関ヶ原合戦の“上田攻め”。真田父子が豊臣陣営と徳川陣営に分かれました。真田家の存続のために仕方がなかったのでしょうか。
真田昌幸・幸村(次男)が豊臣方、信之(長男)が徳川方につき、父子が敵味方となって戦った上田城。東虎口櫓。
土屋:先生は取材していて、真田信之をことのほか好きになったようですね。信之は昌幸よりさらに先見の明があったと評価し、最終的には信之が徳川に与することで真田家は存続することができたのです。
父子が別れ、真田昌幸は上田へ戻る途中、沼田城を訪れた。その時、信之の妻・小松は舅の昌幸の入城を厳然と拒みました。
土屋:昌幸が城に立ち寄る前に、父子が敵味方に別れたことを、信之が小松に知らせたことはさすがですね。
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池波作品は読んでいるうちに、その魅力に惹きこまれていく感じがあります。
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作品を深く読みこなしている土屋館長。さまざまな角度から池波文学の魅力を語る。 |
土屋:私は池波正太郎が好きというのではなく、先生の作品一つひとつが好きです。リズム感があって読みやすいのも魅力のひとつですね。漢語とひらがなのバランスがきれいな文章を形づくっていて、短い会話の中に内容が詰まっている、それが強く記憶に残るのではないかと思います。
物語の中で自然の情景を描くのが巧みで、想像力をかきたてられる楽しさもあります。
土屋:作品の中にはよく植物も登場します。多く登場するものは、「朴の木」の花の香り。これは女性の香しさに喩えられたり、香りが重要な役割を果たすことがあります。丹念な取材から生まれるこんなことも池波文学の魅力だと思います。
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先生はまるでその場面にいたかのように、非常に細やかでリアルな描写が多いです。
土屋:作品には忍者たちの「忍び小屋」がよく登場します。そうした場所を先生は地図上で見つけて、そこを実際に訪れ、その場所を忍び小屋に設定しています。取材を綿密にされているので、描く場面がリアルになるのですね。「その先に朴の木があってね」と書かれる時、先生の頭の中にそういう場面が浮かんでいるということでしょう。そういうことがわかって、さらに読書の楽しさが増えました。
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書くものと自分が歩いたものと一体になっているリアル感がありますね。
土屋:池波先生は作品の中で読者サービスもしていますね。『真田太平記』という歴史的な時代を描きながら、そこに現在の風景をオーバーラップさせたりしていますが、そこにあまり違和感がありません。それがまた魅力にもなっていますね。
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館長になられたいきさつをお聞かせください。
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地域の文学や歴史を学ぶサークル活動が池波作品に触れるスタートに。 |
土屋:私はふつうの主婦です。戦後長野県では、本を入手できない時代に、回し読みをする“母親文庫”の活動が始まり、時代を経て、読書をもっと学問に、という母親たちが“社会教育大学”を創設し、地域の文学や歴史を学ぶサークルが生まれました。私もここに参加することで、文学が好きになり、たまたま池波正太郎の記念館ができるということで、『真田太平記』を勉強しました。それがこの仕事のきっかけになりました。企画を担当するようになり、その後館長になりました。
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「池波正太郎真田太平記館」の人気コーナーはどちらですか。
常設展示室:「池波正太郎コーナー」と「真田太平記コーナー」に分かれ、貴重な資料が展示されている。
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ギャラリー:商家の蔵を改修して造られた。風間完の『真田太平記』挿絵原画17点を展示。
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忍者になった気分で洞窟に入ると、『真田太平記』に登場する「草の者」の世界が、からくり絵で楽しめる。
土屋:
やはり、池波先生を知ることのできる2階の常設展示室が人気です。シアターも評判がいいですね。『真田太平記』を読まれていない方のための「真田太平記の世界」や、「徳川の上田攻め」を切り絵で描いた作品も人気です。「池波正太郎のエッセイで綴る城下町」は、池波先生の言葉とともに皆さまに愛されています。からくりボックスのある「忍忍洞」は、子どもたちにも人気です。
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来館者の状況はいかがですか。
ギャラリー(右)とシアター(右奥):土蔵風の白壁や上田城の石垣を模した壁が趣き深い。
土屋:年間入場者は年々増加しています。当初は年間約2万2千人でしたが、昨年は約3万人。男性も女性もほぼ同数。最近では団塊世代の方が多くなりましたが、20代~60代まで同じくらいの割合で来館されるのも文学館としては珍しいことですね。
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普遍的に多くの人たちに親しまれているということですね。
