年輪を重ねることはそれなりに愉しい人生年輪を重ねることはそれなりに愉しい人生

一曲でもいい。日本語の美しい響きを生かして、人々に残る歌を作りたい。
シンガーソングライター 花れん氏
ツール・ド・フランスへの出場を目指し、挑戦を続けるプロロードレースチーム・エキップアサダ。その応援歌「ツール・ド・スカイ」を歌っているのが、シンガーソングライターの花れんさんである。作詞・作曲はもとより、舞台音楽の創作、CMソングの歌唱、ラジオ番組のパーソナリティなどに次々と挑戦し、自分の可能性を広げ続けている彼女に、歌への思いや今後の目標を伺ってみました。
初めてロードレースを見た時の驚きとエキップアサダというチームへの共感から応援歌が生まれた。

まず、花れんさんと自転車レース、
そしてエキップアサダとの出会いについてお伺いしたいのですが。
花れん氏(以下、敬称略):2007年に私の母校・早稲田の創立125周年記念イベントの一環として、国立競技場で日韓のサッカー交流試合があり、早大と韓国・高麗大の校歌を独唱したことがありました。その時のイベント主催者の方から、自転車イベントの司会を頼まれたことが自転車レースと出会うきっかけになりました。それまでは、プロの自転車選手を見たこともなければ、競技の内容もまったく知りませんでした。

初めて見た自転車レースの印象はいかがでしたか。
花れん:とにかくびっくりしたというか、衝撃的でした。「速い」というより、「なんだ、この鳥みたいな選手たちは…」というのが実感で。初めての自転車イベントの仕事では、元・自転車選手でフリーアナウンサーの飯島美和さんとご一緒させていただきました。エキップアサダというチームの存在を知ったのは、彼女に誘われて見に行った国際レースでのことでした。


国際レースを間近で見て、かなり感動されたそうですね。
花れん:私には、選手たちが「低空飛行の鳥」のように見えました。スピード感はもちろんですが、選手たちが走りながら織り成す形がとても面白いと思ったのです。レース中の選手の群れを上空から俯瞰すると、形が絶えず変わっていくわけです。やがてその群れから飛び出してアタックをかける選手が出てくる。まるで鷹みたいに…。


エキップアサダの応援歌である「ツール・ド・スカイ」は、選手たちの走る姿から生まれたそうですね。
花れん:はい。選手たちの走る形から、「雁(がん)の群れのように、一羽の鷹のように」というフレーズが浮かんで、これはもう曲を作らなければと。それに、エキップアサダというチームがとても魅力的に見えたのです。エキップアサダの選手は一人ひとりが独立していて、なおかつ浅田監督の掲げる理想や目標の下に結束しています。
母体が大きいわけではなく、決して恵まれた環境とはいえないのに、ツール・ド・フランスを目指す気持ちを捨てずに頑張っていて、確実に実績を上げている。そんなチームのあり方に共感を覚えたんですね。自分にできることは何だろう、お金は出せないけれど、選手たちに何かパワーを注ぐことはできるかもしれないということで、歌を作ろうと思ったのです。


なるほど。誰かに頼まれて創作したわけではないのですね。
花れん:そうですね。初めてロードレースを見た衝撃やエキップアサダというチームへの感動を元に、何らかの形で選手たちを後押しできればいいなと思って作りました。それで、ライブで初めて披露する時に、後援会の方が見に来てくださって、ぜひこの曲をレースで流したい、チームの応援歌にしたいと言ってくださったんです。


選手たちの評判はいかがでしたか。
花れん:メロディにインパクトがあったみたいですね。「雁の群れ」という言葉も意外だったようで。でも私にとって選手の皆さんは鳥のように見えたんですと言うと、納得していただけました。
なかでも新城選手(当時エキップアサダ所属)は、レース前にモチベーションを上げるために聞いてくださったようで、フランスのブイグテレコムに移籍する時もCDを持って行ってくれました。

