懐かしい歴史の町並み探訪 最終回 懐かしい歴史の町並み探訪 総覧懐かしい歴史の町並み探訪 最終回 懐かしい歴史の町並み探訪 総覧

懐かしい歴史の町並み探訪 総覧

今のうちに見ておきたい町並み・集落

旧国鉄が昭和45年から始めたキャンペーン「ディスカバー・ジャパン~美しい日本と私~」は、小京都や萩・倉敷などのクラシックな町並み、妻籠・馬籠などの中山道の静かな宿場などが見直される大きな契機になりました。

明治維新から150年、震災・火災・戦災という災害を乗越えてきた江戸から明治期の「古き良き懐かしい町並み」も電柱が林立し、ビルや新建材の均一的・画一的な家ばかりの町並みばかりになってしまった日本。 都市風景だけでなく、風情ある里山の農村風景も、自然に立ち向かいながら守り続けてきた漁村風景も、開発・近代化の名のもとに、急速に「なつかしい村の風景」が失われていきました。

ディスカバー・ジャパンから50年近く。高度成長の波から続く家屋の建替え、急速なモータリゼーションに対応した道路拡張、少子高齢化に伴う「家」のメンテナンスの困難化など、「なぜか懐かしいな」、「癒される気持ちにしてくれるな」と感じさせてくれる「町並み」を取り巻く環境はさらに厳しさを増して推移してきました。

概して町並み集落は、いつの時代にもそこに住む人たちの生活があり、年月とともに多かれ少なかれ変化し続けるものですが、どんなに情緒ある町並みでも、今のような社会状況の下では短期間で一気にありきたりの今様な町並みに変貌してしまいます。一方で、電線の地中化で電柱をなくしたり、「町並み」を財産として認識したり、町全体で町並み環境の保存に意識的かつ協力して取組む自治体も増えてきました。

全国を旅するうち、有名観光地的な所以外で「今のうちに見ておかなければなくなってしまう!」と感じる貴重な町並み景観が数多くありことを知り、「古い町並みと集落を訪ねる旅」を趣味のライフワークにすることにして十数年。1,800カ所余りの町並み・集落を巡ってきました。

この「懐かしい歴史の町並み探訪シリーズ」連載の最終回にあたって、全国の貴重な町並み集落を俯瞰してお伝えします。

  • 有松(名古屋)
  • 吉良川(高知)
  • 高柳町・荻ノ島(新潟)

「重伝建」は一流の町並み・集落のあつまり

「重伝建」というフレーズはこの連載でも毎回使ってきましたが、「重要伝統的建造物群保存地区」と即座に答える人は、よほどの町並みフリークです。

「重伝建(重伝建地区)」は、文化庁が市町村からの申出を受けて認定する<我が国にとって価値が高いと判断した保存に値する集落・町並み>のことで、いわば「ベスト・オブ・町並み」の集まりです。昭和51年のこの制度のスタートによって、城下町・宿場町・門前町・農漁村など全国各地に残る歴史的な集落群・町並みが文化財として保存が図られるようになりました。

令和に入る前の平成30年12月現在、「重伝建地区」は、北は北海道・函館から南は沖縄・竹富島まで、全国98市町村で118地区あり、約28,000件の伝統的建造物及び環境物件が特定され保護されています。

「重伝建」指定を機に、積極的に町づくりが推し進められ、日本各地で建築的価値の高い建造物群を次の世代に引き継ぐ努力がなされています。このような町並みに足を踏み入れた瞬間、タイムスリップしたかのように子供心に味わった懐かしい温もりと優しさ、そしてゆっくりと時間を刻んでいた人々の暮らしが蘇ってきます。

最近は結構マイナーな所が指定されたりしていますが、昭和51年の第一次指定から昭和54年の第四次選定まで、皆さんおなじみの町14カ所が選ばれています。いわば『王道の町並み』とも言えます。

  • 弘前市仲町(青森県)
    仙北市角館(秋田県)
    南木曽町妻籠宿(長野県)
    塩尻市奈良井宿(長野県)
    白川村荻町(岐阜県)
    高山市三町(岐阜県)
    京都市嵯峨鳥居本(京都府)
  • 京都市産寧坂(京都府)
    京都市祇園新橋(京都府)
    高梁市吹屋(岡山県)
    倉敷市倉敷川畔(岡山県)
    萩市堀内地区(山口県)
    萩市平安古地区萩(山口県)
    日南市飫肥(宮崎県)

文化庁 伝統的建造物群保存地区
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/index.html
文化庁 重要伝統的建造物群保存地区一覧
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/judenken_ichiran.html

  • 弘前(青森県)
  • 角館(秋田県)
  • 妻籠宿(長野県)
  • 奈良井宿(長野県)
  • 白川郷(岐阜県)
  • 高山三町(岐阜県)
  • 倉敷美観地区(岡山県)
  • 吹屋(岡山県)
  • 萩(山口県)
  • 飫肥(宮崎県)

町並みの種類はいろいろ~城下町が好き? 宿場町が好き?

