんが「旅写真」を撮るようになったきっかけについてお聞かせください。
矢野氏(以下、敬称略):もともと私はライターとして文章を書く仕事をしていました。2000年の春に、初めて共著ではなく自分の本を作る機会に恵まれ、自分の好きな鉄道の旅の本を企画しました。その時、担当の編集さんに「矢野さんがイメージする鉄道の旅を写真で撮ってきてください」と言われ、カメラを持って旅に出たのが始まりです。その時撮った写真の中に、旅をしている4人の女性が車両の横で笑いながら敬礼しているものがあり、その楽しさが私のイメージする鉄道の旅でした。その思いは編集さんにも伝わり、その写真が本の背表紙になったのです。写真って、すごく愉しいものだなって思いました。

—鉄道の旅が好きだったのですね。
矢野:そうですね。生まれて初めての一人旅は、小学校高学年の時でした。札幌駅まで父に車で送ってもらい、祖父母の家がある砂川まで約2時間の鉄道の旅。列車の中では乗り合わせたお客さんからお菓子をもらったりして、愉しかったことを覚えています。
—鉄道の旅の魅力は、どんなところにありますか。
矢野:乗ってしまえばこちらのもので、居眠りしていても、ビールを飲んでも、おしゃべりしても、ボーッとしていてもいい。目的地に着くまでは自由時間を愉しめるところがいいです。乗っているだけで、知らない街や四季折々の風景に出会えるのも魅力です。
—ところで、写真を撮り始めてから、1年後に写真展を開かれたそうですね。
矢野:フィルムの現像をお願いしていたラボ(現像所)が、ギャラリーを併設していたのです。それで、撮り始めて3か月目くらいに写真展をやらせてくださいとお願いし、その3か月の間に撮りためた写真を見てもらったところ、OKの返事をいただき、翌年に写真展を開きました。

—写真の撮り方はどうやって覚えたのですか。
矢野:ほとんど独学です。家電量販店に行って、写真の撮り方に関する初心者向けの入門書を買い、露出というものがあるんだとか、徐々に学びました。ただ、私はライターとしてカメラマンと組んで仕事をすることが多かったので、撮影に立ち会えたことがいい経験になったと思います。その後も知人のカメラマンにいろいろ相談にのってもらったりしています。
—鉄道で旅をしながら写真を撮る楽しさはどんなところにありますか。
矢野:たくさんありますが、ひとつはサプライズがあるところですね。たとえば、ある無人駅で撮影しようと思って、ずっとシャッターチャンスを待っていたのですが、結局何も撮らずに7時間半ほど過ごしたことがありました。その後、列車に乗ったら、ものすごくきれいな夕陽に出会うことができたのです。その時は、この夕陽を見るために7時間半待っていたのだと思いました。そういう思いがけない風景との出会いがあることですね。

—撮影に付随してくる愉しみもあるように思えます。
矢野:列車内や移動に使う路線バスの中で、一緒に乗り合わせた地元の方と話をしたり、電車の待ち時間が2~3時間ほどできた時、その自由時間をどう過ごそうかと考えるのも愉しみです。また、鉄道に乗って全国を旅していると、美味しいものを食べる機会もあります。たとえば、四国の香川県を旅する時は「うどん」がすごく愉しみです。本当においしいので(笑)。冬に取材旅行をした時は、日が暮れるのが早く、撮影が早く終わることが多いので、駅から遠くても温泉に泊まってのんびりしたり。それも愉しみのひとつですね。

第2章 写真撮影のコツ
 ここでは話を旅写真に限定せず、初心者の方にカメラの選び方、撮り方、撮った写真の活かし方などをご紹介します。写真撮影に関する基礎的な心がまえや知識を覚えていただいて、旅写真の撮影という次のステップに進みましょう。

①撮りたいものを、はっきりさせよう。
 自分の好きなもの、興味のあるものを撮るのが写真上達のコツのひとつだと思います。たとえば万年筆が好きなら万年筆を、オートバイが好きならオートバイを撮ってみる。庭で育てている野菜や盆栽、お孫さんがいるならお孫さん。自分の身の回りにあるものや人を対象にすると、愛情のこもった写真が撮れると思います。反対に、「何かを撮らなきゃいけない」という気持ちで撮るのはつらいです。しばられるとつまらなくなると思うので、自分が楽しんで撮れる対象を見つけましょう。
②カメラ選びのヒント
 何を撮りたいのか、どんな使い方をしたいのかを考えて、自分の撮影スタイルに合った、必要だと思う欲しいカメラを選んでください。最終的に欲しいなと思うカメラが1~3台あって迷った時は、その中から一番高い機種を選ぶという方法もあります。選び抜いた数機種の中から最も高いものを選んだ方が満足できるのではないでしょうか。いま、どのカメラも性能が良くて、悪いカメラはないと思います。メーカーによって特長が違いますし、同じメーカーでも機種によって違います。ですから、液晶画面が大きいとか、操作がしやすいとか、私は自分にとって必要な機能は何かというところからカメラ選びをしています。