交流サロン(1F):喫茶「ル・パスタン」煎れたての美味しいコーヒーを飲みながら、池波文学の世界に浸るのも心地良い。図書・グッズコーナーがあり、交流サロンだけの利用は入館無料。
土屋:
池波作品はどの年齢層の方にも対応できるのです。もうひとつ驚いたのは、20代の女性が『仕掛人・藤枝梅安』を好きだということです。この方たちは、池波先生の文章や言葉、主人公の生き方などに純粋に惹かれているんですね。活字離れと言われて久しいですが、嬉しいことです。思わず手を叩いてしまいました。
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「池波正太郎真田太平記館」の今後のイベントの予定をお聞かせください。
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館長として企画展や執筆に活躍する土屋郁子氏。 |
土屋:来年は開館10周年なので、大きな企画を予定しています。昨年は「池波正太郎と信州」などを開催。展示できなかったものがたくさんあります。今年は、池波正太郎「蝶の戦記」展(2007.4.6~9.2)を開催、9月からは「『真田太平記』のまち写真展」(2007.9.15~10.28)、11月には「おれの足音」をテーマに、東京の池波正太郎記念文庫と共同で、「中一弥画のさし絵原画展」を開催する予定です。
また、池波先生と親交の深かった著名人をお招きしてのサロン・トークや、コンサートなども開催しております。多くの皆さまのご来館をお待ちしております。
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池波文学の魅力や『真田太平記』にまつわる貴重なお話しをありがとうございました。
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館は、この地方に幕末から昭和初期にかけて盛んになった養蚕・蚕種をした蚕室造り。中庭にある2棟の蔵も展示館となっている。本館2階の常設展示室には、池波正太郎の作品や遺愛品、自筆画を紹介する「池波正太郎コーナー」と『真田太平記』の初版本や関連作品、創作ノート、映像で紹介する「真田太平記コーナー」がある。館内には交流サロンもあり、充実したスペースとなっている。
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住所 |
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〒386-0012 長野県上田市中央3-7-3(JR上田駅から徒歩12分) |
TEL |
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0268-28-7100 |
開館時間 |
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10:00~18:00(入館は17:30まで) |
休館日 |
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毎週水曜日(水曜日が祝日の場合は開館)・祝日の翌日
(※8~10月は無休)・年末年始 |
入館料 |
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一般 300円/高・大学生 200円/小・中学生 100円 |
URL |
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長野県茅野市生まれ。上田市の「社会教育大学」創設を機に、池波作品に傾倒する。平成9年に「池波正太郎真田太平記館」の設立準備に関わり、平成12年4月~平成13年12月館長に就任、平成19年に再就任し現在に至る。館の企画展以外に「池波正太郎真田太平記館in大阪城天守閣」展(平成19年7月28日~9月2日開催)に携わる。著書に『和田村と文学』(和田村教育委員会)、共著に『池波正太郎が残したかった「風景」』(新潮社)、『上田市誌―上田の風土と文学』(上田市誌編纂委員会)、『千曲川ものがたり』(郷土出版社)など。
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池波正太郎と言えば、『鬼平犯科帳』『剣客商売』をはじめ多くの時代小説の大御所としてあまねく知られている。なかでもNHK水曜時代劇『真田太平記』の波乱万丈の展開は、視聴者は画面に吸い寄せられたように手に汗握って見ていた人も多かったはずである。
今回、その『真田太平記』をテーマにした「池波正太郎真田太平記館」を訪ねた。作者の池波正太郎の資料を集め、それだけでなく映像コーナーや忍者を紹介する人形劇など工夫が施された会場は興味深く、また楽しい記念館でもある。その「池波正太郎真田太平記館」においてのインタビューであった。館長である土屋郁子氏はやわらかな物腰と語り口で記念館の姿を幅広く語っていただいた。話の節々に館を運営する責任感と自負、そして日本人の代表的作家に対する尊敬と憧憬の入り混じった思いを語っていただいた。
インタビューを終えても、土屋館長と池波作品についてお話を伺い、仕事だということを忘れそうになるほどの喜悦の時間を過ごせたことはありがたいことであった。また、併設されているティールーム「ル・パスタン」の特製ケーキと香り豊かなコーヒーの味は特別なものがあり、もし池波先生がご存命中ここでひととき休まれたならば、なんと著作に書かれたのだろうか。今もって池波正太郎の早すぎる生涯を残念に思い至った。(吉江記)