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祖母の都世子さんが創業された、みやこ編物についてお伺いします。 創業のいきさつからお聞かせください。
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編物制作室で従業員に声をかける齋藤都世子さん。 市の産業振興に貢献したとして、益田市の名誉市民に選ばれている。 |
齋藤:みやこ編物のある島根県益田市は、戦時中、祖母が疎開した先でした。編み物が趣味だった祖母は、近所の農家の主婦を相手に、畑の片隅で青空教室を開き、セーターの編み方などを教えていました。それがとても評判がよく、起業のきっかけになったようです。それと当時の益田には産業がなく、女性のために働く場所を提供してあげたいという強い思いがあったようです。
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当時から、フレックスタイム制を導入されていたと伺っています。
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齋藤:小さなお子さんがいたり、家が農業をやっている方の場合、どうしても編み物の仕事を休まなければならない時期が出てきます。そこで、一日の中だけでなく、年間を通して勤務時間に融通が効くように、今でいうフレックスタイム制を導入したのです。みやこ編物では、ひとりの編み子さんが必ず1点すべてを編み上げるシステムを採用していますが、これはフレックスタイム制とうまくマッチしています。おかげさまで編み子さんには長く勤めていただいています。今、最年長の方は87歳。その方は、「私、やめなくていいですか」とおっしゃるのですけれど、「もちろん、やめないで続けてください」と申し上げています。
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会社は、地域密着で営業されているそうですね。
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齋藤:お昼の時間になると農家の方や漁業をやっている方が、その日採れた野菜や魚を軽トラックに積んで会社まで売りに来るのです。それを編み子さんたちが買い求めるという図式が出来上がっていて、これはこれで地域貢献のひとつのあり方ではないかと思っています。
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都世子さんが残された功績には、他にどんなものがありますか。
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特注の原糸を常時70トン以上保有。国産にこだわり、 糸を染めるのも京都の職人に頼んでいる。 |
齋藤:やはり益田市の産業振興に貢献したことが一番大きいのではないでしょうか。他にも、オリジナルの糸や編み機の開発などを通じて生産効率の向上に寄与したことが評価され、1995年に卓越技能者労働大臣表彰(「現代の名工」)を受賞しています。
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海外でファッションショーも開かれたそうですね。
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都世子さんの思い出で、印象に残っていることはありますか。
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齋藤:「女性はいつまでも美しく、かわいらしくなければならない」と言っていたのを覚えています。本人もかわいらしいところがあって、たとえば病院に検査入院した時でも、医師の前に出ていく時にはお化粧直しをするような人でした。祖母は、海外でファッションショーを開くなどその活躍ぶりは華やかで目立っていましたが、じつは謙虚で、どんな方とも平等に接することのできる人でした。そして、ニットを編む人、売る人、着る人みんなが幸せにならなければ自分も幸せになれないと考えるような人でした。そんな祖母でしたから、お客様が皆いい人ばかりなのです。私は、それが一番ありがたく思っています。
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みやこ編物は、都世子さんの遺志を継ぐ形で、 娘、孫と3代にわたって受け継がれてきたのですね。
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齋藤:そうですね。祖母の縁の下の力持ちとなっていたのが、母でした。母は5~6歳の頃から、祖母が仕事で忙しい時には家事を手伝っていたそうですし、祖母が仕事で外へ出ていく分、母が家の中の仕事をしていました。みやこ編物は祖母と母の二人で築いてきたといっていいと思います。
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佳名美さんご自身は、どのようなお嬢さんだったのですか。
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齋藤:生まれた時から編み子さんの中で育ってきたのですが、それはもう、編み子さん泣かせの子供だったようです。編み機を反対に動かすと目が落ちてしまって、せっかく編み上げたものが台無しになってしまうのですが、幼い頃の私はそれを面白がってやるような子供で、随分編み子さんを困らせていたようです。
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ニット・デザイナーには、 なるべくしてなったという感じですね。
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齋藤:そうかもしれませんね。ニット・デザイナーとしては、毎月300点新作を考案しています。また、ファッションショーの演出なども手がけています。祖母の一周忌に、島根県と益田市の主催で行なったファッションショーを演出したり、「風とともに去りぬ」や「上海エクスプレス」などの映画をテーマに、全日空ホテルでファッションショーを開いたりもしています。
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佳名美さんは、映画をテーマにしたファッションショーなども 企画している。写真は、『風とともに去りぬ』をイメージしたもの。
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齋藤都世子ブランドの魅力をあらためてご紹介ください。
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齋藤:身長によって柄の位置を変えるなど、お客様の体型に合わせて作るイージーオーダーであること。肩が凝らないなど着心地を重視していること。そして、最大の特徴はお直しがきくことです。毛玉になりにくく、家庭で手軽に洗濯できるのも特長のひとつでしょう。デザイン的には、流行を追いかけないことを課しています。その結果、いつ着ても飽きのこない洋服に仕上がっていると思います。実際、50年前に購入していただいたニットをお直しすることもありますし、親子3代で着てくださっているお客様もいらっしゃいます。
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製品づくりの上で、心がけていることはありますか。
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齋藤:祖母の代から貫いていることは、すべてを日本国内で作るということです。日本の経済に少しでも貢献したいという思いがあり、これまでも中国で作らないかというお話をいただくこともありましたが、すべてお断りして国内生産にこだわっています。それと、みやこ編物のニットは、家庭編み機を使って織物と同じくらい手間をかけて編んでいます。そうした作り手の温もりをお客様に感じていただきたいと思っています。手作りにこだわっているので、みやこ編物のニット製品は大量生産ができないのです。