③レンズを選ぶには
 カメラの中には、レンズキット付きで販売されているものがあります。レンズキットは、初心者の方が使いやすいように考えられているので、最初はレンズキット付きのカメラを購入するのもよいでしょう。自分でレンズを選ぶなら、たとえば「花を撮りたいのだけれど」と自分の撮りたいものや、どうカメラと付き合っていきたいか具体的な希望をお店の人に相談してみることをお勧めします。また、写真展に足を運んだり、好きな写真集や雑誌を見たりする中で、好きな写真があったら、どんなレンズで撮影しているのかチェックしてみるのも参考になります。
④シャッターチャンスのとらえ方
 旅写真を撮る場合、気持ちが動いたものを素直に撮っていくことを大切にしています。「ああ、いいな」と思った瞬間に、その気持ちとシャッターを押す手が連動しているような感じですね。潮風の心地よさとか、空の青さとか、自分が気持ちいいなと感じたことに対してシャッターを切って作品にできたらいいなと思います。
⑤アングルを変えて撮ってみる
 被写体を真正面から捉えるだけでなく、上下左右さまざまな角度から捉えてみるのも面白いと思います。私も鉄道の車両を撮る時に下から広角レンズで覗いてみたり、駅なら立ち位置を変えていろいろな角度から見つめてみたりしています。
 撮る時間によっても雰囲気が変わります。撮影対象が同じでも、朝と夜で表情が全く違ってきますから。一番心をひかれたものにぐっと近づいてそれだけをクローズアップして撮るのも、ある情景を大きく切り取ってワンショットの中にたくさんの発見がある写真も面白いと思います。ただ、最終的に自分が何を撮りたかったのか分からなくなる中途半端な結果にならないように。そのときに自分が心をひかれたままに、見つめるように、私はシャッターを切っています。

⑥自分の写真に自信を持とう!
 撮った写真は、機会があれば友人や知人など、どんどん人に見てもらいましょう。「いいね」という言葉は励みになると思いますし、自分じゃない人からの感想はいいアドバイスになると思います。時には「この写真のどこがいいのかわからない」といった意見を聞くこともあるかもしれません。でも、決して落ち込まないでください。意見は意見としてありがたく参考にしながら、その写真を撮ったときの自分の気持ちを大切にしてください。旅写真は、「そのとき、その場所にいた、その人にしか撮れない一瞬の情景」。だから面白いものだと私は思います。自分が見つめた瞬間、自分が心をひかれたシーン、それを楽しんでください。それを記憶した自分の写真に、「私はこれが好きなんだ」とまずは胸を張ってください。
撮った写真の愉しみ方
 撮った写真は、ぜひぜひプリントしてください。撮影した画像をパソコンにしまっておくだけではもったいないと思います。一緒に旅をした人とプリントを見ながら思い出話をしたり、それぞれの写真について意見交換したり。気に入った写真を大きく引き伸ばすと見栄えがしますし、また違った発見もあります。また、次のような楽しみ方もあると思います。
1.写真コンテストに応募する
 コンテストという目標を作ることも、撮る愉しみのひとつになると思います。入選時の選評をこれからの参考にできますし、賞に入らなくても自分以外の目線や他の写真の選評に触れることは刺激になります。

2.フォトブックを作る
 撮影した写真をパソコンに取り込み、ネット上で編集して、オリジナルの写真集を作るサービスもあります。金額も2,000円前後からあり、お手軽です。

3.スライドショーを楽しむ
 写真を自動的に切り替えて表示する「スライドショー」。フォトブックと同じく、撮影した写真データをパソコンに取り込んで編集することが可能です。

第3章 旅写真の実例
 旅写真は、「こう撮らなきゃいけない」という決まりがあるわけではありません。撮る人の感性によって、いろいろな撮り方ができます。鉄道の旅を前提に話をさせていただくと、駅、ホーム、列車はもちろん、ホームに咲いているすみれの花や、駅舎の中で赤々と燃えているストーブの火も私にとっては旅写真になるのですね。そういった意味で、シャッターチャンスはたくさんあります。以下は、私が鉄道旅で写真を撮る場合に心がけていることです。
● 風景の中に列車をとらえる場合
 走っている列車を捉えるような鉄道写真を撮る場合には、気に入った撮影ポイントを探して沿線を歩くこともあります。時には森の中に入ったり、夏の炎天下を何時間も歩いたりするので、気力や体力も使います。鉄道の撮影ポイントを紹介した本も出ているので、参考にしてみてください。
● 車窓風景を撮りたい場合
 列車の中から、窓ガラス越しの風景を撮る場合には、基本的にフラッシュをたかない方がよいでしょう。フラッシュをたくと、ガラス窓に反射してしまうからです。
● 危険な撮影行為は絶対に避ける
 ホームで撮影する時には、運転の妨げにならないよう車両に向かってフラッシュをたかない、白線を越えて身を乗り出さないなど基本的なルールを守りましょう。カメラのファインダーを夢中になって覗いていると、足元が見えなくなってしまうので注意しましょう。
旅写真の実例に学ぶ ~矢野直美氏撮影写真より~
実際の撮影写真を例に挙げて、旅写真の撮り方をご紹介します。参考にしてみてください。※クリックで拡大
● 鉄道/車窓風景