ほかに歌に込めた思いがあればお聞かせください。

花れん:選手はどんな思いを背負ってペダルをこいでいるのだろうと考えた時、家族とか後援会の人とか、これまでの自分を支えてくれた人への思いを背負って、風や太陽に抗いながら自分の限界までペダルをこいでいるのではないかと思うんですね。
とくに、ここ一番のふんばりどころで、大切な人の顔が浮かぶこともあるのではないかと思って。そうした選手の思いを想像しながら作りました。


これまでの路線とは、全く違う曲に仕上がったそうですね。
花れん:ほんのりロック感のある曲調で、今までの自分の路線とは全く違う曲ができました。私の音楽をずっと聞いてくれていた人の中には、私のカラーと違うねという人もいましたが、自分としては創作の幅が広がって良かったと思っています。
それに、この曲を作ったことで、音楽だけをやっていたら絶対つながらなかった人たちとつながりができたことはとても嬉しいですし、ありがたいことだと思っています。

自分の詞を書くようになって、日本語のもつ美しい響きに、あらためて気づかされた。

シンガーソングライターとして活躍される前は、ミュージカルをやっていたそうですね。
花れん:大学時代にミュージカルのオーディションを受けて、数年の間にいくつか舞台に関わりました。ミュージカルは歌と踊りと芝居の要素が求められますが、ミュージカルを経験したことで、あらためて自分は歌が好きだったんだと確認できました。

シンガーソングライターになるきっかけは何かあったのですか。
花れん:じつは交通事故に遭って2か月ほど入院しているうちに、筋力が落ちて、リハビリしても後遺症の部分は踊れるほど回復しませんでした。それから自分にできることを、少しずつやっていこうと思って歌に専念しました。
当初はジャズとか、ありものの曲を歌っていました。その後、ル・クプルという夫婦ユニットでギターを弾いていた藤田隆二さんと組むことになりました。その時に初めて自分で14~15曲分の詞を書いたり、J-POPといわれる曲を作って歌い始めたのです。今思うと、この時期が私のシンガーソングライターとしての土台になっています。

いきなり歌詞を書くことになって、戸惑いはありませんでしたか。
花れん:どうしても書かなければならない状況だったので、何も考えずに集中しました。日記などの文章とは違って、歌詞は言葉の数が限られているし、選び抜かれた言葉を使います。そこで日本語は難しいと思うと同時に、なんて美しい言葉なんだろう、漢字とひらがなの組み合わせってなんて綺麗なんだろうと改めて気づかされたんです。

その気づきが、現在の花れんさんの作詞に影響を与えているのですね。

花れん:そうですね。綺麗な日本語を使いたい、書いても綺麗、言葉に発しても綺麗、そんな日本語をつづりたいという思いは、いつも持っています。歌い始めた頃、英語の曲ばかり歌っていたので、日本語の発音がまずいと指摘されていました。ピーとかパーとかティーとか破裂音が強すぎると。確かに昔の音源を聞いてみると、なんてまずい日本語の発音をしているのだろうと思います。

ところで、普段はどのように作詞をされているのですか。
花れん:たとえば、人と話している時や映画を観ている時、全く脈絡のない言葉が頭に飛び込んでくるんです。その言葉を携帯電話にメモして、自分のパソコンにメールします。作詞をする時には、その言葉のストックをパーッと見ていくんですよ。すると、気になる単語が必ず出てくるので、そこからストーリを広げて詞を書きます。たったひとつの言葉を拾って、そこからイメージを広げていくことが多いですね。

花れんさんは、これまでどのような音楽体験をされてきたのでしょうか。
子供の頃によく聞いた音楽などはありますか?
花れん:父がクラシック音楽も好きで、ブラームスやシベリウスのレコードを聴いていました。そのせいか、私もシベリウスの「フィンランディア」という曲が大好きで、とくに第2楽章が好きです。小学生の頃、父に「こんなに澄んだ音が生まれる場所はどこ?」と聞いた覚えがあります。父は地球儀のスカンジナビア半島を指して、フィンランドという国だと教えてくれました。それ以来、フィンランドに行くのが私の夢になり、大学時代初めて行った海外はもちろんフィンランドでした。

好きな歌、好きなアーティストは?

