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ツール・ド・北海道(9月11日~15日)での個人総合優勝、おめでとうございます。ステージレースの優勝とワンデーレースでは違いがありますか。 |
宮澤選手(以下、敬称略):はい。ステージレースは2日以上レースを行なって、その総合成績で競いますが、レースの初めから終りまで高いレベルで緊張感を保たなければいけません。そこが、1日で勝負するワンデーレースとは違うなと感じました。
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ツール・ド・北海道の表彰式にて |
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北京オリンピックに向けて登りの練習をされたそうですが、それが北海道のレースでも役立ったとか。 |
宮澤 : 北京オリンピックは高低差約600メートルの周回コースを走るということで、厳しいレースになることが予想されていました。自分自身、登りが弱いので練習はかなりしました。そのせいか、北海道のレースでは後半に調子が上がって優勝することができたし、オリンピックの後にフランスで行なわれたツール・ド・リムザンなどのレースでも、すごく調子が良かったんですよ。
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北京オリンピックへの出場が決まった時は、どんなお気持ちでしたか。 |
宮澤 : オリンピックへの出場がゴールではないので、両手を挙げて「やったー!」という気持ちではなかったんです。「よし、行くんだな」という感じで。
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オリンピックに出場されて、得るものはありましたか。 |
宮澤 : あらためて感じたのは、登りの勝負では世界との差が歴然としているということです。オリンピックにしろ世界選手権にしろ、ワンデーレースは結構きついコースが設定されます。日本人は平坦なコースなら十分勝負できますが、登りのきついコースになると世界とは差がある。考えようによっては、まだまだ強くなる余地があるんですね。今後もっと勝ち数を増やし、ワールドカップなどに参戦して、いろんなレースを体験すれば世界との差はきっと縮まると思います。
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そもそも自転車を始めたきっかけは何ですか。 |
宮澤 : 3歳の時に初めて自転車に乗って、すごく楽しくて、その感覚がずっと続きました。小学生の頃は、学校が休みの日はずっと自転車で遊んでいたし、遠く離れた友達の家に出かけたりもしました。中学生になってどうしてもロードタイプの自転車に乗ってみたくて、欲しいなって思っていたら親が買ってくれて。そのうち、たまたまテレビでツール・ド・フランスを見て、自転車レースってすごい!と思ったんです。そうしたら近所でマウンテンバイクのレースがあるから出てみようということになって…。だんだん自転車競技にのめり込んでいきました。
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初めからロードが好きだったのですか? |
宮澤 : どうしてもロードがやりたくて、自転車部のある高校を探しました。本当に自転車選手として頑張ろうと思ったのは高校3年の時。オフロードで行なわれるシクロクロスという自転車競技の世界選手権に日本代表として出場したのですが、その時に東京のラバネロというクラブチームの監督から、うちに来ないかと声をかけていただいて、プロ生活に入りました。
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もし自転車選手になっていなかったら、何をしていたと思いますか。 |
宮澤 : 料理人かな? 高校卒業後にイタリアに留学したのですが、その時に食事が毎日ほぼ同じメニューだったんです。肉が変わったり、パスタが米に変わるくらいで。それがとても嫌で、自分で料理を勉強しようと。やってみると面白いですよ。チームの合宿では、毎日9人前くらいの食事を僕が作っています。
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一時、伸び悩んだ時期もあったそうですが、何か転機になるようなことがあったのですか。 |
宮澤 : 7年前に母親に生体肝移植をして、その後ずっと運動できない時期がありました。体中の筋肉が緩み、膝痛が起きて思うように走れなくなったのです。回復に2年くらいかかりました。その間に十分な走りができずにチームを離れた時期もありました。当時は自転車を続けたいと思う一方で、これ以上やっても周りや親に迷惑がかかるという思いもありました。そんなとき浅田監督からきちんと結果を出して戻ってこないかと言っていただいて。親も応援してくれたので、もう一年やるだけやろうと決心しました。
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浅田監督をはじめ、周囲の人の後押しがあったのですね。 |
宮澤 : しばらくして、福島晋一選手から、フランスで合宿をするので来ないかと誘っていただきました。合宿では、それまで自分が正しいと思っていたことをすべてリセットしました。今までの自分のやり方では結果が出ないのだから、ゼロから出直そうと。そして、すべてを忘れて、からだがボロボロになるまで毎日、毎日走りました。それで合宿明けのレースでなんとか優勝することができ、浅田監督に認めていただいたのです。でも、監督からはさらに1年チャンスを与えるからもっと結果を出すように言われました。その頃から走りでチームに必要な人間であることをアピールでき、結果もついてくるようになったんです。
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我慢と頑張りを感じます。 ところで、今の若い人に対して、何かアドバイスはありますか。 |
宮澤 : 物事にじっくり腰を据えて取り組むことは意外と楽しいことで、ゆっくり時間を使うことが人生を充実させるということを知ってほしいですね。日本人って休日は遊びに行ったり、自分の好きなことをしなくちゃいけない日だというイメージを持っていますよね。何かしないともったいないと。一方、ヨーロッパの人は、休日は家族でゆっくりするんですよ。何もしないんです。僕も最初はその考え方が理解できませんでしたが、最近では何もしないことがすごく幸せだとわかってきました。
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オフはどのように過ごしていますか。 |
宮澤 : 去年は九州、その前の年は温泉旅行に出かけましたが、今年のオフは「何もしない」がコンセプトです。ゆっくり音楽を聴こうかと。僕はオーディオが好きで、今年は以前から欲しかったスピーカーとアンプが手に入ったので、家でずーっとクラシック音楽を聴きます。とても贅沢で幸せな時間です。
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音楽のほかに趣味は? 読書はされますか? |
宮澤 : 料理とスポーツ全般ですね。テニス、サッカー、野球と球技が好きです。読書は、あまりしません。でも、この間から経営コンサルタントの船井幸雄さんの本を何度も繰り返し読んでいます。共感する部分がありまして。会社づくりとチームづくりが似ている部分が結構あって、ひとつの組織として動いていく上で何が大事かがわかるんですよね。