● 鉄道/走行風景




● ホームなどの旅写真




乗って、旅して、撮影したい! 秋のおすすめ鉄道路線
全国の鉄道路線の中から、秋の鉄道旅におすすめの路線を、矢野さんにご紹介していただきます。
【1】釧網本線
日本最大の釧路湿原を走り、峠を越えて、オホーツク海沿岸に出る北海道屈指の観光路線。秋には、「くしろ湿原ノロッコ号」というイベント列車が走ります。
http://www.jrkushiro.jp/shitsugennoro/norokko.html
【2】北近畿タンゴ鉄道
沿線には鬼伝説が残る大江山、日本三景のひとつ、天橋立など見どころがいっぱい。車窓には、おとぎ話に出てくるような昔懐かしい風景が広がります。
http://ktr-tetsudo.jp/
【3】伊豆急行
車窓風景が楽しめるリゾート列車「アルファ・リゾート21」が走っています。車窓には相模湾の海原が広がり、爽快な気分に浸れます。終点の下田は歴史が古く、散策するのが楽しい町です。
http://www.izukyu.co.jp/
【4】わかやま電鉄 貴志川線
駅長猫の「たま」がいることで有名。動物駅長を目当てに鉄道旅に出かけるのも楽しいものです。ただし、日曜日はたまがお休みなのでご注意ください。
http://www.wakayama-dentetsu.co.jp/
【5】会津鉄道
お座敷列車、トロッコ列車、展望列車からなる「お座トロ展望列車 会津浪漫号」というイベント列車が走っています。芦ノ牧温泉駅では、「ばす」という猫が名誉駅長を務めています。
http://www.aizutetsudo.jp/
【6】旧片上鉄道
かつては柵原(やなはら)鉱山で産出される鉄鉱を運ぶ鉱山鉄道でした。廃線となった今では、毎月第1日曜日に、片上鉄道保存会が柵原ふれあい鉱山公園で展示運転を行なっています。旧吉ヶ原駅には駅長猫コトラがいます。
※展示運転については、片上鉄道保存会のホームページ(http://www.ne.jp/asahi/katatetsu/hozonkai/)でご確認ください。
【7】肥薩線
2009年11月に全線開通100周年を迎えるJR肥薩線。人吉~吉松駅間を走る観光列車「いさぶろう」「しんぺい」号が人気を集めています。「SL人吉」という蒸気機関車も走っています。
http://www.jrkyushu.co.jp/kumamoto/train/train_izaburo01.html
【8】土佐くろしお鉄道 ごめん・なはり線
路線のほとんどが海沿い&高架線のため、車窓からは松林や広大な太平洋が望めます。風景を楽しむために設けられたオープデッキ車両がほぼ一年中走っています。
http://www.tosakuro.co.jp/
【9】天竜浜名湖鉄道
喫茶店やレストラン、ラーメン屋、ソバ屋などが入った駅舎が多く、駅を巡るだけでも楽しめる路線です。沿線にあるフルーツパークや浜名湖などのレジャースポットもお見逃しなく。
http://www.tenhama.co.jp/
【10】津軽鉄道
津軽鉄道が走る津軽平野は、秋になると金色の稲穂で彩られます。駅員が心を込めて飼育した鈴虫のかごを車内の棚に置き、秋の可憐な美しい虫声が聞ける「鈴虫列車」も9月1日から10月中旬まで運行(鈴虫の成育状況により変動)。
http://tsutetsu.web.infoseek.co.jp/
【11】秋田内陸縦貫鉄道
秀峰・森吉山の山麓を駆け抜けるローカル線で、秋の紅葉時は本当に美しい錦秋の世界が車窓に展開。10月1日(木)から11月29日(日)までは、阿仁合~角館間に臨時快速列車「錦秋号(快速)」も増発。
http://www.akita-nairiku.com/
矢野直美(やの なおみ)プロフィール

北海道札幌市生まれ。情報誌の編集者を経て、2000年より日本全国の鉄道に乗り、写真を撮って取材するフォトライターとして活躍。女性の鉄道好きを表す『鉄子』の愛称でも呼ばれる。2008年より、「鉄道のまち大宮〈タムロン鉄道風景コンテスト〉私の好きな鉄道風景ベストショット」で審査員を務める。現在、アウトドア月刊情報誌『BE-PAL』(小学館)で「鉄子の旅弁」、JTB時刻表で「矢野直美のダイヤに輝く鉄おとめ」を連載中。

主な著書に、最新刊『北海道幸せ鉄道旅15路線』(講談社+α文庫)、『鉄子の旅写真日記』(阪急コミュニケーションズ)、『おんなひとりの鉄道旅 東日本編・西日本編』(小学館文庫)など。主な写真展に、個展『ゆれて ながれて であって』(道新プラザ・ギャラリー)、個展『恋する鉄道』(東京・大阪・札幌キヤノンサロン)など。
公式ホームページhttp://www.yanonaomi.net/