南青山MANDALAライブにて
花れん:母が子守唄として歌ってくれた「翼をください」と、もうひとつは「赤い花白い花」という歌です。こちらは、私が母のお腹の中にいた頃、母がよく歌っていたそうです。詞は短いのですが、とても美しい日本語で、誰でも口ずさめる歌です。
好きなアーティストは、ノルウェーの国民的歌手シセル・シルシェブーです。透明感あふれる声の持ち主で、生まれて初めて買ったCDは彼女のものでした。会ったこともないし接点もないんですけど、歌い手としての私のルーツになっている人です。

現在、タレントの中川翔子さんの曲を作詞したり、CMソングの歌唱やCM出演、ナレーション、ラジオ番組のパーソナリティなど多彩に活動されています。
今後も活躍の場が広がりそうですね。
花れん:最近では新宿・紀伊國屋ホールで行なわれた舞台『相思双愛』の音楽(BGM)を担当させていただきました。今後は映像と音楽のコラボレーションなども手がけていきたいですね。CM出演もナレーションも、全く予想もしていないところからつながった仕事で、どこでどんな仕事に巡り合えるかわからないという楽しみがあります。
仕事については、何かに限定する必要はないと思っています。挑戦したことは必ず自分の音楽に生きてくると思います。今は自分に要求されたことに対して、200%の力を出していきたいですね。自分にできる限りのことをして、誠実に仕事に取り組んでいきたいと思っています。

ありがとうございました。
これからも多くの人を魅了する素敵な歌を作り続けてください。



インタビュー後記

何事にもチャレンジしていく積極性と柔軟性、自分にできることを精一杯やり遂げようとする誠実さとひたむきさ、そうした姿勢がインタビューを通して伝わってきました。今はまだ知名度こそ低いかもしれませんが、透明感のある彼女の歌声は必ずや多くの人の心をとらえることでしょう。この機会に、ぜひ、花れんさんの歌声を聴いてみてください。そして歌の力を、言葉の力を感じてみてください。


花れんプロフィール
愛媛県宇和島市出身。早稲田大学在学中より、ミュージカルなどの舞台を経験後、シンガーとして活動をスタート。2003年、ル・クプルのギター藤田隆二氏との2人ユニット「ブルー・ハンモック」を結成し、楽曲制作を始める。その後、シンガーソングライターとして独立、2006年には「花れん」に改名し、ファーストマキシシングル「古の風」をリリースする。最近はシンガーとしての活動のほか、CM出演、ラジオ番組のパーソナリティ、スポーツイベントの司会、ナレーションなど多彩な活動を展開している。
詳しくは、花れん公式ウェブサイトをご覧ください。
http://karen-flower.com/

CD情報

ファースト マキシシングル
「古の風」(いにしえのかぜ)
2006.7.1 リリース
価格:1,050円(税込)

「古の風」の購入を希望される方は、こちらからお申し込みください。

「古の風」を購入された方に、特別CD-R「ツール・ド・スカイ」をプレゼントいたします。メールでお申し込みいただく際に、「TONTON club(トントンクラブ)を見て注文した」旨をお書き添えください。


ライブ情報

●南青山MANDALAライブ「Golden Sun and Silver Moon」
公演日:2009年6月25日(木)
会場:南青山MANDALA http://www.mandala.gr.jp/aoyama.html
開場:18:30
開演:19:30
チケット:3,700円(1ドリンク付き)
南青山MANDALA
東京都港区南青山3-2-2 MRビル
TEL:03-5474-0411
アクセス:地下鉄銀座線外苑前駅から徒歩5分

●四谷メビウスライブ
公演日:2009年6月30日(火)
会場:四谷メビウス http://www.mebius-yotsuya.jp/
開場:19:00
開演:20:00~20:40、21:20~22:00、22:40~23:20
チケット:2,300円+オーダー
四谷メビウス
東京都新宿区舟町8 舟町ビルB1
TEL:03-3341-3732
アクセス:地下鉄丸の内線 四ツ谷三丁目駅 徒歩3分
都営新宿線 曙橋駅 徒歩3分