懐かしい歴史の町並み探訪 Vol.16 阿波徳島・吉野川(徳島県)懐かしい歴史の町並み探訪 Vol.16 阿波徳島・吉野川(徳島県)

阿波徳島・吉野川(徳島県脇町/貞光町/東祖谷村・落合)阿波国の町並みを残す藍と煙草の商人町

徳島県の北部を西から東に流れる一級河川・吉野川は、「四国次郎」の異名を持つかつての暴れ川ですが、この流域に四国では愛媛の内子と並ぶ一級品の町並みが残る歴史の町があります。今回は、四国の町並み、吉野川沿いの魅力たっぷりの町、脇町と貞光町を紹介します。

藍商で栄えた卯建を連ねる町並み・脇町(徳島県美馬市脇町南町)

徳島駅から吉野川沿いに走るJR徳島線(よしの川ブルーライン)で西に40km弱、特急で40分の穴吹駅から吉野川北岸に渡ると脇町があります。主要町道の撫養町道と讃岐への町道が交差する交通の要衝で、古くは在郷町としても栄えるとともに吉野川の水運・舟運を利用した物資の集積地として大きく発展しました。

全国的にはあまり有名ではありませんが、この町は脇城の城下町として成立したあと、藍の集散地として発展し、江戸から明治まで脇は鳴門と並び、徳島に次いで阿波国(徳島県)第二の大きな町でした。

藍商で栄えた町も、明治に入って輸入繊維や産業構造の変化、国鉄徳島本線その後の国道も吉野川の対岸に開通して中心がそちらに移り、脇町は急速に衰退。しかし他の伝統的町並みと同様に、結果的にこのことが脇町の伝統的な町並みを残すことになりました。

この町並みの大きな特徴は、町家の両端に本瓦葺きで漆喰塗りの「卯建(うだつ)」が多くみ見られることで、ここ脇町の南町通りでは財力がなければ上げられない卯建が数多く見られます。

現在は明治時代頃のものを中心として江戸中期~昭和初期の85棟の伝統的建造物群=「うだつの町並み」が建ち並び、近世・近代の景観がそのまま残されています。

脇町の卯建は、この連載のVol.9で紹介した岐阜県美濃市の卯建のような「本卯建」ではなく、一階の屋根の上に張り出した厚い壁の上に、寄せ棟造り本瓦葺の屋根を載せて鬼瓦を正面に据えたもので、袖壁に類する「袖卯建」です。卯建だけでなく鬼瓦やなまこ壁など、いずれも本来の機能を超えた装飾が競うように施され、古い時代の繁栄ぶりを現在に伝えています。「袖卯建」と「本卯建」をくらべてみてください。

  • 卯建の家並みが続く一級品の脇町の町並み
  • 鬼瓦を冠した野太い卯建と虫籠窓①
  • 鬼瓦を冠した野太い卯建と虫籠窓②
  • 脇町の袖卯建
  • 美濃市の本卯建

公開されている建物では、寛政四年(1792)築の豪商・佐河屋直兵衛の屋敷、「吉田家住宅」(市指定文化財)が必見。母屋・質蔵・中庭・藍蔵・離れ家の5棟が中庭を囲むように建ち並び、この町並みで一番古い国見家と同じように、表は南町通り、裏は吉野川の舟運にそのまま繋がる広大な敷地を見学できます。

およそ400m強の間に50個もの卯建が上がる南町通りを歩くと、ほぼ完璧なまでに往時の姿をとどめる町並みの状態に、平成の30年間の重伝建の町並み保存に対する脇町の住民・行政の努力が感じられます。大型スーパーや町立図書館、小学校の校舎、郵便局などの公的建物にも卯建が上がっていることにとても好感が持てます。

南町の町並みを抜けて茶の子町通りへ出ると、大谷川の対岸にレトロな「脇町劇場」が建っています。1934年にオープンした同劇場は老朽化によって取り壊しが決まっていましたが、1997年に山田洋次監督の映画「虹をつかむ男」でオデオン座として一躍脚光を浴びたことを機に、町が「脇町劇場」として改修復元したものです。

  • 脇町の玄関口JR徳島線・穴吹駅
  • 430mに50個の卯建のある南町通りの町並み
  • 奥行きのある商家建築
  • 一番古い建物「国見家」
  • 二番目の旧家「田村家」
  • 竹細工の製造販売する「時代屋」
  • 公開建物「吉田家住宅」①
  • 公開建物「吉田家住宅」②
  • 「吉田家」は藍染の土産物店も兼ねる
  • 安政三年創業の野崎呉服店
  • 吉野川の川湊につながっていた道の駅「藍ランドうだつ」
  • 生き残った脇町劇場(オデオン座)

剣山信仰道の重層卯建の町並み・貞光町(徳島県美馬郡つるぎ町貞光南町)

脇町から吉野川の上流・西へ10km余、徳島県の内陸部、吉野川の南岸に貞光の町があります。剣山信仰の登山口として栄えた貞光の町は、脇町と並んで徳島を代表する町並みの一つです。

ここは町の中心が吉野川とは直角方向に展開しているため、幹線国道に潰されることなく古い町が温存。ここから剣山へ向かう一宇町道という枝道は、かつて山間部と吉野川流域とを結ぶ重要な道で、この町道沿いに約1kmに渡って見事な卯建を備えた伝統的な古い商家が軒を連ねています。

藩政期以降、吉野川流域では中流より下では藍の生産が盛んでしたが、この付近がその西端で、煙草や薪、竹材やこんにゃくをはじめ、山間部の商品の取引とともに盛んに流通が行われ、吉野川の水運を介して徳島城下や大坂(現在の大阪)方面とやりとりされていました。

とくに江戸時代には葉煙草の産地として繁栄を極めていて、商人たちはその隆盛ぶりを重厚な卯建を上げることで競い合いました。豪商たちは姿を消したが、卯建は現在もこの町を見守り続けています。

ここ貞光の卯建は脇町の物ともちょっと違います。全国的にも珍しい二層構造で、町には卯建の上がった建物が49軒あり、そのうち17軒が「二層卯建(重層卯建)」になっている壮観な眺め。卯建の正面には「鯉の滝登り」や「松に鷹」など、見事な鏝絵(こてえ)が施されたものも数多く、卯建の屋根の部分もまた美しい軒飾りで飾られています。

  • レトロな佇まいの貞光駅
  • 貞光町の卯建
  • 卯建の家は脇町に劣らない
  • 二層卯建を設えた町家・町並み①
  • 二層卯建を設えた町家・町並み②
  • 貞光独自の二層卯建①
  • 貞光独自の二層卯建②
  • 貞光独自の二層卯建③
  • 茅葺屋根と瓦庇の旧永井家庄屋屋敷
  • 閉館してしまった映画館・貞光劇場
  • 鏝絵の卯建「松に鷹」
  • 鏝絵の卯建「鯉の滝登り」

落合集落(徳島県三好市東祖谷(村)落合)

脇町や貞光のある吉野川沿いの南、山地で隔てられた平家の落人伝説も残る「祖谷(いや)地方」と呼ばれる山間地域に、山村集落・落合集落があるので最後にご紹介します。

祖谷川と落合川の合流点から山の斜面に沿って広がる高低差400mの急傾斜地に、江戸期から昭和初期に建てられた民家や、一つひとつ積み上げた石垣と畑などが展開する光景は、なつかしい山村の原風景を醸し出しています。2005年に重伝建地区に選定されています。

  • 祖谷谷の山村集落・落合①
  • 祖谷谷の山村集落・落合②
  • 祖谷谷の山村集落・落合③

脇町

貞光町

東祖谷落合