城を中心にして武家町が立ち並ぶ城下町や、町家が軒を連ねる商家町。人々の信仰の対象である神社仏閣周辺には門前町や社家町が形成され、旧街道沿いでは宿場町が昔のにぎわいを伝えています。白川郷に代表される茅葺屋根の残る農村や鄙びた漁村の集落景観にも懐かしさを感じます。

このように町並みと言ってもその種類は、町の成り立ちと歴史、その役割によって実にさまざまですが、大きく区分して次の8つに分類できます。1つの城下町でも、城の近くで武士の住んでいた武家町と宿場町や商家町が一緒になっている場合が多いですし、富山の高岡の城下町のように職人町と商家町の古い町並みがどちらも残っているところもあります。

このような複合的な町並みや農山村集落は、⑤の信仰がらみの町以外は、安土桃山から江戸時代の300年間に士農工商それぞれの生活に根差した村落や町が形成され今に残ってきたものです。明治以降も生き残ってきた、こういった複数の性格を持った町は町歩きの大きな楽しみになります。

また、鉱山として賑った石見銀山から温泉津(ゆのつ)温泉までの「銀の道」は往時を偲ぶロマン街道ですし、木蝋で栄えた伊予・内子製蝋の町の贅を尽くした建築や、製磁の町・有田の「トンバイ塀」など、産業の隆盛は様々な町並みを生み出しました。町の歴史を感じながらの町並み歩きは、単発の産業遺産巡りに比べても興味が尽きないものになります。

武家町(城下町・陣屋町) 弘前、丹波篠山、郡上八幡、津和野、知覧
商家町・商業都市(城下町・陣屋町) 高山、倉敷、近江八幡、川越、佐原、栃木
宿場町・街道集落(特に中山道) 木曽(奈良井、妻籠、馬籠宿)、三重・関宿
在郷町・在方町・産業集落(塩・漆・醸造・織物) 石見大森銀山、木曽平沢、竹原、有田
門前町・社家町・寺内町(信仰集落)・里坊群 京都・上賀茂、滋賀・坂本、大阪・富田林
茶屋町・花町・温泉町 金沢(東山、主計町)、若狭・小浜、温泉津
農村集落・山村集落(茅葺・瓦葺民家) 富山・五箇山、京都・美山、竹富島、渡名喜島
港町(特に北前船寄港地)・漁村集落 函館、神戸、佐渡・宿根木、丹後・伊根浦

私の好きな町並み・集落ベスト15

全国の町並み巡りをしているのを知っている人から、「どこの町並みが一番良かった?」とか、「これだけは是非!という所を教えて」とかよく言われますが、118の「重伝建地区」を始めとして、「いいな!」と思える日本全国数百か所の町並み・集落から何か所かを選ぶのは至難の業です。

それでも今回このシリーズを終えるに当たって、セレクト作業は不可欠と考え、「また行きたい好きな町並み・集落15カ所」を強引に選んでみました。選定基準は全くの独断ですが、別格の京都市内や高山・金沢・倉敷・萩などのメジャーなブランドの町並みは除いて選んでいますので、旅の参考にして頂ければ幸いです。

川越や近江八幡以外はあまり有名でないかもしれませんが、それぞれの町並みが「古き良き日本」をしっかりと受け継いで、昔ながらの生業を軸に先祖代々の家や町並みを守っている姿に感心させられる所ばかりです。一部を除いてへんぴな所ほど住民の高齢化と過疎化の波は容赦なく押し寄せていますが、観光をはじめとして町おこしに真剣に取り組んでいる姿が垣間見られます。

私の好きな町並み・集落ベスト15(★この連載で掲載の町並み)

竹原(広島県)
製塩業で富を重ねた重厚な家々の連なる「浜だんな」の町並み
関宿(三重県)
旧東海道の中では最も当時の姿を今に留めている2㎞に亘る宿場町
吹屋(岡山県)
高梁の奥、明治時代の三大銅山だった鉱山町。紅殻格子の町並みが渋い
脇町(徳島県)
吉野川沿いの藍商で栄え、立派な袖卯建の連なる一級の町並み景観
渡名喜島(沖縄県)
竹富島と同じ島の石灰岩石垣と赤瓦の屋敷地のある農村集落
海野宿(長野県)
養蚕業で重厚さを増した北国街道沿いの宿場町の風情が色濃く残る
奈良井宿(長野県)
妻籠宿や馬籠宿より静かな宿場町の風情が残る木曽11宿のひとつ
美濃(岐阜県)
長良川舟運で栄えた立派な本卯建が豪快にあがる町並みの商家町
五箇山(富山県)
越中五箇山(相倉・菅沼集落)の萱葺農家の山村集落。世界文化遺産
伊根浦(京都府)
丹後半島の漁村・舟屋集落。軽船「ともぶと」格納の舟屋が連なる町並み
今井町(奈良県)
一向宗の寺内町から江戸期に商業都市へ。重厚で繊細な町家が並ぶ
美山・北(京都府)
日本一の北山型の茅葺民家が集まる「カヤブキの里」
内子(愛媛県)
木蝋の生産で富を重ねた豪勢な町並み。現役の芝居小屋「内子座」がある
近江八幡(滋賀県)
八幡掘が時代劇の撮影に使われる城下町・商家町。近江商人の故郷
川越(埼玉県)
東日本随一の蔵造りの街。川越藩の城下町。新河岸川の舟運で繁栄